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2018年09月09日

【特派員イチオシ旅】時計塔美しいオーストリア、響いたオシムの言葉

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グラーツという街の名前だけを聞いて、どの国にあるかピンとくる日本の人は少ないかも?

グラーツという街の名前だけを聞いて、どの国にあるかピンとくる日本の人は少ないかも?

 世界のあちこちに住み、出張取材も多い朝⽇新聞の特派員が、おすすめの旅行先を写真でご紹介します。今回はオーストリアのグラーツという街から。日本での知名度はいま一つかもしれませんが、時計塔を中心にヨーロッパならではの美しい街並みが広がっています。観光客の数も比較的少なく、静かです。ただ、記者の記憶にこの街が刻み込まれているのは、他にも理由がありました。(朝日新聞国際報道部)

オーストリア第2の都市

 今回はオーストリアから、神谷毅記者。

オーストリア・グラーツ

オーストリア・グラーツ

 「オーストリアといいますと、まず思い浮かべるのはウィーン、次にモーツァルトゆかりのザルツブルクではないでしょうか。ここで紹介するグラーツを挙げる人は、少ないかもしれませんね」

グラーツの中心街

グラーツの中心街

 「実は、グラーツはオーストリア第2の都市。街の中心部は、歴史地区としてユネスコの世界文化遺産に登録され、中世の面影を肌で感じることができます。

 ウィーンから列車で2時間と便利なところにありますが、世界中から観光客が大挙して押し寄せるところではないようで、私が訪れた時、アジアからの観光客にはほとんど会いませんでした」

グラーツの路地

グラーツの路地

 「人口25万と大きな街ではないので、こじんまりして落ち着いています。どこかイタリアを感じさせる路地です」

城山の頂上に立つ時計塔

時計塔までは階段が続いている

時計塔までは階段が続いている

 「街のシンボルは城山です」

城山から街を眺める

城山から街を眺める

 「街の起源は古代ローマ時代にまでさかのぼり、グラーツという名の語源は、スラブ語の『砦』や『小さな城』を意味する『グラデツ』という言葉からきているといいます」

グラーツの時計塔

グラーツの時計塔

 「この城山の頂上に立つのが古い時計塔。グラーツが『時計塔の街』と呼ばれるゆえんです」

時計塔への道のり

城山の階段

城山の階段

 「時計塔まで登っていくには三つの方法があります。階段、ケーブルカー、そしてエレベーターです」

グラーツへのケーブルカー

グラーツへのケーブルカー

 「登る間の断崖には、カフェもありました」

城山にあるカフェ

城山にあるカフェ

 「時計台に至るまで、そしてたどり着いた後にはもっとよく見えるのですが、眼下に広がるのは旧市街の赤レンガ屋根の連なり。まるで朱色の波がうねる海のようでした。

 グラーツのもう一つの別名が『セピア色の街』だということに、うなずきました」

階段の途中から街並みが見える

階段の途中から街並みが見える

 「最初はお昼ごろに登ったのですが、時計塔と、そこからの眺めに惚れてしまい、『これは黄昏れ時、夜も絶対にきれいだ』と確信」

グラーツの街に浮かぶ夕雲

グラーツの街に浮かぶ夕雲

 「結局、3回も登ってしまいました」

グラーツで会った人とは…

 「ただ、ここが気に入ったのは、単に景色がきれいだったからというだけではないかもしれません。その時の私の心持ちが、そうさせたのかもしれません。

 グラーツはプライベートで訪れたのではなく、出張でした。『仕事なのに、よくそんな時間があったねえ』と言われそうですが、ここで会う予定だった取材相手から直前に連絡が途絶えてしまい、心配になって滞在にゆとりを持たせたためです」

イビチャ・オシムさん=神谷毅撮影

イビチャ・オシムさん=神谷毅撮影

 「その取材相手とは、サッカー日本代表元監督のイビチャ・オシムさん(77)。

 数々のクラブチームを強豪に育て上げ、2006年に日本代表監督に就任。その後、脳梗塞に倒れ、2007年末に惜しまれながら監督を退いた方です」

 「取材のテーマは『スポーツと国家の関係』でした。

 今年のサッカーW杯ロシア大会の決勝戦でフランスと戦ったクロアチアは、ご存じですよね? クロアチアは、かつてユーゴスラビアという国の一部でした。ユーゴスラビアは、このクロアチアを含む六つの共和国で構成されていましたが、民族が異なるため互いに仲が悪く、差別もあったといいます。

 オシムさんは1986年から1992年にかけて、ユーゴスラビア代表の監督を務めました。彼は『最後』の監督でした。民族の対立から紛争が起き、ユーゴスラビアという国がなくなってしまったからです」

グラーツの中心街から時計塔が見える

グラーツの中心街から時計塔が見える

 「オシムさんは、こんな言葉でサッカーと国の関係を語ってくれました。

 『今の時代、どこの国の代表チームでも、外国生まれや、外国にルーツを持つ選手たちがプレーしている。

 彼らはチームの仲間と様々な問題について話をし、友になる。これはサッカーにとって大きな進歩だ。民族や人種で分ける必要はない。ベストな選手がプレーする。それだけだ』」

日の沈みゆくグラーツ

日の沈みゆくグラーツ

 「かつての『教え子』たちのことも思い出しながら話してくれました。名古屋グランパスでもプレーした『ピクシー(妖精)』ことストイコビッチ、クロアチア代表のストライカーだったシュケル、イタリアの名門チームACミランで活躍したサビチェビッチ……。私もサッカーをしていたましたが、当時のスター選手ばかりです。

 『私が教え子たちのことを話すのは、なくなってしまったユーゴスラビアという国への郷愁なのかもしれない。だが、郷愁は危険だ。郷愁にすがる者に進歩はない。サッカーは常に前進していくものだ。今日のサッカーより、明日のサッカーは向上している。あなたの仕事だってそうだろう? そして人生も同じだ』」

暮れなずむグラーツの街

暮れなずむグラーツの街

 「オシムさんが話してくれたのは、国、民族、紛争とスポーツの関係、輝かしいスター選手たちとのつながり、そして人生について、でした。

 私が受け止めたのは、国家とスポーツというテーマの重さ、青春時代の思い出、自分の生き方を振り返ること、でした。

 記者になって20年以上になりますが、これほど充実したインタビューには、そうそう出会えるものではありません」


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