ところ変われば品変わる。世界のあちこちに住む朝⽇新聞の特派員が、同じテーマで写真を撮ってきました。毎年5月31日は世界禁煙デーで、日本ではこの日から6月6日までを禁煙週間としています。ということで、今回のテーマは「タバコのケース」。タバコが健康を損なうことへの警告は、世界のどの国でも見られます。ただ、文章が書いてあるだけの日本は、むしろ少数派かもしれません。どぎつい画像を載せている国々がたくさんありました。(朝⽇新聞国際報道部)
日本の警告は文章だけ
案内役は東京・国際報道部の神田大介が務めます。かつては新聞記者というと当たり前のようにタバコを吸っていましたが、むしろ最近では吸わない人の方が多いという印象です。これはどの職業でも同じかもしれませんね。特派員にも吸わない人が多く、そういう場合は売店に行ったり、周囲の人に持っているタバコを見せてもらったりしています。
まずは日本から。私も吸わないので、愛煙家の先輩記者が持っていたものを見せてもらいました。

2005年、パッケージの主な2面の30%以上に、決められた警告文8種類のうち2種類以上を必ず書くことが法律で定められました。
それまでは「吸い過ぎに注意しましょう」といった文句が書かれているだけでしたから、厳しくはなっているわけですが……。

まず文字が目立ちませんし、文章も事実を正確に書いているのはわかりますが、長くてあまり頭に入ってこない感じを受けます。
インドネシアの甘いタバコ
では、東南アジアのインドネシアから紹介を始めます。WHO(世界保健機関)の2016年の統計によると、男性に限った場合、喫煙率は76.1%と世界で2番目の高さ(1位は2002年にインドネシアから独立した東ティモールで78.1%、日本は33.7%)。野上英文記者の報告です。

当地では街角でもどこでも吸っています。新しいビルなどでは、喫煙コーナーがビル1階の出口を出たところなどにあることも。
タクシーの車内も喫煙可。記者にこれ吸いな、とタバコをライター付きでくれた運転手は、その後、自分も吸い出しました。ただ、車内に灰皿がない。どうすりゃいいか聞くと、ドライバーは窓をあけ、こうだと言って、外にポイ捨て。曰く『インドネシア、(ポイ捨て)ノープロブレム。シンガポール、プロブレム』」
ノープロブレムではないと思いますが……。インドネシアの隣国、シンガポールは喫煙マナーに厳しい国で、ポイ捨てをすれば罰金です。
しかし、タクシーでタバコを、しかもライターを付けて客にくれるなんて、喫煙がいかに一般的かを示しているかのようです。日本でもアメやガムくらいはくれますけどね。


がんの悪化した状態と思われる生々しい画像、死を連想させるドクロなど、かなりストレートにタバコの毒性に対して警鐘を鳴らしています。

ほかにも路上の露店、スーパーなどで売っています。18歳未満の喫煙は禁止ですが、販売で年齢確認がなく、子どもがかなり吸っているようです」

私も試しに1本だけ買ってみました。日本と比べて後味が甘い。日本でメンソール系のタバコを吸うとスッとするのに対し、口のなかが飴をなめたような感じになりました」
タバコの「1本売り」は中東やアフリカでも見かけました。
たとえばイランだと、タマゴも1個単位のバラ売りであります。パックでも売っているんですが、バラ売りでないと買えないような貧しい人も少なくありませんでした。タバコにも同じような背景があるようです。
甘い味がするというのは意外です。売っている環境を聞くと、子どもがお菓子の延長のような感覚でタバコを買っていないかと心配になってしまいます。
SP?もタバコぷかぷか
続いてベトナムから、鈴木暁子記者。怒ってます。
路上の小さな店とかスーパー、コンビニなどどこでも売っています。カフェでは1本売りもしています。フィリピンでも同じです。
赤ちゃんの写真の下に書かれているのは『タバコの煙は胎児や幼い子どもにとても有害』
おじさんの咳き込む写真には『喫煙は、ゆっくりと、痛みを伴う死につながる』」

一番驚いたのは、アメリカのトランプ大統領がハノイの大統領府に来て会見をした後のこと。ベトナムのクアン国家主席とトランプ氏が並んで歩き、メディアが近寄らないように後ろについていたベトナム人男性(セキュリティ役?)が、ぷかぷかタバコを吸い始めたんです。それも我慢できないのかと。
何かの列で待っているとき、どこからかタバコのにおいがしていやな気分になることもしばしば。フランスの影響かカフェがたくさんあり、特に男性が朝から晩までお茶を飲んでおり、そこでぷかぷか。まだ分煙、禁煙といった話題は少ないようです。
また、『ここではタバコを吸わないでください』と言葉をかけることをためらう人が多いそうです。理由は、暴力事件などに発展しかねないから。タバコの健康への害については徐々に知られてきているようですが、まだ、周りの人がいやがる、ということに思いが至るひとが少ないようです」
ベトナムの画像も、病床の赤ちゃんややせ衰えた男性など、タバコの害をはっきり伝えようとする意図が感じられます。
それにしても、受動喫煙の被害を考えるどころか、制止すれば暴力沙汰とはとんでもない話。吸わない人にも配慮をし、ぜひ穏便にお願いしたいところです。
「喫煙は殺す」と警告
次はイタリアから、河原田慎一記者に伝えてもらいます。
箱のサイドには『喫煙は殺す すぐにやめよう』とダイレクトに書いてあります。反対側にも『タバコの煙には70以上の発がん性物質が含まれている』と、約半分のスペースを使って書かれています。
紙巻きタバコは1箱4.5~5ユーロぐらいします。キャメルは5.1ユーロ。高価なので、大袋入りの葉っぱと紙を買って、自分で巻いて吸っている人もいます」

その名も『タバッキ』という、タバコと日用品の店で買うのが普通です。街のいたるところにあります。イタリアの喫煙率は22%とのことで、日本(約19%)よりもやや高い程度ですが、数字以上に吸っている人が日本より多く、しかも女性の喫煙率がかなり高い印象です。
あと、喫煙マナーが最悪なのは間違いありません。ローマは特にそうですが、マイ灰皿を使う人はほとんどおらず、みんな道にぽいぽい投げ捨てています。
公共の建物内や公共交通機関の中では禁煙で、それは大体守られていますが、一歩外に出ると公共心がみじんもなくなるのがイタリア人のよくないところだなあと思います」
5ユーロというとおおむね650円くらいですから、日本の1.5倍といったところでしょうか。値段の高さも、喫煙者の数を減らすのに効果があると言われています。しかし、ポイ捨てはいただけませんね。
同じくヨーロッパから、こんどはドイツの高野弦記者。

ドイツは何かと健康志向の国ですが、日本ほど禁煙や分煙が進んでいない印象があります」

1箱6~7ユーロ(800~900円程度)するようです。イタリアよりさらに高いですね。
1箱1000円、2500円…
次はフランス、疋田多揚記者。

表には『喫煙は口内やのどのがんを引き起こす』と書いてあり、横には『喫煙は人を殺す』と書いてあります。写真は器具でがん患者の舌を見せているところです。ちなみに1箱20本入りでぴったり8ユーロ、1050円です。
フランスでは喫煙者の女性が目立つ印象です。人ごみでも。驚くのは、ベビーカー引きながら吸ってる女性がかなり多いことです」
よく見ると「マルボロ・ゴールド」と書いてありますが、もはや商品名を知らせるという役割はほぼ失ったパッケージのように見えます。
そして、さらに値段が高くなりました。フランスだと安ワインは1ユーロからあり、5ユーロも出せば十分においしいものが飲めます。タバコはワインよりも高いというわけですね。
ですが、値段で圧倒的だったのはオーストラリアです。小暮哲夫記者。

健康に悪いものとして多額の税金がかけられており、1箱(20本)で30豪ドル(約2500円)もします!
禁煙歴15年以上の私は買ったことがなかったので、とにかくその価格に驚きました」

全般に物価の高いオーストラリアですが、タバコ1箱で2500円というのはびっくりです。同じお金で家族分の晩ご飯つくれそう。
そしてフランスと同様に、タバコの銘柄名(この場合はWinfield)は、箱の一番下に小さく書かれているだけです。
50年前は「装飾品」だった

こんなパッケージが海外で普通になっていることを知ったら、50年前の日本人はさぞ驚くでしょう。
朝日新聞社が2000年まで発行していた写真誌「アサヒグラフ」(1923年創刊)は、1967年3月24日号で、「カッコいいアクセサリー・舶来タバコ」という特集記事を組んでいます。
舶来という言葉は最近あまり聞かなくなりましたが、外国から渡来したという意味です。
ある青年は「ボクは服飾関係の仕事をしているが、舶来タバコのデザインが仕事に役立つのでいつも買いにくる」といい、またある主婦は「贈りものに絶好ね。第一めずらしくて、きれいでしょ」
(中略)美しい包装や、カラータバコのように変った趣向のもの、つまり国産タバコには求められない舶来タバコの個性が受けているのだろう。

記事ではタバコのケースをずらりと並べ、さながらカタログのよう。コレクションしたタバコに囲まれた男性の満足げな写真も掲載されています。
かつては俳優など著名人がかっこよくタバコを吸っている写真、テレビのコマーシャルもよく見ました。
しかし、WHOの主導で2005年、たばこ規制枠組み条約が発効。これまでに世界168カ国が署名し、日本も参加しています。タバコの広告を原則として禁止し、ケースの少なくとも3割、できれば半分以上に健康への警告を記述すると定めています。
喫煙は決して格好良いことではない。各国のどぎつい画像を載せたケースには、そんな意味があるようです。
次回は、今回ご紹介したものよりもさらに厳しい画像の掲載されたケースをご紹介します。