ところ変われば品変わる。世界のあちこちに住む朝⽇新聞の特派員が、同じテーマで写真を撮ってきました。毎年5月31日は世界禁煙デーで、日本ではこの日から6月6日までを禁煙週間としています。ということで、今回のテーマは「タバコのケース」。近年は、タバコを吸えば健康に害があることをきちんと知ってもらおうと、ケースに警告する文章や画像を載せる動きが世界的に広がっています。ただ、やり方は国によってまちまち。この記事では表現が抑えめの国々を集めました。日本はそんな中でも、最も目立たない国の一つと言えるようです。(朝⽇新聞国際報道部)
警告文の目立たないアメリカ
まずはアメリカの金成隆一記者から。



アメリカは日本よりもさらに目立たない扱い。ただ、飲み屋でタバコが吸えないというのは日本より明らかに厳しいですね。
アメリカは州によって法律が違いますが、公共の施設での喫煙はおおむねNG。飲食店やオフィス、空港や駅など不特定多数の人が集まる場所はだいたい禁煙になっているようです。また、アパートやマンション、さらには公園など屋外でも禁煙とされているところが多くあります。
続いて中国南部の大都市・広州から益満雄一郎記者。
中国もおだやか、台湾で変化

タバコを吸いながら道路を歩く人が多く、火のついたタバコが小さな子どもに当たりそうになっているのを見てヒヤッとしたことがあります。ポイ捨ても横行。吸い殻を入れる箱を持ち歩く人を見かけたことはありません。
特に地方はひどいです。食堂では、足元にタバコの吸い殻や食べかすが平気で落ちています。
一方で、ホテルは禁煙が厳しくなっています。先日、喫煙したら罰金500元(約8500円)というシールを室内で見かけました。ただ、泊まる場所といっても安宿から高級ホテルまで様々あり、徹底されているかどうかは疑問です。
タバコのポイ捨てだけでなく、ゴミも、例えば車の中で弁当を食べた後、車から道路にポイ捨てするケースを何度か見たことがあります。分別回収がないので、燃えるものも燃えないものも全て一つのゴミ箱に入れます。
経済大国となった中国ですが、公衆マナーの意識はまだ低いのが実情かなと思います」

こちらは冨名腰隆記者が日本出張時、北京で買って持ってきてくれたタバコ。やはり表記は控えめです。
ただ、文字数が少なく、活字が大きいので、日本よりは読みやすく感じます。ポイ捨ては、以前に比べると日本ではずいぶん少なくなったと感じますが、それでもタバコの吸い殻を路上で見かけることは珍しくありませんね。
さて、台湾に行くとやや様相が変わってきます。西本秀記者です。

写真のタバコは、日本の銘柄の『メビウス』(旧マイルドセブン)と、『ロングライフ(長寿)』です。
注意書きは、「喫煙は性機能障害をもたらします」「タバコ依存はあなたを一生困らせます」

これまでの国々では文章が書いてあるだけでしたが、画像が加わりました。タバコを牢獄の柵に見立ててみたり、医療用の吸入マスクをつけた子どもだったりと、かなりネガティブな印象です。
それにしても、タバコの名前で「長寿」というのもずいぶんな感じがしますが……。
続いて中東のタバコを見ていきましょう。まずは地中海に面したレバノンから、杉崎慎弥記者。
中東の警告はやや厳しめ

表現が断定調になってきました。次は少数民族のクルド人が多く住むイラク北部の中心都市アルビルから、高野裕介記者。


「喫煙はあなたやあたなのまわりの人に深刻な危害を加える」「喫煙は血流を減らしインポテンツ(性的不能)を引き起こす可能性がある」と英語で書かれています。かなり直接的な言い方です。
これに比べると日本のタバコの警告文は、情報量こそ多いんですが、文章が長すぎて頭に入ってこない感じがします。
ところで、銘柄から見ても、これらはみな輸入品ですね。アルビルのタバコに警告文のあるものとないものが混ざっている様子なのは、もとの国でそれぞれ規定が違うからではないかと考えられます。
現地のタバコは翁長忠雄記者が撮ってくれました。

またしても画像が入ってきました。タバコを持つ妊娠した女性のおなかに、赤ちゃんの顔が大きく写りこんでいます。
さらにトルコから其山史晃記者。

エジプト、トルコとも、警告文と画像でパッケージの半分以上を占めています。もはや銘柄名の方が目立ちません。
中東には水タバコもあります
中東といえばイスラム教徒の多く住む地域。イスラム教は飲酒を禁じていることで知られていますが、タバコを吸うのはOKです。
私(国際報道部・神田)が3年7カ月を過ごしたイランでも、タバコをたしなむ人はいました。分煙の意識はわりとしっかりあって、たとえば食堂でタバコを吸っている人は見た記憶がありません。
ただ、いわゆるタバコ(紙巻きタバコ)と同じくらい、あるいはそれ以上によく見かけたのが、水タバコです。

専用の器具があり、皿の上にタバコを置いて炭をのせ、水を通した煙を吸います。
イランでは「ガリユーン」、エジプトでは「シーシャ」と呼びます。いずれもリンゴ、桃、オレンジ、イチゴなどフルーツの味がついていることが多く、煙を吸い込むと甘い香りが広がります。ジュースやお菓子のようです。

エジプトではカフェやバーで水タバコを吸っている人をよく見ました。ただ、甘いとはいえれっきとしたタバコ。毒性は一般的な紙巻きタバコよりむしろ強いと言われています。
そのため、イランで売っていた専用タバコには警告文と画像がはっきり書かれていました。

デザインは紙巻きタバコと同じようです。ペルシャ語で「喫煙をやめれば、健康と長生きにつながる」と書かれており、パッケージの約半分を警告画像が占めています。

中国で密売、北朝鮮タバコ
最後は平賀拓哉記者から。初めて見る人も多いのではないでしょうか、北朝鮮のタバコです。


なお、北朝鮮ではタバコはぜいたく品で、庶民には買えません。農村部ではたばこの葉を紙で巻いてそのまま吸う人もいるそうです。ちなみに金持ちの間では日本製のタバコが人気で、セブンスターは1箱1000円程度の価格で売られ、ピースも人気があるそうです」
警告文としては、ここまで見てきたタバコの中で最も弱めの表現です。
しかし、月収が1万3000円もあれば富裕層、所得が全くない世帯も4分の1を占めるとされる北朝鮮では、タバコを買うのも大変でしょう。まして1箱1000円のタバコなんて、買える人は相当限られそうです。
そういえば、金正恩氏は病院の視察中にもタバコを吸うほどのヘビースモーカーとして知られています。日本のタバコを吸うこともあるんでしょうか。
ここで改めて、日本のタバコケースはこんな感じです。

妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。」
というわけで、各国のタバコケースを見てきました。
タバコが吸っている本人だけでなく、周囲の人の健康にも害を及ぼすことは、広く知られています。ただ、これをどう周知するかは、国によってずいぶん違いがあるようです。
日本でも喫煙・禁煙を巡る議論が盛んに行われています。今回の記事が、タバコを巡る問題を考えるきっかけになれば幸いです。