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「慣れてるんで」ヒジャブ姿の中学生が考える「日本人ファースト」

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参議院選挙(20日投開票)を前に、外国人への規制強化や権利の制限を公約に掲げたり、主張したりする政党が相次いでいます。街頭演説でも「外国人問題」と叫ぶ声もあります。でも、いまや町中に日本人と同じように暮らしている外国人は370万人います。当事者はどんな思いで見ているのか、話を聞いてきました。
訪ねたのは都内のモスク。ちょうど夕方の礼拝時間で、室内にはランドセルや通学バックが並び、子どもたちの笑い声が響いていました。
中学3年生の女の子ふたりは、「いつも学校帰りに礼拝に来ます。友達との待ち合わせもここ。休みの日は、プリ撮りに行ったりします」と日本語で話してくれました。
両親はバングラデシュ出身ですが、ふたりとも日本生まれだったり、幼少期から日本で育っていたりしていて、話すことは日本の中学生の話題とあまり変わりません。
そんなふたりでも、先日、「空気の変化」を感じたといいます。
通っているインターナショナルスクールの社会の授業中、先生から「日本人ファーストって言っている政党がある」と聞いたそうです。
「外国人を追い出そう、とか言ってるんですよね」
そんな話を聞いてふたりの脳裏によぎったのは「迷惑系配信者」のことでした。
日本で迷惑行為をする外国人の動画がバズったことを例に挙げ、「外国人のみんなも『なんでこの人、もっと厳しく取り締まらないの?』って怒っています」と語ります。
ゴミはポイ捨てしない、人の迷惑にならない、といったマナーを守って生活してきたふたり。
「日本のルールを守らない人がいると、『おまえらのせいで、こっちも嫌われるんだよ!』ってイラつきます。外国人も外国人で、迷惑な人はいるから」
先生は詳しい内容は話さなかったそうですが、ふたりは「日本人ファースト」と聞いたとき、どう思ったのでしょうか。すると、笑いながら答えました。
「私たち、慣れてるので」
この日も、ヒジャブ姿のふたりが公衆トイレに入った時に、「アラブとかムスリムみたいなの、慣れないよ」と聞こえるように話す人がいたと言います。
「あれ、何も言えなかったよね」と笑うふたり。
「電車でぶつかられて、大きい舌打ちされたりするし。小さいときに、駅のホームでおじさんに足を伸ばして、転ばされたこともある。めっちゃにらみつけてやったんですけど」
〝笑い話〟のように、明るく話すふたり。そんな状況を「慣れている」と言わせてしまう深刻さに、筆者は苦しくなりました。
日本の国政選挙。「どんな国になってほしい?」と尋ねたところ、「別に、日本は好きだから。食べ物も美味しいし、道路もきれいだし。日本はこのままで良いと思う」と語っていました。
モスクから家に向かって帰るふたり。駅前では「外国人問題にメスを入れる!」と叫ぶ演説者の前を、ふたりは何もなかったように、通り過ぎて行きました。
西日本に住む20代の女性は、両親ともバングラデシュから来日して、日本で生まれ育ちました。
参院選が始まる前に、YouTubeで目にしたのは、政治家の切り抜き動画でした。
「日本人ががんばって働いた税金を、外国人がタダで使っている」という内容で、「大半の外国人は日本人と同じように働いて納税しているのに」と思ったそうです。
でも、一度動画を見てしまうと、同様の内容が日々、おすすめで流れてきます。
コメント欄にも排他的な言葉が並ぶのを見て、「こんなことを思っている人が、こんなにもいるのか」と不安になりました。
大学に通う女性はちょうど就職活動が始まったばかりで、「就職で冷遇されるのではないか」と心配します。
普段からヒジャブをしている女性は、中学生の時に、親から「日本国籍を取るのはどうか」と聞かれたそうです。
当時は、「見た目で外国人と分かるのに、国籍だけ日本人になっても」と一度は反対したそうです。
でも、親から「これまで日本人と同じように日本の教育を受けて、暮らしてきた。これからも日本で働いて税金を納め、死ぬまで日本で生きるんだから」と聞いて、納得。一家で日本国籍を取りました。
工学系の勉強をし、将来は日本の生活を豊かにするような開発事業に携わりたいという女性。「私はもう日本人です。バングラデシュのことも知りません」と語ります。
そんななか、もし「外国人排斥」の動きが強まったら――。
「そのとき、私の居場所はどこになるんだろう」
日本国籍をとって、18歳を超えている今、投票することは可能です。でもこれまでは「見た目が外国人だと、投票所で何か言われるかも」という怖さがあり、投票には行けなかったといいます。
今回の参院選は、投票に行こうと決めています。
でも、有権者として重視するのは、「外国人政策」ではないそうです。「日本の経済を良い方に導いてくれそうな人に、一票を投じたい」
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