連載
#13 ここは京大吉田寮
「どうして」が通じる場所 ロンドンから憧れの京大〝吉田寮〟へ
吉田寮生インタビュー ラストの3人目です

築112年の京都大学吉田寮。100人以上が今も暮らすこの寮はいま、退去をめぐって大学側との訴訟の渦中にあります。寮生たちが守りたい寮、そして寮での暮らしはどんなものなのか。ロンドンからやってきた学生は、平等に議論できる風土や多種多様な学生が共生する空間に居心地のよさを感じています。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
<吉田寮 寮生インタビュー>築112年の京都大学「吉田寮」に住む学生たちの暮らしはどんなものなのでしょうか。3人の寮生にインタビューしました。今回は3人目。取材は5月に行いました
ロンドンで生まれ育ち、地元の大学にいる間に同志社大学に交換留学しました。昨年9月から京大農学部で学びながら吉田寮で暮らしています。
4年くらい前から、友人たちと決めた「誠」という名前を日常生活では使っています。
子どものころ、日本のゲームにはまったことがきっかけで日本にずっと興味を持ってきました。
関西弁を使いこなす誠さん。知人に連れられて吉田寮を初めて訪れたのは、交換留学生だった頃でした。
歴史ある建物と、自由に暮らす寮生たち。その雰囲気にひかれて、吉田寮での生活を夢見ていました。
5月下旬から9日間、吉田寮では寮祭が行われました。記者が、毎日行われる様々な企画を取材していると、笑顔で参加している誠さんを頻繁に見かけました。
寮祭の期間に限らず、寮を歩けば誰かが何かをして遊んだり学んだりしている。そこにふらっと参加できる。「寮生活は退屈しない」と誠さんは言います。
吉田寮には1913年にできた現棟と2015年に増設された新棟があります。さらに両棟の間には1889年に建てられ、2015年に補修された食堂があります。
寮の自治会があり、寮に関する物事はすべて寮生間で話し合って決めることで運営されてきました。
そんな吉田寮をめぐって、現棟と食堂の明け渡しを求めて大学が寮生を提訴した裁判が続いています。
2024年2月に京都地裁は、大学が退去要求をする前に入寮した14人は明け渡す必要がないとの判決を出し、寮生側が一部勝訴となりました。判決は、寮生たちが寮の自治に大きな意味を見いだしていると認定しました。
その後、明け渡す必要があると判断された学生3人と大学側との双方が大阪高裁に控訴しています。
吉田寮の魅力は「どうして?」が通じることだと誠さんは言います。
「日本は個人より組織を優先する性質が特に強い。いろんなルールが決められていて、『どうしてこのルールがあるの』と聞いても『ルールだから』って返事が来ます」
「でも吉田寮は、もちろん完璧ではないけど寮のことはみんなで話し合って決める。『どうして』と聞いたらみんな考えてくれる。対等で議論ができる。それがいい」
外の社会と異なり、社会と仕事やお金に関係なく1人のありのままの人間として見てくれる。お互いを認め合って共生している吉田寮は、人の孤独が叫ばれる世の中で貴重は空間だと感じています。
誠さんは「吉田寮に反感がある方々、それはどうして?」と悲しそうに疑問を呈します。
「権力を持っている人はどうして寮をつぶしたい?汚いものがきらい?自分の利益に反しているから?京都のイメージに反しているから?」
「海外の友達がよく言います。『吉田寮をつぶす理由なんてないやん』って。吉田寮は他の人を傷つけているわけでもない。景気が悪くても生活が苦しくても暮らしていける福利厚生施設で、多くの人たちを守ってきた場所です」
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