連載
#14 水の事故をふせぐ
〝おぼれ体験〟してみたら…指導者でも急な流れには「あらがえない」
疑似体験で、水難事故を〝自分事〟に

みなさんは海や川でおぼれた経験はありますか? 命の危険を感じなくても、おぼれそうになったり、流されたりしたことはあるかもしれません。
おぼれた経験のある人は、経験のない人に比べて、準備運動をしたり、ライフジャケットをつけたりといった割合が高いという調査結果もあります。
実際におぼれを体験して安全意識を高めてもらおうと、東京五輪の競技会場で〝おぼれ体験〟プログラムが開かれています。
@withnews 2024年に海や川で816人が犠牲になりました。 海水浴場で特に多いのが離岸流。 水辺でのレジャーは備えが肝心です! #朝日新聞withnews #海 #川 #溺れた ♬ ビート感のある力強い曲 - Park
東京五輪の競技会場にもなった、東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンター。人工の流れによるコースを海や川に見立て、水上スポーツやレジャーを楽しめる施設です。
6月下旬、ここで開かれている〝おぼれ体験〟を取材しました。
この日の体験会に参加したのは、スイミングインストラクターや教員、ライフセーバーといった指導者です。人工の激流コースを使い、流されたときの対処法を学びました。
体験会のインストラクターを務めたのは、日本ライフセービング協会副理事長の松本貴行さん。
「おぼれた経験がある人は、水に入る前の準備運動をしっかりしたり、助けを呼ぶときのサインを知っていたりします。実際におぼれる体験をしてみることで、水難事故を『自分事化』し、備えておけます」と呼びかけました。
実際、「海のそなえプロジェクト」が2024年に行った調査によると、川で準備運動を必ずまたは時々する割合は、おぼれ経験のある人が63%、ない人が51%。海では、おぼれ経験のある人で76%、ない人は69%でした。
また、ライフジャケットの着用率は、おぼれ経験のある人が60%、ない人は43%と差が出ています。
海のそなえプロジェクトによると、12歳までにおぼれた経験があると答えた人は82%でした。多くの人が幼少期に経験していたことから、おぼれ経験のある人はその後のそなえ意識が高いと考えられるそうです。
〝おぼれ体験〟では、ライフジャケットの着用方法を改めて確認してから、参加者が海や川を想定したコースに入りました。
まず、激流コースで川の流れを体験。川で流された際は、仰向けになって川下に足を向け、つま先を水面に上げるようにして「ラッコのポーズ」をとるようにアドバイスを受けました。
海を想定した緩やかなコースでは、岸から沖へ向かって流れる離岸流に巻き込まれる状況を疑似体験しました。
水の流れは、速い場所は秒速2メートルです。参加者たちはそれぞれ、平泳ぎやクロールで流れに逆らってみるものの、「あらがえない」「長時間はもたない」と感想を話していました。
離岸流は、突堤がある場所などで発生する沖向きの水流で、海岸線のどこでも発生する可能性があります。つかまってしまうと一気に沖まで流されてしまいます。
日本ライフセービング協会によると、海水浴場での水難事故の約50%で離岸流がきっかけになっていたそうです。
流されてしまった場合は、逆らうのではなく、流れから外れるように岸と平行に泳ぐことが重要だといいます。離岸流の幅は10~30メートルほどなので、しばらく泳げば抜け出せる可能性が高いそうです。
警察庁のまとめでは、2024年に海や川などで816人が犠牲になり、前年に比べ73人増えました。このうち中学生以下は28人で、令和に入って以降、26~31人で推移しています。
協会の松本さんは「水難事故は毎年のように繰り返され、なかなか減っていきません。指導者や子どもたちが、静かなプールだけでなく、おぼれてみるような実践的な体験をできる機会があると、水辺での行動が変わってくるのではないでしょうか」と期待しています。
@withnews 【溺れたことある?】海や川で溺れた経験がある人は17%。6人に1人です。 溺れとはどんな状況なのでしょうか? 東京のカヌースラロームセンターで、溺れ体験会がありました。 #朝日新聞withnews #溺れた #海 #川 ♬ ビート感のある力強い曲 - Park
1/7枚