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お金と仕事

バスケ選手・会計士・経営者…異色のキャリア 岡田優介さんの原動力

長男を肩車するプロバスケ選手の岡田優介さん。身長185センチ、3Pシューターとしても脚光を浴びていました=岡田さん提供
長男を肩車するプロバスケ選手の岡田優介さん。身長185センチ、3Pシューターとしても脚光を浴びていました=岡田さん提供

目次

2024-25シーズンで引退したプロバスケ選手の岡田優介さん(40)は、第一線で活躍しながら20代半ばで公認会計士の資格をとったり起業したり、異色のキャリアが注目を集めてきました。子どもが自閉症というプライベートも発信している岡田さんに、今後力を入れたい事業について聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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岡田優介(おかだ・ゆうすけ)
1984年、東京都生まれ。青山学院大学在学時、新人賞、優秀賞受賞をはじめ、3年次には関東大学1部リーグ優秀にも貢献。2007年にトヨタ自動車アルバルク(プロリーグB.LEAGUE設立後のアルバルク東京)に入団。つくばロボッツ、広島ドラゴンフライズ、千葉ジェッツ、京都ハンナリーズ、アースフレンズ東京Z、アルティーリ千葉を経て、2025年シーズンを持って香川ファイブアローズで引退を迎えた。2010年に公認会計士の資格を取得。2011年からEY新日本有限責任監査法人に非常勤勤務。2012年に起業し、飲食店を経営。現在は日本のプロ3x3(3人制バスケ)チームTOKYO DIMEのオーナーを務め、子ども向けのバスケスクールも運営している。
 

香川と千葉を毎週往復した1年間

5月にシーズンが終わった2025年で、B.LEAGUE3部の香川ファイブアローズで引退を迎えた岡田優介さん(40)は、「まだまだ体は動く」なかでしたが、契約満了前に引退を発表しました。

契約は最長2年までありましたが、1シーズン限りで引退を決断したのは、6歳の長男と、3歳の長女の存在が大きかったと振り返ります。

チームのある香川県から、自宅のある千葉県へ毎週帰るという単身赴任生活を送っていて、「来週まで会えないことがわかるようになった娘がとても悲しむようになってしまって。それに僕自身、耐えられなくなってしまいました」と振り返ります。

引退を発表したのは2025年の年明け。後ろ髪を引かれることはなかったそうです。

「ファンの皆さんにも心の準備をしてもらいたかったので、事前に引退発表をしました。ホームでの引退セレモニーには、家族も駆けつけてくれました。ファンの皆さんは僕の“背景”も含めて多くを知ってくれているので、温かい最後でしたね。香川でプレーをさせてもらえて良かったです」

B3香川ファイブアローズで活躍した岡田優介選手 =2024年10月5日午後4時1分、高松市民体育館、和田翔太撮影
B3香川ファイブアローズで活躍した岡田優介選手 =2024年10月5日午後4時1分、高松市民体育館、和田翔太撮影

岡田さんは、SNSでプライベートも発信しており、長男は自閉症です。

「今後、同じような境遇の方々に対して何か役立つ活動をしたいという構想があります。とはいえ、現役時代から自分で事業をしていたので、引退後に劇的に何かが変わることはないですね。バスケ選手としてのキャリアが一つなくなったという感じです」

大学時代、学費は自分で賄っていた

岡田さんが大学を卒業した2007年はB.LEAGUE設立前で、社会人リーグからプロリーグへの移行時期だったそうです。

監督から、「トヨタ自動車アルバルク(現・アルバルク東京)」から声がかかっていると聞いた時には、条件面を確認せず「行きます」と即答したといいます。

「当時は正社員契約する選手の割合が多かったですが、嘱託社員のポジションを選びました。その時から自分で事業をしていきたいという思いを抱いていました」

今ほど転職や起業が一般的ではなかった時代。その中で、独立心を持っていた背景には、中学卒業後から親元を離れ、寮のある高校に進学していた経験があるといいます。

青山学院大学へはスポーツ推薦で入学しましたが、学業が優秀な学生が受けられる奨学金とアルバイト代で学費をすべて自分で賄(まかな)っていたそうです。

B3香川ファイブアローズに所属する岡田優介選手=2025年3月7日午後1時19分、高松市松並町、和田翔太撮影
B3香川ファイブアローズに所属する岡田優介選手=2025年3月7日午後1時19分、高松市松並町、和田翔太撮影

「シングルマザーの家庭だったこともあり、自分の力でなんとか生きていかなきゃ、みたいなハングリー精神が子どもの頃からありました。人と違うことが当たり前だと思っていましたね。精神年齢的には落ち着いていたと思います(笑)」

バスケ以外の物事にも積極的に興味を持ち、常にアンテナを張っていたといいます。

「新しいものが好きで、例えば今は当たり前に使用されている電子マネーを先駆けて使っていましたし、ブログやSNSを始めたのも早かったと思います」

SNSコミュニティのオフ会から生まれた縁

プロバスケ選手として活躍しながら、公認会計士としての仕事と、自身の事業も手掛けてきた岡田さん。きっかけは、大学3年の時に目に止まった資格のチラシでした。

「まずは司法試験を考えましたが、ロースクールとバスケ選手との両立は物理的に無理だと考えて、次に難しい公認会計士の資格取得を目指すことにしました」

学業とバスケの両立のためにスケジュールを組み、講義の空いた時間に図書館でレポートを書くなど、自宅にはできるだけ持ち帰らないようにしていたといいます。

社会人3年目で公認会計士を取得。その後すぐに大手事務所にて会計士としても働き始めました。

「当時やっていたSNSのmixi(ミクシィ)のコミュニティで、会計士の受験者が集うオフ会に時折足を運んでいました。その会に来ていた社会人男性に、『君、面白いね。受かったら連絡ちょうだい』と言ってもらえて。その方に大手監査事務所の幹部を紹介してもらいました」

引退後は本格的に経営に注力していきたい

2012年には、「机の上の勉強だけではなく、実務をしてみたい」との思いから株式会社東京ダイムを設立。ファンが集まれる場所として、バスケバー「DIME」を東京・渋谷に開業しました。

「規模としては個人事業主に毛が生えたくらいでしたが、少しでも自分で事業を回すことで、会社や株主とは何かを知ることができました。従業員の採用面接や育成を通し、(会社経営は)めちゃくちゃ大変だ、という現実を知れたのは良かったです」

2014年には、日本に上陸した3人制プロバスケ「3x3」(スリー・エックス・スリー)のチーム「TOKYO DIME」の共同オーナーにもなりました。この年、チームは国際バスケットボール連盟(FIBA)承認の3人制バスケットボールのプロリーグ「3x3.EXE PREMIER」の初代チャンピオンにもなりました。

その後、バスケバーの店は売却しましたが、引き続きチームのオーナーを務め、自ら小学生までのバスケ教室の運営をするなど事業を続けています。

長男が生まれた時の岡田さん=岡田さん提供
長男が生まれた時の岡田さん=岡田さん提供

「親への支援」を大切にしたい

バスケ選手を引退した後、今後はこれまでの事業を拡大すること、新しい活動を軌道に乗せていくことを目指すといいます。

「未就学児と小学生向けのバスケスクールでは、子どもたちの成長を間近で見られることにやりがいを強く感じています。今後、授業などの学習コンテンツも提供していきたいです」

さらに、福祉事業にも強い関心があるそうです。

「息子に障害があるという背景もあり、同じような境遇の方々に対して役に立てる支援事業にも携わりたいです。障害があったり発育が遅かったり、運動が苦手だったりする子どもたちを対象にした運動教室をやりたいですね」

2022年4月に息子の障害をSNSで発表したところ、「『うちもそうなんです』という声が多く届きました。ファンの人だけではなく、友人からも連絡があったので、おそらく言いづらいんでしょうね」と振り返ります。

岡田さんの長男と長女。現在、千葉に在住の岡田さん。子育てしやすい千葉エリアでも、人を育てる事業をしていきたいと語ります=岡田さん提供
岡田さんの長男と長女。現在、千葉に在住の岡田さん。子育てしやすい千葉エリアでも、人を育てる事業をしていきたいと語ります=岡田さん提供

過去には息子のことを発信した内容について、炎上した経験もあるとのこと。

「全員から賛同されたいとは思ってないです。それぞれ違う考えがあっていい。自分の息子の安全は、自分が責任を持って守ります」と岡田さん。

「長男を見ていると、本人は自分が大変だとはあまり思っていないんですよね。一方で、僕や妻は周りに迷惑をかけないだろうかなど気を使ってしまい結構大変です。そういった実体験から、『親への支援』が大切だと思っています」と語っていました。

【取材を終えて】

最近では副業を認める企業も増えていて、スポーツ界でも競技か仕事かの二者択一の「or」ではなく、両方取る「and」的な考えも認められ、デュアルキャリアを築くアスリートも増えています。

その中で岡田さんはトップアスリートの座にいながら、10年以上前から競技以外の活動も続けている稀有なアスリートだと感じました。

「バスケというコミュニティに属して、その世界では常識だったことも、他からしてみるとそうではないこともあります。そうしたバイアスは、以前から意識していました」という岡田さんの言葉からも、多角的に物事をとらえようとしていると感じました。

今後は、好きなバスケを軸に、教育についても関わりたいと考えている岡田さん。アスリート、経営者、父親と多様な視点を持ち合わせた活躍が楽しみです。

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