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アイドルの憧れ「スイッチ」切り替え自信に…AKB48衣装、展示会

茅野しのぶさんが手がけた衣装展。前田敦子さんが東京ドームでのコンサートで着た衣装を「大好きな衣装」と紹介しながら、笑顔を見せるAKB48の八木愛月さん(中央)=2025年10月、東京都千代田区、いずれも松村北斗撮影
茅野しのぶさんが手がけた衣装展。前田敦子さんが東京ドームでのコンサートで着た衣装を「大好きな衣装」と紹介しながら、笑顔を見せるAKB48の八木愛月さん(中央)=2025年10月、東京都千代田区、いずれも松村北斗撮影

「AKB48の衣装でけっこう大事にしているのが、ドラマチック性とカオス性」――。AKB48の結成以来、20年にわたって衣装を担当しているオサレカンパニー(東京)のクリエイティブディレクター・茅野しのぶさん(43)は、こう語ります。指原莉乃さんがプロデュースする「=LOVE」をはじめ、多くのアイドルグループの衣装を手がけ、「あこがれの衣装」であり続けています。茅野さんに衣装に込める思い、デザインの着想などについてお話を伺いました。

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AKB48メンバー「自信与えてくれる」

衣装展「AKB48 大衣装展―時代を彩った装跡―」が10月28日まで、JR東京駅前の大丸東京店で開催されています。4回目の開催の今回は展示衣装約400着と最多です。

2005年にAKBが劇場公演を始めた当時、前田敦子さんや高橋みなみさんらが着ていた衣装から、直近では2024年春にあった柏木由紀さんの卒業コンサートで着用したドレスなど、AKB48の20年間の歴史と、コンサートやイベントでのドラマチックなシーンを思い起こさせる衣装が並んでいます。

内覧会があった16日、取材に応じたAKB48メンバーの小栗有以さん(23)は「前田さんや大島優子さんたち先輩方の歴代衣装を着ることもありますが、スイッチが入るというか、着るとすごくパワーを感じます」と話しました。

佐藤綺星(あいり)さん(21)は「小さい時からずっとアイドルが、AKB48が好きなんですが、この衣装は私たちに自信を与えてくれます」と言います。

歴代衣装を前にする(左から)茅野しのぶさん、AKB48の伊藤百花さん、倉野尾成美さん、小栗有以さん、佐藤綺星(あいり)さん、八木愛月さん
歴代衣装を前にする(左から)茅野しのぶさん、AKB48の伊藤百花さん、倉野尾成美さん、小栗有以さん、佐藤綺星(あいり)さん、八木愛月さん

4代目AKB48グループ総監督の倉野尾成美さん(24)は「一つ一つの衣装に愛が詰まっています。同じ衣装でも(着るメンバーによって)形が少し違い、細部までこだわって作られています」と話しました。

衣装の「スイッチ効果」素敵な存在と再認識を

その衣装を手がけてきたのが茅野さんです。

スタイリストのアシスタントだった23歳の時、AKB48の設立を知って、「『衣装担当っていますか』って自分から売り込みました」と振り返ります。以来ずっと衣装を手がけてきました。

アイドルの衣装について「着ることで、メンバーがステージでより輝く、自信を持てるようにしてあげたい」と言います。

「ステージに上がる時、自信がオーラになって、そのオーラが説得力になって、その説得力に人は魅了されると思っています。その自信を付けるきっかけになるのが衣装の一番の役目」

茅野しのぶさん。柏木由紀さんが卒業コンサートで着用したドレスとともに=2025年10月16日、東京都千代田区
茅野しのぶさん。柏木由紀さんが卒業コンサートで着用したドレスとともに=2025年10月16日、東京都千代田区

SNSが普及して、世界中に一瞬で画像や情報が拡散し、称賛にもネガティブな反応にも常にさらされる。人前に立つアイドルだとなおさらです。

「アイドルって素直な子が結構多いので、ファンに言われたことやSNSでの反応を真に受けて自信を失ったりします。そこで、こんな衣装が似合うのは可愛いからだし、アイドルとしてここにいていい理由なんだ、と。スイッチ効果というか、衣装を着ることによって、自分がとても素敵な存在だということを再認識して欲しいです」

衣装を制作するうえで大切にしていることがあります。

「本人が大切にしている信念やキャラクターといった個性を重視しています。彼女たちは青春時代を捧げてアイドルになることを決めて、すごく頑張っている。その時間を実りのあるものにしてあげたいです」

「本人にとってのコンプレックスも、隠すか、それを含めて好きになるかどちらかだと思うので、本人の意見をきちんと聞いて、衣装に反映するようにしています」

そこには、コロナ禍前、衣装担当ではなく、AKB48の総支配人をした経験も生きているといいます。メンバーと間近で接して、その大変さを身をもって知ったそうです。

また、握手会会場で、ファンと直接対話して意見を聞くこともありました。時に苦情を言ったり、怒っていたりするファンとも話すことで、ファンがグループやメンバーに何を求めているのか、何を不満に思っているのかも、学ぶことができたそうです。

「向いていない仕事で当時、めちゃくちゃ辛かったですが、経験は無駄にはならなかったと思っています」
 
「アイドルとして活動する期間もいたずらに過ごすのではなく、そのままアイドルで進むのがいいのか、俳優に進むのがいいのか。アイドルに向いていなかったとしても、裏方でプロデュースするとか、美容やダンスとか。その子にとって何が魅力なのか、長所を教えてあげる場でもあると考えています」

「ドラマチック性とカオス性」を大切に

今年12月に結成20年を迎えるAKB48は、昨年春に3期生の柏木由紀さんが卒業するなど、選抜総選挙が社会現象となった2010年代前半の「全盛期」を知るメンバーは次々に卒業し、13期生以降のとくに若いメンバーが中心となっています。

茅野さんは今のメンバーはAKB48への誇りを強く持っていると感じています。

「数多いアイドルグループの中でもAKB48に所属していることに喜びとプライドを持っている。私自身は『大声ダイヤモンド』(2008年発売)の発売前くらいの時期に似ていると感じていて、メンバーの個性もある」とみています。

そのうえで、「グループの伝統への誇りと先輩へのあこがれを、どう自分たちの魅力として打ち出していくか考える時期になっていると思います。20周年を通じてもっと自由に、鎧を取って、自分たちの時代を作り出してもいいのではないか。その魅力を引き出すのが裏方の仕事で、衣装もその一つだと思います」と語ります。

茅野さんが衣装づくりで大切にしていることは、「ドラマチック性とカオス性」といいます。選抜総選挙をはじめ、予期しない出来事が起きて、それをメンバーが受け止め、新たな歴史をつむいでいく。その出来事に着想して衣装デザインが生まれたことも多かったそうです。

ファン投票で1位になった渡辺麻友さんが卒業コンサートで着用した「11月のアンクレット」の衣装。動いた時の可憐さと、AKB48を支えてくれたことへの感謝の思いを込めて、バラの花束をイメージしたそうです
ファン投票で1位になった渡辺麻友さんが卒業コンサートで着用した「11月のアンクレット」の衣装。動いた時の可憐さと、AKB48を支えてくれたことへの感謝の思いを込めて、バラの花束をイメージしたそうです

加えて普段から好奇心旺盛に、アンテナを高く張っておくことは意識しているそうです。

「デザインの着想はファンションから得られるだけではありません。街中の風景、政界の動きや時事ネタとか。よく立ち飲み屋にふらっと入って、知らない若い子たちと一緒に話したり、話を聞いたりするんですが、その内容がヒントになることもあります。一見関係ないジャンルの展示会にも足を運んだりしています」

アイドル衣装からアパレル業界への思い

茅野さんが取締役を務めるオサレカンパニーは学校制服、医療機関の制服なども手がけるほか、「=LOVE」をはじめとしたAKB48以外のアイドルグループの衣装も手がけています。

多くの女性アイドルにとって、いつか着てみたい憧れの衣装となっているだけに、アイドルグループの衣装制作を引き受ける際、どう判断しているのでしょうか。
 
「会社なので利益は大切ですが、それだけではなく話題性、将来性があるかどうかの三つが指標です。それに加えて一番大切にしているのが運営会社やスタッフが、本気でこの子を人気にさせたいと、どれほど情熱を注いでいるかです。私自身、うちがやるからには絶対盛り上げたい、売れさせたいという思いがあります。アイデアの提案など、同じ熱量で取り組んでもらえる相手と一緒にやりたいと思っています」

こだわりと愛情を持って作り上げた数々の衣装は、すべて洗濯されて、巨大倉庫に保管されています。

そして、アイドル衣装を通じたファッション業界への波及や今後について、茅野さんはこんな思いを語りました。

「AKB48の衣装は国内さまざまな産地の生地を使ったり、古くからある工房のご協力で作ったりしているものもあります。日本のアパレル業界は今、ちょっと元気がない状態です。とても細かい作業ができたり、普段なら作れないような刺繡(ししゅう)が作れる所があったりしますが、後継者不足でなくなってしまう所もあります。こうした展示会を通じて、ファッションの可能性や、生地の面白さが、服飾の専門学校生や同じ業界の方に伝わり、業界全体のコラボレーションとか、話題になるようなことをしていけたらいいなと思っています」

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