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連載

#11 特派員フォトリレー

【世界の乗り物】ロバも牛も馬も…最後の頼りは動物 船や自転車も

今回は人との付き合いが古い乗り物が集まりました
今回は人との付き合いが古い乗り物が集まりました

目次

 ところ変われば品変わる。世界のあちこちに住む朝⽇新聞の特派員が、「街の乗り物」をテーマに撮った写真を集めました。今回は自転車、バイク、船、そして動物を取り上げます。自転車は各地で公共交通機関としての復権を果たしつつありますが、課題もあるようです。途上国ではバイクタクシーが人気を集め、川や湖に接する街では船が活躍。道路の整備されていない地域では、動物たちが人やモノを運んでいます。(朝⽇新聞国際報道部)

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シェアサイクル、光と影

 個人で楽しむ乗り物として、スポーツやレクリエーションの側面が注目されてきた自転車。排ガスを出さない点などが見直され、市民の足として新たに導入する動きが各地で進んでいます。街角に置かれ、共同で利用するシェアサイクルという形です。台湾の西本秀記者から。

台湾のシェアサイクル
台湾のシェアサイクル
 西本記者「台湾には『You Bike 微笑単車』と呼ばれるシェアサイクルがあります。
 2012年に先駆けて導入された台北市内の場合、主要地下鉄駅や公共施設の近くに、約400カ所の自転車ステーションが設置されています。通勤や通学にも使えますし、私も休日、少し離れたショッピング街に買い物に出かける際などに利用しています。
 中国では上海など、どこでも乗り捨てできる自転車が話題になっていますが、古くなった自転車が放置されがち。台湾では自治体と地元の自転車メーカー・ジャイアント系の団体が連携してステーションを整備し、自転車のメンテナンスをしています」
台湾のシェアサイクル
台湾のシェアサイクル
 西本記者「地下鉄やバスで使う交通カードをステーションの機械にかざすと、自転車のロックが解け、乗車が可能になります。
 料金は、基本的には30分で10台湾ドル(約36円)。最初に利用する際、スマートフォンのアプリを通じて、会員登録が必要です。
 地下鉄やタクシーなどで移動するよりも、街角の風景や空気を体に感じながら移動できるのが、自転車の良いところです」

 この光景、日本でもおなじみになりつつありますね。東京・築地にある朝日新聞社前にもシェア用の赤い自転車が並んでいます。近場への取材は自転車で、という記者も増えているようです。

大量に投棄されるシェアサイクル=北京市、山本裕之撮影
大量に投棄されるシェアサイクル=北京市、山本裕之撮影

 シェアサイクルの先駆けとなったのはフランスのパリで、2007年に実用化されました。ただ、近年の爆発的なヒットは中国が原動力。日本にも「モバイク」が進出しています。

 ところが、その中国では過当競争で利益が上がらず、次々とつぶれる事業者が現れています。どこでも乗り捨てできる方式なので、放置された自転車が通行を妨げる事態も多発。地方政府が回収して運び込む保管場は、自転車の墓場と呼ばれているそうです。

 中国だけではありません。AFP通信によると、フランスで展開していたゴービー・バイクは2018年2月、サービスを中止。1000台以上の自転車が盗まれ、約3400台は壊され、6500台は修理が必要な状態になってしまったそうです。

 他方、やはりシェアサイクルを導⼊したタイの⾸都バンコクでは、あまり利⽤が進んでいない様⼦。吉岡桂⼦記者から。

バンコクのシェアサイクル
バンコクのシェアサイクル
 吉岡記者「バンコクの都心で撮影したシェアサイクルです。数台は稼働している模様ですが、私はバンコクで自転車に乗っている人自体を見たことがない気がします。記憶に残っていないだけかもしれませんが……。
 中国で話題のシェアサイクルが昨年上陸したときも、ニュースになっていましたが、大学とか観光地に限っているようで、これもまだ都心では見ません」
バンコクのモーターバイク
バンコクのモーターバイク
 吉岡記者「なぜか。総局のスタッフによれば、暑いし、危ないし、空気も悪いので、いずれにせよ自転車は使いたくないとのこと。
 さらに、モーターバイクが席巻しているからです。これが渋滞を抜けてぶんぶん走り回っているので、自転車の出る幕がありません」
バンコクのバイクタクシー
バンコクのバイクタクシー
 吉岡記者「バイクタクシーもありますが、私は怖いので乗ったことがありません。この人たちの雇用は政治的に敏感な問題です。
 プールされている場所があって、一応、料金も書いてあります。私は急ぐときは、タクシーより高いけど、結局トゥクトゥクに乗っています」

 バイクは車体が小さいため、渋滞中の道路でも、車両と車両の間をすり抜けて走ることができるという強みがあります。

 渋滞のひどさで知られるインドネシアの首都、ジャカルタでも人気を集めているようです。野上英文記者から。

ジャカルタにて、バイクタクシーを降りる野上記者
ジャカルタにて、バイクタクシーを降りる野上記者
 野上記者「ジャカルタの交通機関にもいろいろありますが、バイクタクシーが一番人気です。私もたまに利用します。
 運転手がヘルメットを貸してくれて、後部座席に乗ります。渋滞した車の間をぬって進むので、機動性はバツグン。
 逆に言うと、このバイクのせいで車がさらに渋滞しています。信号無視、逆走、割り込み、なんでもありなので、よけいに混みます」
バイクタクシーから見たジャカルタの街並み
バイクタクシーから見たジャカルタの街並み
 野上記者「いまはアプリでウーバーのように距離と料金をあらかじめ指定して乗れるので、人気がさらに爆発。みんな通勤やちょっとした移動に使っています。
 ちなみにバイクはほとんど日本車です」
イランのバイクタクシー
イランのバイクタクシー

 公共交通機関が発達していないから渋滞が起き、渋滞を避けるためにバイクが走り回り、さらに渋滞が悪化する。そんな悪循環は、東南アジアだけでなく各地の途上国でみられるようです。

 もっとも、ヘルメットを貸してくれるというのは良心的かも。イランにもバイクタクシーはあり、私も乗ったことがありますが、客用のヘルメットなんてありませんでした。運転手はしてましたけどね。

3輪の自転車

 さて、自転車に人が乗る荷台がつき、タイのトゥクトゥクのような3輪車だけどエンジンは人、という乗り物も各地にあります。

 バングラデシュから奈良部健記者、ミャンマーから五十嵐誠記者、キューバから田村剛記者。続けてどうぞ。

バングラデシュの「リキシャ」
バングラデシュの「リキシャ」
 奈良部記者「バングラデシュでは、『人力車』が語源とされるリキシャが健在です。乗るとスイスイ快適で、ちょっとした距離なら数十円という安さ。
 汗でびっしょりになった細い体でペダルをこぐおじさんの背中を後ろからみると、『自分もがんばるぞ』という気持ちになります」
ミャンマーの「サイカー」
ミャンマーの「サイカー」
 五十嵐記者「ミャンマーでよく見かける街の乗り物、サイカー。自転車の脇に客を乗せるいすが付いており、その名の由来は『サイドカー』とも言われます。
 2013年に西部ラカイン州の州都シットウェー近郊にあるイスラム教徒ロヒンギャの居住区を訪ねると、サイカーはここでも人や荷物を運んでいました。
 前年にあった仏教徒住民との衝突で、市街地から郊外に追いやられたロヒンギャの人たち。かつては市中心部の市場などでサイカーをこぐ『サイカーダマー』などとして働く男性も多かったそうです」
キューバの自転車タクシー
キューバの自転車タクシー
 田村記者「ハバナ旧市街で庶民の足となっている3輪車型のタクシー。細い路地をすいすい走っていきます」

 日本でも東京・浅草などで人力車を見かけることはあります。ただ、あれは完全に観光用。タクシーとして客を乗せる自転車がいまなお現役で走っている国は、まだ残っていました。

 しかし、地球環境の保全のため、排ガスの規制は待ったなしの課題。古めかしく見える「人力タクシー」ですが、案外と時代を先取りした乗り物になっていくのかもしれません。

船も大事な「街の乗り物」

 さて、こんどは陸上を離れ、やはり太古の昔からある乗り物、船です。

 コロンビアから田村剛記者、ペルーから岡田玄記者、ミャンマーから五十嵐誠記者です。

コロンビアの船
コロンビアの船
 田村記者「コロンビア西部チョコ県のそれぞれ違った集落の船乗り場の写真です。
 黒人の人口が多いチョコ県は、コロンビアで最も貧しい地域の一つで、道路網があまり開発されていません。
 村むらは熱帯雨林の川に沿って発展しており、それぞれがボートで結ばれています」
コロンビアの船
コロンビアの船
 田村記者「2016年に政府と和平合意にいたったコロンビア革命軍(FARC)にとっても、重要な移動手段はこうしたボートでした。
 写真の村むらにも、ボートに乗ったFARCのゲリラ戦闘員や、それと対立する別の武装集団らが次々とやってきて、村人にも大きな被害が出ました」
コロンビアの船
コロンビアの船
 田村記者「小さな船に、沈んでしまうのではないかと思われるほどたくさんの人が乗るので、乗り心地はあまりよくないです。水しぶきで服がびしょ濡れになります」
ペルー・イキトスの船
ペルー・イキトスの船
 岡田記者「ペルーのイキトスという町で。アマゾン川流域の水上都市で、買い物や通勤通学には小舟が欠かせません」
ミャンマー・インレー湖の船
ミャンマー・インレー湖の船
 五十嵐記者「ミャンマー北東部シャン州にある観光地インレー湖に暮らす少数民族インダーの人たちは、足でオールをこいで巧みに小船を操り、漁を行います。この湖の風物詩です」

 都市は必ず川沿いに発展すると聞いたことがあります。飲み水や農業・工業用水として使われるほか、物流でも重要だからだとか。

 日本では橋の発達とともに、渡し船も減ってしまいました。

 しかし、ミャンマーの足でオールをこぐというのはすごいですね。私は高校時代にボート部だったので、3年間みっちりと船をこぎましたが、足でどうすればできるのか、ちょっと想像がつきません。

動物も活躍しています

 続いては、今も元気に人やモノを運んでいる動物たちの姿をお目にかけます。パキスタンの乗京真知記者とミャンマーの五十嵐誠記者から。

パキスタンのロバ
パキスタンのロバ
 乗京記者「パキスタンはでこぼこの道が多いことから、ロバや水牛が現役で活躍しています」
パキスタンの水牛
パキスタンの水牛
 乗京記者「フンは手のひら大に伸ばして塀にはりつけ、乾燥した後、かまどの燃料に使います」
アフガニスタンのロバ
アフガニスタンのロバ
 五十嵐記者「戦乱が続くアフガニスタンでは治安の悪化が続いていますが、2011年9月に取材で訪れた中部バーミヤン州は比較的治安が安定していました。
 美しい湖バンデ・アミールを訪れた時のこと、遠くからロバに乗った地元の男性が近づいてきました」
アフガニスタンのロバ
アフガニスタンのロバ
 五十嵐記者「車がほとんど見かけられないなか、ロバは地域の人たちにとって重要な乗り物のようでした」

 ロバと人のつきあいは古く、約5000年前のメソポタミア文明では既に家畜として使われていたそうです。歩みは速くありませんが、体がじょうぶで粗食にも耐えるところがその理由だとか。

 そういえば、イランに住んでいた時にこんな話を聞きました。イスラム教に厳格なイランは、酒類の販売を法律で禁じていますが、ヤミでは売っています。禁制品だけに日本の5倍くらいの価格がします。この値段が、冬場になるとさらに上がるんだそうです。

 というのも、酒の多くは隣国のトルコやイラクなどから運ばれてきますが、当然ながら、幹線道路沿いにある検問のある国境を通ることはできません。そのため、ロバが背中に乗せて、山中の人が通れないような獣道をえっさこらさと運んできているんだとか。ところが、冬場は雪が降ったり地面が凍ったりして、ロバでさえ踏破できなくなる。それで品不足になり、値が上がるというんですね。

 この目で確かめたわけではないので、本当かどうかはわかりません。ただ、イランでも地方に行くとロバはよく見かけました。

 さて、最後はエジプトの首都カイロから、北川学記者です。

エジプトの馬車
エジプトの馬車
 北川記者「カイロで取材先から帰る途中、荷車を引いて道路を疾走する馬に遭遇しました。
 エジプトの街中ではよく目にする光景。馬の仕事は、観光地で人を乗せることだけではないのです」

 タイヤのついた乗り物は、基本的に道路、それも舗装された道路があることが前提になっています。ただ、世界はそんな場所ばかりではありません。

 古来、人の生活は動物たちによって支えられてきました。おそらくは今後も、頼り続ける部分はきっと残っていくでしょう。

 というわけで、各地の「街の乗り物」でした!

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