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#40 #令和の専業主婦

駐妻の「偏見や窮屈さなくならなければ…」 100人にインタビュー

駐在員を派遣する企業側、変わるべきポイント

バンコクで駐妻100人から聞き取りを行った水原和美さん=本人提供
バンコクで駐妻100人から聞き取りを行った水原和美さん=本人提供

目次

少し前まで「ほとんど接点がなかった」という〝駐妻〟100人に、半年かけてインタビューをしたタイ在住17年の女性がいます。インタビューを経て、「少なくとも偏見や窮屈さがなくならないといけない」と訴えます。時に世間から「キラキラしている」という一側面で語られがちな駐妻のキャリア観や人生観などを丁寧に聞き取ったことから見えてきたことを聞きました。

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1人に数時間かけて聞き取り

学生時代は労働法を学び、外務省専門調査員として韓国で働いた経験もある水原和美さん(47)は、タイで暮らして17年になります。2008年からタイで働き始め、タイ人男性と結婚し、現在は小学生の子どもを育てながら、コンサルティング会社を経営しています。

従業員の意識調査を手がけてきたことなどから、「人の意見や思っていることをあらいざらい話してもらい、そこから『何か』をみつけるということに元々興味があったんです」と水原さん。
昨年末から今年7月にかけて、バンコク在住の駐在員の配偶者100人にインタビューを敢行。1人あたり平均で2時間以上をかけ、子育てや夫婦関係、日々の気持ちの浮き沈みなどについて対面で聞き取りました。

「接点がない」存在だったが

実は水原さん、2008年にタイに渡ってからしばらくの間は、仕事で出会った人の「奥さん」として駐妻を認識し「ほとんど接点がない存在でした」。

「そもそもその頃はまだ、『駐妻』なんて言葉はなかったと思うし、私は現地採用で『働く側』だったこともあり、接点がなかったのです」

水原さんの体感では「駐妻」の存在感が増したのは、バンコクで反政府デモが起きた2010年、そして死者も出た大規模な洪水が起きた2011年ごろ。在留邦人の間で情報収集ツールとして「ソーシャルメディアが一気に広まった印象がある」といい、「ブログ全盛期も重なり、当事者が自身を『駐妻』と表現して発信するなどしたことから、言葉としてもネット上の認知が広がったように思います」

意識するようになって初めて出会った駐妻は、同じ語学学校に通っていた人でした。「キャリアもあり、麗しい方だった」一方で、水原さんは違和感を持ったといいます。

「素敵な方なのに、『駐妻だし』と、どこかで謙遜というか卑下しているようにも感じました」

自身も「転勤族の妻」に

さらに、当時の水原さんの立場が駐妻への関心を高めます。

水原さんは33歳のとき、不妊治療に専念しようと仕事を辞め、専業主婦になっていました。夫は転勤が重なることから、これまで自分が置かれたことのない「夫の転勤に人生が左右される専業主婦」という、駐妻と近い境遇に立たされました。

数年後、タイの駐妻の深い悩みについて考える出来事も重なったのだといいます。

「夫の転勤が自分のキャリアに影響を与えるという経験を経て、駐妻のことが人ごとじゃなくなった」

「駐在員や駐在員を擁する企業にとっての人事を考えるためにも、未来に向けて、なにかこの困難を避けうるヒントはないかと考え続けていました」

100人からの聞き取りを行った水原和美さん=本人提供
100人からの聞き取りを行った水原和美さん=本人提供

キャリア状況や学歴、気分の落ち込み…

そして昨年、タイの日系オンラインメディアの人事コラム執筆依頼が舞い込みました。それを機に始めたのが、駐妻へのインタビュー企画でした。

多い時は、一日に3人から話を聞き取る日もあったというこの企画。
聞き取った項目は、駐在に帯同することが決まってからの気分の浮き沈みの時期や理由、キャリアの状況や学歴、家族関係、人付き合いのコツなど多岐にわたります。
選択が可能な項目以外は会話の中で自由に話してもらうかたちをとりました。

インタビューは「すごく楽しかった」という水原さん。「ネット上では偏見を持って駐妻に対してひどい言い方をする人もいます。でも一人一人から聞く話は、よりリアルな情報で、それぞれストーリーもヒストリーもあった。知らないことをたくさん教えてもらいました」

100人の聞き取りは、手元の紙に書き込みながら行った=水原和美さん提供
100人の聞き取りは、手元の紙に書き込みながら行った=水原和美さん提供

世代によって異なるキャリア観

中でも水原さんが気になったのはキャリアについての意見でした。
「上の世代になればなるほど、妻として夫や家庭を支えることが受け入れられていて、そのことにプライドを持っている方が多い印象でした」

一方、40代以下の世代になると考え方はがらっと変わったといいます。
「夫の駐在に帯同できて喜べている人だけでなく、『自分の仕事で海外に駐在に来たかった』とか、『家族一緒を選びはしたけど、その間に(同世代に)置いて行かれる』といった語りから、焦燥感を感じました」

駐妻の中には、退職して駐在帯同をすることを選ぶ人が7割ほどいるという民間調査もあります。

【参照】「パートナーの昇格直後に内示」…駐在員が悩む家族のキャリアhttps://withnews.jp/article/f0251125000qq000000000000000W07n10301qq000028404A

帯同中、専業主婦となった駐妻の中には、日々成長する子どもや会社からの評価を受ける配偶者と自分自身を比べてしまう人もいたそう。「もちろん世代やステータスごとに考え方は異なりますが、駐妻は無力感や停滞感を感じやすいのではないかと感じました」

「最初は働けないことがストレスとなりうつっぽくなった」という書き込みも=水原和美さん提供
「最初は働けないことがストレスとなりうつっぽくなった」という書き込みも=水原和美さん提供

「帯同も悪くないかも」思えるような思いやりを

水原さんは「ワークファミリーバランスは大事な考え方だと思う」とまとめます。

韓国やタイで働いてきた経験を持つ水原さんは、「二つの国での経験を振り返ると、『家族にケアが必要な時は休むのも当然』という考え方があったように思います。日本に比べて家庭事情を加味して働いていると感じました」

人手不足の中、人材を集めるためにはよりよい労働環境が求められます。
「人手不足の日本社会にとっても、家族の事情も含めての仕事、という考え方になった方がいいと思っています」と話します。

100人インタビューの中では、駐在員本人の企業によっては、配偶者の就労を規制していたり、ボランティアすら禁止しているところもあると聞いたといいます。

「中には、帯同家族手当がないかほとんどない企業もあり、駐在帯同を機に共稼ぎから片稼ぎになったことで、世帯収入が大幅に減少している事例もありました。若い世代は帯同前まで正社員だった駐妻も多くいます。駐妻が帯同後にどんな選択をするにせよ、駐在員を派遣する企業側がはなから配偶者の就労を制限することについては、見直しが必要だと思います」

「企業側は、よい人材を派遣したいのであれば、帯同家族が『帯同もわるくないかも』と思えるような思いやりや自由がないといけない。少なくとも偏見や窮屈さ、不安を取り払わないと、企業側も今後一層担い手不足に悩まされると思います」


  ◇
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