連載
#10 特派員フォトリレー
【世界の乗り物】タイだけじゃなかった!世界で活躍するトゥクトゥク
ところ変われば品変わる。世界のあちこちに住む朝⽇新聞の特派員が、「街の乗り物」をテーマに撮った写真を集めました。日本でもすっかりおなじみの3輪タクシー「トゥクトゥク」、なんと世界各地にありました。その起源となった国はタイではなく、実は……。(朝⽇新聞国際報道部)
案内役は東京・国際報道部の元テヘラン支局長、神田大介です。トゥクトゥクはタイを中心に使われています。前輪が一つ、後輪は二つという「原動機付き3輪車」。狭い路地でも小回りがきくうえ、丈夫で修理しやすいため、長く重宝されてきました。
最近は日本でも観光などの目的で使われています。朝日新聞の記事を検索すると、少なくとも福島、千葉、山梨、長野、愛知、兵庫、高知、福岡、宮崎、沖縄の各県に存在するか、かつて使われていたようです。
力士が場所入りする際に使われたことも。
記事によると、八百長問題で大相撲から客足が遠のいたことから、「何とか盛り上げたい」と親方の知人が始めたとか。車体は約130万円でタイから購入し、150万円以上をかけて改造。取組前にリラックスできるよう、後部座席ではテレビも見ることができる特別仕様だそうです。
こうしたカスタマイズのしやすさもトゥクトゥクの魅力となっています。
今回特派員たちが撮った写真には、この種の3輪自動車がたくさんありました。まずはタイのおとなりラオスから、染田屋竜太記者。
トゥクトゥクは楽しい乗り物ですが、メーターがなく、料金交渉をしなければいけないというのが難点ではありますね。
さて、似たような車両は中国にもありました。瀋陽から平賀拓哉記者。
えっ、ずいぶん派手な赤い塗色だけど、違法なの? 中国と言えば「お上には逆らえない」という印象がありますが、そういう融通の利く一面もあるんですね。
続いてはパキスタンから、乗京真知記者。派手さではまったくひけをとりません。
パワーや安定性は、やはり4輪の方が上のようですね。そういえばベトナムではオートバイのことを「ホンダ」と呼びます。それだけこの分野では、日本製が優れているということでしょう。
インドネシアにも3輪から4輪に「進化」した車が走っています。首都ジャカルタから野上英文記者。
そして驚いたことに、3輪タクシーは中南米でも快走していました。岡田玄記者で、まずはグアテマラから。
ペルーではモトタクシーという名で呼ばれているようです。
そういえばエジプトの首都カイロでもトゥクトゥクは走っていました。決まって黄色と黒の塗色。カイロも細い路地が多いだけに、使い勝手がいいようです。
そして調べてみると、ポルトガルの首都リスボンや、オランダの首都アムステルダムなどヨーロッパにもありました。
もっとも、こちらは近年になって増えたもので、観光用だとか。
トゥクトゥクは、歩くにはちょっと遠い距離を行くにはぴったり。窓もなく、文字どおり街の空気を感じられることが、人気を呼んでいるようです。
そんな世界中で活躍しているトゥクトゥクですが、ルーツは日本にあるんです。
ダイハツの軽3輪車「ミゼット」は、1957年に発売されると爆発的にヒットし、ブームを巻き起こしました。
このころ日本は高度経済成長期のまっただなか。まだ乗用車は本格的には普及しておらず、ミゼットのような「オート三輪」がモノや人の移動で大活躍しました。
これ以前に主役だったのはリヤカー。つまり人力です。オート三輪は日本におけるモータリゼーションの先駆けでした。
諸外国も注目。ミゼットは発売翌年の1958年には早くも東南アジアや中東から引き合いがあり、59年から輸出が始まったそうです。
特にタイは輸送の近代化を目指す政府の政策もあり、59年から60年にかけて4300台を輸入。人力でこいでいた3輪車に取って代わりました。
その後、日本ではよりパワフルな4輪の軽トラックが普及し、ミゼットも1971年末には製造を終了。タイをはじめとする各国では独自の進化を遂げ、今も現役で走っているというわけです。
ところで、3輪車と言えば、インドやネパール、バングラデシュ、スリランカなどで見る「リキシャ」もあります。
モーター付きの「オートリキシャ」は、タイのトゥクトゥクよりも一回り小さいですが、ほぼ同じような形をしています。バングラデシュから奈良部健記者。
なお、呼び名の由来は日本ですが、車体はスクーターの「ベスパ」で知られるイタリアのピアッジオ社が源流だそうです。
ということは、中南米の3輪車はトゥクトゥクと呼ばれていても、源流はイタリアなのかもしれません。詳しいことはわかりませんでした。
2016年7月1日夜、ダッカのレストランがイスラム過激派に襲撃され、日本人7人を含む22人が殺害された事件は記憶に新しいところです。
今もなお、バングラデシュでは多くの日本人が現地のために貢献しようと働いています。ですが、外国人がいることがわからないように事務所の看板を外すしたり、外出を控えたりしているそうです。
テロは単に命を奪うだけでなく、生活から人間らしさも奪っていきます。何を気にすることもなくリキシャに乗れる日が1日も早く訪れることを、切に願います。
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