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発達障害、最初の職場は2年で退職…「凸凹と合う環境のデザインを」

「自分の特性を生かして、その特性にあった環境で、色んな人たちに喜んでもらえる仕事をしたい」と考え、自分の道を模索したシンガーソングライターのyu-kaさん
「自分の特性を生かして、その特性にあった環境で、色んな人たちに喜んでもらえる仕事をしたい」と考え、自分の道を模索したシンガーソングライターのyu-kaさん 出典: 朝日新聞社

生きづらさをおぼえる発達障害の人が、より暮らしやすい社会にしていくには……。筆者は20年ほど前、幼稚園生だった息子が「広汎性発達障害」と診断されました。それから、子育てや取材を通して、父として記者として「発達障害」と向き合ってきました。取材で出会ったシンガー・ソングライターのyu-kaさんもそのひとり。「自分の凸凹に合う環境をデザインすることが大切」と呼びかけています。(朝日新聞記者・太田康夫)

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大学生の時「発達障害なのではないか」

神戸市在住のシンガー・ソングライターで、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の当事者でもあるyu-kaさんを初めて取材したのは、2020年でした。

yu-kaさんは1993年、兵庫県西宮市で生まれ、幼いころから忘れ物やなくし物が多かったそうです。

大学に入ってアルバイトを始めて「自分は、他の人と何かが違う」と感じ始めました。

他の人が難なくこなしている仕事でミスをしてしまう。レジの機械の操作を覚えられず、客から受けたオーダーを厨房に伝え忘れる……。

ネットを頼りに、「アルバイト」「とろい」などのワードを手がかりに、自身に感じている違和感を探った結果、自分は発達障害なのではないか、と思い至りました。

医療機関に相談したところ、ADHDと診断。大学3年生、20歳のときでした。

就職活動は、いわゆる「一般枠」と「障害者枠」の採用の両面で考えました。

20社ほどにエントリーシートを提出。会社側に、ADHDであることを伝えることもあれば、伝えないこともあったそうです。

出典: ※画像はイメージです Getty Images

ADHDと伝えたら、不採用になるのでは

就職先の第一希望だった神戸市内の団体には、ADHDであることを伝えませんでした。

採用人数はごくわずか。ADHDのことを伝えた場合、不採用になるのではないかと思ったためでした。

ただ、ミスが多いといった特性は伝えていました。

「一般枠」で採用され、2015年からこの団体で働き始めましたが、間もなくミスが目立ち始めました。

交通費の精算などの金額の入力を何度も間違えました。取引先とのやり取りなど、複数の仕事を同時に行うと頭の中が混乱しました。

自らのミスで周囲に迷惑をかけ、イライラさせてしまうことがつらくなりました。

仕事に真面目に取り組んでいないのでは、手抜きをしているのではないか。そう思われていると感じて落ち込んだそうです。

やがて精神的に疲れ、朝、起きることができなくなりました。うつ病と診断され休職し、就職後、2年弱で退職しました。

自分の強み、やりたいことを掘り下げて

就職するとき、yu-kaさんは自分が自身の特性を理解し向き合うことで、仕事をこなしていけると思っていました。

しかし、周囲の人にも診断名や特性を詳しく伝えて、理解や協力をしてもらうことが必要だった、と思ったそうです。

yu-kaさんには、得意なところと不得意なところの凸凹の差があります。

今後は、自分の特性を生かして、その特性にあった環境で、色んな人たちに喜んでもらえる仕事をしたい――。

そう考え、自分の強みややりたいことを掘り下げました。

フットワークが軽い、人の話を聞くこと、人に喜んでもらえることが好きで、笑顔を見たらパフォーマンスが上がる。幼少時からピアノや軽音楽などに親しんできた。好きな音楽などでは高い集中力を発揮できる……。

発達障害のある人を応援するシンガー・ソングライターとして活動をしたいと思うようになりました。

出典: ※画像はイメージです Getty Images

「応援ソング」や講演会で発信

2017年から路上やライブハウスなどで活動を開始。その2年後には、やりたいことがあるものの、一歩が踏み出せない人や、夢に向かって頑張る道のりを応援してほしい人たちからの依頼を受け、その人のための「応援ソング」を作る仕事を始めました。

発達障害がある人やその家族、生きづらさを感じている人など、様々な人たちからの依頼にこたえてきました。

2024年秋までに作った応援ソングは約90曲、ライブは約70回を数えました。

さらに、発達障害に関する講演会は30回ほど行いました。

「自分の凸凹に合う環境をデザインすることが大切」と、yu-kaさんは言います。

自分の凸凹に環境を合わせる

現在、yu-kaさんは音楽活動と並行して、ウェディングプランナーの仕事をしています。

結婚式場を探しているカップルから1時間ほど話を聞き取り、「ペットと一緒に」「自然の中で」などといった要望に沿う式場を提案します。

耳からの情報を記憶しやすいyu-kaさんにとって、ウェディングプランナーの仕事は、その得意な面を生かせています。

初めての就職先では、職場の環境に無理に自分を合わせようとして、つらくなったため、自分の凸凹を環境に合わせて変形させるのではなく、自分の凸凹に環境を合わせるライフスタイルに変えようと思ったからです。

実家の電気店の事務などの手伝いもしています。どちらも、音楽活動や自身の体調に合わせて、日程を調整しやすいそうです。

出典: ※画像はイメージです Getty Images

苦手な作業、知人たちと分け合って

音楽活動では、知人たちが苦手な作業を支えてくれています。

応援ソングやライブの依頼、問いあわせなどのメール対応、ホームページの更新、SNSでの情報発信などです。

スタッフの中には、発達障害がある人もいます。歌詞カードの制作、写真・動画撮影など、その人の得意な面を生かしてフォローしてくれています。

2024年2月には、地元の神戸市で500人規模のコンサートを実現させました。

応援ソングを作った人のうち約30人がかけつけてくれ、yu-kaさんと一緒にステージに立ち、自身の応援ソングを歌ってコンサートを盛り上げてくれました。

応援ソングの依頼は、個人からだけではなく、企業や学校からも寄せられています。

2024年春には、地元紙の夕刊で7本のエッセーの連載も担当するなど、活動の幅を広げています。

これからも、自身の凸凹と上手につきあいながら、発信を続けていくそうです。

20年ほど前、幼稚園生だった息子が発達障害と診断された――。そこで、自分と、情報を求める人々のために取材を始めました。親は、当事者はどう成長したか。自分は、親として何か変われたのか。拙著「記者が発達障害児の父となったら」(朝日新聞出版)でも紹介しています。

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