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「ほぼ鏡」 〝泥だんご〟磨きを極めたら世界が注目

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砂場で丸めて作った泥だんご。より美しく、よりかたくーー。それを極めた結果、世界から注目を集めてしまった人がいます。その泥だんごには1万7千円出すという海外客も。鉛筆の芯で磨き上げた〝最新作〟の輝きには、Xで11万ものいいねが寄せられました。いま、なぜ泥だんご? インタビューをしました。
話題になったのは、norikoさん(@MPgybuHx96dPQqL)が投稿した1枚の〝泥だんご〟の画像です。
《ほぼ鏡。磨きを極め過ぎて泥だんごの向こう側へ行ってます。》
そんな説明とともに紹介されたのは〝漆黒の球体〟。その表面は、スマホを向けて撮影しているnorikoさんの姿まで写り込むほど輝いています。
この投稿には《もう工芸品》《人類が滅んだ後に宇宙人が発見して『何かの儀式に使ってた道具』って分類されるやつ》などと驚く声が上がり、11万いいねを集めました。
泥だんごに『鉛筆の芯』を振りかけたら…
— noriko🇳🇱世界泥だんご協会🌏会長 (@MPgybuHx96dPQqL) June 27, 2025
ほぼ鏡🪞。磨きを極め過ぎて泥だんごの向こう側へ行ってます。🥴 pic.twitter.com/KtizdfPBMW
投稿したnorikoさんに話を聞きました。本名は山田典子さん。実は2024年にも「泥だんごの上達が止まらない」という投稿でバズった際に、withnewsでインタビューさせていただきました。
その前年にオランダに移住した典子さんは、オランダの公園の砂場で泥だんごを作っていたところをオランダ人に見られ、「それはなんだ?」と驚かれて、「泥だんごマスター」として有名になった、というのです。
それから近所の子どもたちなどに泥だんごの作り方を教え始めた、と聞いていたのですが、今回バズった泥だんごを見て記者は「さらに上達している!」と仰天しました。しかも肩書が「世界泥だんご協会会長」になっている……! たった1年で、典子さんと泥だんごにいったい何が起きたのでしょうか?
典子さんによると、今回の〝鉛筆泥だんご〟は海外の「フォロワー」からのリクエストで、数カ月前に作ったそうです。
フォロワー、とは? 「昨年の9月からYouTubeで泥だんごの紹介を始めました。泥だんごのことしかしゃべっていない〝超マニアック〟チャンネルです」
泥だんごに関して寄せられた質問や、「こんな泥だんごを作ってほしい」というリクエストに答える動画などを上げているうちに、登録者数は1.6万人越えになっていました。そのフォロワーの99%が海外の方だそうです。
インスタグラムでも世界中から毎日、いろんな言語のメッセージが届くと言います。
「イタリア、インドネシア、トルコ、ノルウェー……ウクライナやロシアからのメッセージもありました」
典子さんはChatGPTを駆使して、様々な国の人に返信しているそうです。
人々を魅了する典子さんの泥だんごですが、作り方はいたってシンプルです。
今回の鉛筆泥だんごも、作り方は〝普通の泥だんご〟と同じ。
材料は粘土と砂、水、そして鉛筆の材料として知られる「グラファイト(黒鉛)」。
普通に磨くだけでは表面のグラファイトがなかなか定着しなかったため、粘土に練り込んでコーティングするなど、試行錯誤を重ねました。
また一気に作るのではなく、一晩寝かして乾かしつつ、二日間かけて表面を磨いていきます。そして「究極まで表面の凹凸をなくすと光ります」。
磨く作業に愛用しているのは、布や、ゆで卵などを置く卵カップです。
雲母(マイカ)パウダーなどで色付けした泥だんごは、赤や緑に輝き、まるで「宝石」のよう。そんな泥だんごは100ユーロ(約1万7000円)でも買いたいという海外客もいるそうです。きちんと梱包すれば、遠距離の発送でも泥だんごは壊れないそう。
なぜ泥だんごがここまで多くの人を魅了するのでしょうか?
その理由の一つとして、ヒントになるのが、海外のフォロワーから寄せられたメッセージです。「君はマインドセット(心構え)が最高だ」
泥だんごを丸く磨き上げる時間を、典子さんは「癒やしの時間」と表現しています。
手や指の感覚に全意識を集中させて、泥だんごの表面のデコボコを探しながら磨き上げていく時間。「その間は頭を〝無〟にできます。未来への不安や過去にとらわれる気持ちを、一回脇に置いておけるんです」
世界では「マインドフルネス」などとして注目される体験に重なります。
典子さん自身、海外移住したばかりのころ、不安で涙が溢れそうな時、泥だんごを磨くことで癒やされていたと言います。「楽しくてやっていると、いつの間にか心も健康になっているような感じです」
現代はついスマホやタブレットで「時間を溶かす」ことが多いですが、自然の土に向き合う泥だんごが「デジタルデトックス」としてもファンに刺さり、「やってみたい」という声が届くそうです。
そんな人たちに向けて典子さんが愛用する「磨きやすい」道具と土などを集めた「キット」を作りました。磨くのに適した卵カップは、同じ型でも若干磨き心地が変わるため、典子さんが大量に購入して、試し磨きをした上で選別し、梱包するという力の入れよう。
ネットで約8000円の値がついていますが、注文は後を絶たず、「2週間で60万円超売り上げたこともあります」。
まさに、泥だんごドリーム!
購入者はこれまで欧米からばかりだと言います。
典子さんによると、日本では100均ショップなどで手頃に購入できる泥だんごキットもあり、「日本は泥だんご作りがやりやすい環境は整っているので、ぜひやってみてほしい」と言います。
「日本人には、泥だんご作りは『子どもの遊び』や『無駄なもの』という感覚かもしれません。でも、疲れている日本社会にこそ、必要だなと感じます」
典子さんには、いま、もう一つの野望があります。YouTubeやインスタグラムを通じてつながった世界中のフォロワーや〝泥だんご愛好家〟たちに声をかけ、このほど「世界泥だんご協会」を発足させました。
泥だんご作りを世界各地で広めながら、「いつかギネスに載せるような大きな泥だんごを一緒に作ったり、世界の人とつながって楽しめるイベントをしてみたいです」と夢を描いています。
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