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恋愛ドラマの鉄板ネタが消える? 映画業界から消えゆくあのチケット

映画館のイメージ画像=Mr. Music/stock.adobe.com
映画館のイメージ画像=Mr. Music/stock.adobe.com

目次

映画「国宝」のヒットなど、コロナ禍で落ち込んでいた映画業界が再び盛り上がりを見せるなか、「紙の前売券が姿を消しつつある」という話を耳にしました。これをデジタル化の波だと一言で済ますには、寂しすぎる。前売券卸業界の大手「メイジャー」社長の西牧昭さんとともに歴史をひもときました。

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デートに誘いたい…手にした「チケットの名は。」

「映画の前売券?知らないです」

先日、職場で映画の紙の前売チケットを話題にしたところ、20代の同僚からそう言われてショックを受けました。

漫画やドラマでは、こんなシーンが描かれていませんでしたか?

ふとしたきっかけで家族や友人からもらった2枚の映画のチケット。これを口実に、気になっているあの人をさりげなくデートに誘いたい――。

この場面でドキドキしながら握りしめられているのが紙の「前売券」です。

映画の前売券を手に、デートに誘おうと……。そんなドラマやマンガの「あるあるシーン」をメイジャーの社員さんに再現してもらいました=都内
映画の前売券を手に、デートに誘おうと……。そんなドラマやマンガの「あるあるシーン」をメイジャーの社員さんに再現してもらいました=都内

映画業界の苦境を受けて 「前売券よ、もう一度」

「メイジャー」社長の西牧昭さんによると、紙の前売券の歴史が大きく動き始めたのは1970年代だといいます。

急速に家庭にテレビが普及し始めた時代。「娯楽の王様」と呼ばれた映画も、入場者は毎年のように減少の一途をたどっていました。映画業界のテコ入れ策として、機運が高まったのが前売券でした。

映画館のチケット売り場で買うより数百円安く購入でき、一般企業や団体向けの商品として展開され、当初は「団体鑑賞券」と呼ばれることが多かったそうです。

映画の宣伝を兼ねた紙のチケットは、企業の福利厚生の一環として取り込まれて浸透し、商店街の福引やビンゴ大会の景品などのプレゼントとしても人気となりました。

西牧さんは「前売券のお得感は、価格だけではなかった」と振り返ります。

まだ映画館の座席に「指定席」という感覚がなかったころ、スクリーンの正面に座るには、いち早く入場口に並ぶ必要がありました。

「当時はヒット映画が上映されると、有楽町の映画館のチケット売り場に、とぐろを巻くような長蛇の列ができていました」

そんな時に前売券を持っていれば、チケット売り場に寄らず、入場口に並ぶことができます。そんな「お得感」も喜ばれていたそうです。

シネコンの登場で変わる業界 「ニュー・シネマ・パラダイム」

西牧さんが「まさに黒船の襲来だった」と語る業界の大きな転換点は、1990年代から広がり始めたシネマコンプレックス(シネコン)でした。

米国発のビジネスモデルとして広まったシネコンは、ショッピングモールに併設された大型映画館でスクリーンを複数持つのが特徴です。

映画館のスクリーン数は一つが基本でした。そのため近所の映画館で観たい映画が上映されていないと諦めることもありました。

一方でシネコンは、常に複数の映画が上映され、買い物帰りに気軽に楽しめます。新しい娯楽の形として受け入れられていったそうです。

日本映画製作者連盟の統計によると、映画を上映するスクリーン数は1960年の7457をピークとし、1993年には1734まで減少していました。

全国でシネコンが広がったことで再びスクリーン数が増加し始め、2024年末時点では全国のスクリーン数は3675まで戻っています。このうちシネコンが抱えるスクリーン数は全体の9割近くを占めています。

シネコンの登場が前売券業界に衝撃を与えたのは、「座席指定」や、サービスデイなどの独自の割引、そして自動券売機やネット予約といった「映画鑑賞の新しい常識」でした。

売り場に並ばないことがメリットだった「紙の前売券」も、シネコンではチケットを指定席に交換する必要が生まれてしまいました。

前売券の歴史を語るメイジャーの西牧昭社長=都内
前売券の歴史を語るメイジャーの西牧昭社長=都内

かつてのお得感は 「推しと共に去りぬ」

シネコンでチケットのネット予約が主流となるなか、前売券の業界もそれに同調する形でデジタル化を進めてきました。

メイジャーが扱うオンラインで座席指定も出来る前売券「ムビチケ」もその一つだといいます。

チケットの形は、紙の短冊形からトレーディングカードのような形へ。通常価格よりも安いという前売券の特徴は残しつつ、アニメ映画ではチケットのデザインを特別に描き下ろしてもらうなど、「限定感」を押し出すようになりました。

この動きと同調するように「限定クリアファイル」や「オリジナルステッカー」など、前売り券と合わせた「特典」にも力が入れられるようになったそうです。

西牧さんは「いまの前売券は『お得感』よりも『推し活』に力を入れている」と分析します。

一方で「紙の前売券」の需要は、ムビチケに対応していないミニシアターなどの一部の映画館に限られ、メイジャーが取り扱う枚数も顕著に減少しているといいます。

西牧さんは「かつてデートの口実に使われていた『紙の前売券』を見かける機会は、もうあまり無いでしょう」と話します。

メイジャーでは11月26〜29日、東京都中央区銀座7丁目の銀座メディカルビル1階で初めてのポップアップイベントを開催します。

時代を彩った歴代のヒット映画の「紙の前売券」から、最近の限定チケット、特典などが展示される予定とのことです。

西牧さんは「人は映画で夢をみる。人生にはそんな現実逃避のような時間も必要です。前売券には、映画を楽しむ人たちがワクワクする時間を少しだけ長くしてくれる役割もあると思うんです。それはこれからも変わらないでしょう」と力を込めていました。

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