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「あの子にマスをやったやつがいる」知床のヒグマと人との距離は

立ち上がってレンタカーのドアミラーをかじるヒグマ=2022年5月、北海道斜里町、神村正史撮影
立ち上がってレンタカーのドアミラーをかじるヒグマ=2022年5月、北海道斜里町、神村正史撮影

あの子にマスをやったやつがいる――。北海道・知床半島でヒグマの変化を25年にわたって見てきた記者は、ここ10年で大きな変化を感じています。7月17日で世界自然遺産登録から20年となった知床で、人と野生動物の距離を考えます。(朝日新聞記者・神村正史)

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「ヒグマは出てこない」教わったけれど

記者は、多様な生態系に魅せられて北海道の知床に取りつかれ、現在の網走支局と前任地の根室支局とを合わせて10年以上、知床地域を担当しています。

北海道の知床半島先端付近の、とある場所を「定点」にして、25年前から毎年、夏から秋にかけてヒグマやカラフトマスを観察しています。

数年前までは、そこにあった番屋に泊めてもらい、番屋の主(あるじ)(故人)からヒグマについて教わってきました。

最初に教わったのが「海から陸へ風が吹いている時は、ヒグマは出てこない」ということ。

海岸にいる人のにおいが山に入り、ヒグマは警戒して姿を見せない、という理屈でした。

【もっと読む】記者の目の前で…ドラミラーかじるヒグマ 変わる人との距離 知床、40年「奇跡的」でも

マスを釣った男性に近づくヒグマ

しかし、2009年の夏、その態様の著しい変化を目にしました。

定点の海岸で釣りをする男性にヒグマが鼻をつけるほど接近していました。男性のすぐそばには釣ったカラフトマスがありました。

番屋の主が怒鳴りながら駆け寄ると、ヒグマは男性から数メートル距離を取りました。

主はその空間へ入り込み、ヒグマを叱りつけました。男性はそのすきに逃げました。

番屋の主は悔しそうに言いました。

「あの子にマスをやったやつがいる」

知床半島の先端付近の沢で遡上(そじょう)したカラフトマスを探すヒグマ=2009年9月、北海道羅臼町、神村正史撮影
知床半島の先端付近の沢で遡上(そじょう)したカラフトマスを探すヒグマ=2009年9月、北海道羅臼町、神村正史撮影

飼い犬を食べたり車をかじったり…

ヒグマは釣り人に近づけば、マスにありつけることをどこかで学習していたのです。

北海道では長く「春グマ駆除」が行われてきましたが、1990年に廃止。それから20年近くがたち、この頃は、人を恐れないヒグマが増えていました。

人に近づくと、食べ物が手に入ることを学習したヒグマも出てきていました。

知床が2005年に世界自然遺産に登録され、観光地としての人気は定着しました。

ここ10年のうちに、飼い犬を連続で食べるヒグマや、人の乗った車をかじるヒグマまでも現れました。

愛犬がヒグマに襲われた場所を説明する加瀬基敏さん=2025年6月、北海道羅臼町、神村正史撮影
愛犬がヒグマに襲われた場所を説明する加瀬基敏さん=2025年6月、北海道羅臼町、神村正史撮影

それでもなお、写真に収めてSNSへアップしようとヒグマに近寄ったり、車からお菓子をヒグマに与えたりする観光客がいます。

自然公園法が改正され、ヒグマにエサを与えたり、著しく接近したりする行為は違法となりました。

ただ、実効性があるとはとても言えません。人身被害は目の前に迫っています。

【もっと読む】飼い犬食べるヒグマ 変わる人との距離 知床、40年「奇跡的」でも

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