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エンタメ

ロバート・秋山、『笑ゥせぇるすまん』に見る独自性とキャラクター

憑依型のキャラを生み出し続ける〝秋山ブランド〟

ロバートの秋山竜次=2017年、横関一浩撮影
ロバートの秋山竜次=2017年、横関一浩撮影 出典: 朝日新聞社

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7月18日から配信が開始し、今月1日に最終話12話が公開された実写ドラマ『笑ゥせぇるすまん』(テレビ東京制作/Prime Video)。主役の喪黒福造(もぐろふくぞう)を演じたのは、お笑いトリオ・ロバートの秋山竜次だ。幅広いバラエティーで活躍する秋山の魅力とは何なのか。その独自性について考える。(ライター・鈴木旭)

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かわいげがある喪黒を完全再現

漫画家・藤子不二雄Aによる不朽の名作『笑ゥせぇるすまん』。黒のハットをかぶり、黒のスーツに身を包んだ喪黒福造が「ココロのスキマ、お埋めします」と人の心の闇に忍び込み、ほとんどの場合は人生が転落してしまう。そんなブラックユーモアに満ちた世界が、Prime Videoの実写ドラマとして復活した。

脚本は、宮藤官九郎、マギー、細川徹、岩崎う大の4人。今もっとも期待できるドラマ・映画・舞台を描く面々だ。各話でひとりがメインライターを担い、そのほかの3人がアイデアを出しながら制作するチームライティングを行ったという。

これが功を奏したのだろう。原作を現代版にアップデートした話から完全オリジナル作品まで全12話はどれも見応えがあった。『たのもしい顔』や『サブスクおじいちゃん』などのリニューアル作、『借りパクの泉』や『ホワイト上司』といったオリジナル作もよかったが、もっとも衝撃を受けたのは第5話の『夢の一発屋』だ。

夢グループの社長・石田重廣氏(本人)は、ほしいものをすべて手にしてきた。しかし、唯一叶えられていない夢が、歌手になって脚光を浴びること。ロバート・秋山が演じる喪黒は、そんな石田氏に「ほかの曲は二度と歌わない」という約束のもとでヒット間違いなしの曲『モグリズム』を提供するが……という話だ。

ひと際印象深いのが、喪黒がレコーディングスタジオで石田氏に歌い方を指示するシーン。「もぐもーぐ、もぐもーぐ、モグリズム♪ はい」「もくもーく、もくもーく♪」「あなたさっきから『もく』とおっしゃってますよね!?」などと続くシーンは、明らかに「CD」を「シーデー」と発音するなど独特な声色と口調で知られる石田氏のキャラクターを生かしたアドリブによるやり取りだった。

夢グループの石田重廣さん=2022年、嶋田達也撮影
夢グループの石田重廣さん=2022年、嶋田達也撮影 出典: 朝日新聞社

1999年に放送されたテレビ朝日系列のテレビドラマ版は、原作をもとに〝1時間の人間ドラマ〟に仕立てていた。特に伊東四朗が演じた喪黒は、「瞬きをしない黒づくめの不気味な男」という1990年前後に放送されていたアニメ版の要素を引き継ぎながらも、特徴的な口調や笑顔は強調されていない。

これに対し、Prime Video版はアニメ版と同様に各話20分程度と短く、秋山の喪黒も忠実に再現されている。前述したアドリブのシーンやエンディングで歌って踊る喪黒を見て、「ダークさが薄まった」と感じる視聴者もいるようだが、筆者は全くそう思わなかった。

例えばアニメ版の『ケーフィア』ではノリノリになって自販機の栄養ドリンクを大量に購入しているし、『老顔若体』でも「マッスル、マッスル。私の体、ムキムキにな~れ♪」とコミカルな動きで鉄アレーを上下させるシーンがある。かつての喪黒にも、けっこうかわいげがあるのだ。

秋山の喪黒は、そんな茶目っ気を引き継いでいた。初回だけならコントチックな印象を持つが、最終話まで見続けると〝あの世界〟に没入できる。その構成も含めて秀逸なドラマだった。

ロバートの3人。右から馬場裕之、秋山竜次、山本博=2014年、中井征勝氏撮影
ロバートの3人。右から馬場裕之、秋山竜次、山本博=2014年、中井征勝氏撮影 出典: 朝日新聞社

卓越した憑依芸と柔軟な対応力

秋山と言えば、様々な架空のクリエイターに扮する企画『クリエイターズ・ファイル』を思い浮かべる。10周年でYouTube登録者数100万人超え、生み出したクリエイター100人超えを達成。現在、これを記念した展覧会を東京・池袋で開催中だ。

どれも興味深い人物ばかりだが、特にYouTubeで現代アーティスト・村上隆氏とのコラボを実現させたのには面食らった。秋山が双子の弟(村上隆二)として共演しているのだが、丸顔や髪の毛だけでなく背格好や雰囲気までそっくりで、まるで奇妙なドキュメンタリーを見ているようだった。

『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「マジ歌選手権」では、海外で活動する音楽ユニット「L.A.COBRA」のボーカルとして毎回旬なタトゥー(「ZOOM会議」「紙ストロー」など)を入れて登場し、『オモクリ監督 〜O-Creator's TV show〜』(フジテレビ系。2014年~2015年終了)で披露したMV『TOKAKUKA』をはじめ、アーティストになり切った活動もたびたび話題になっている。

これだけ突出した才能を持っていると、素を見せるバラエティーは不得手だと勘ぐってしまうが、秋山はそっちでも引っ張りだこだ。

『人間研究所 〜かわいいホモサピ大集合!!〜』(中京テレビ/日本テレビ系)では、ニホンザル「リュウ」の声を担当して人間役のゲストに茶々を入れて笑わせ、『秋山の楽しすぎる約30分』(メ~テレ)ではロケの合間に「15分の仮眠」をとって集中力とパフォーマンスが向上するかを試すなど、ユニークな企画が光っている。

そのほか、小さな町を訪れ個性豊かな住民と触れ合いながらPR動画をプロデュースする『緊急!町民オーディション』(NHK総合)、吉本興業の同期芸人である森三中の3人と和気あいあいと新潟を旅するシリーズ『ロバート×森三中の気ままに日帰り旅 in 新潟』(新潟テレビ21)といった番組も難なくこなす。

各局が過去番組の映像を頻繁に使用する昨今、自宅に眠るホームビデオの可能性に目をつけた『ロバート秋山AAEC素人ホームビデオなんとかする課』(テレビ東京)は、テレビプロデューサーの佐久間宣行氏が自身のラジオ番組で創立した「サククシー賞」(佐久間氏が個人的に面白かったテレビ番組を表彰する賞)を贈ったことでも話題となった。

Tシャツを裏返すと秋山の小太り体形とマッチした著名人の顔が登場する「体ものまね」、中国の伝統芸能「変面」を多種多様な梅宮辰夫のお面に変えて笑わせる「変梅」など、ピンネタもインパクトが強い。

自身の得意分野を追求しつつ、ドラマやスタジオでのトーク、地元住民の面白さを引き出すロケ企画まで幅広い分野にも対応できる。そんな芸人はほかにいないのではないか。

中学生応援部長に扮したロバートの秋山竜次=2022年7月、大久保直樹撮影
中学生応援部長に扮したロバートの秋山竜次=2022年7月、大久保直樹撮影 出典: 朝日新聞社

メディアを問わない〝 秋山ブランド〟

秋山は、ふたつの意味でコント師のイメージを変えた。

ひとつはテレビコントの名物キャラクターという枠を脱し、自分が思い描くクリエイターを演じる(時に大仏やミイラ、微生物などにも扮する)〝秋山ブランド〟を確立させたことだ。

紙媒体の連載からスタートした『クリエイターズ・ファイル』は、時代を経てYouTubeやNetfilxなどでも制作されるようになった。メディアの多様化とともに、「秋山が生み出すクリエイター」も増え続けていく。

秋山がつむぐのは、あくまでも個性的な人物の日常であり、定番の展開やオチも必要ない。だからこそ、100人以上もの人物を生み出せたのだろう。

ふたつ目は、ロケ番組になじんでいることだ。ロケ番組と言えば、ピン芸人の出川哲朗や有吉弘行は別格として、サンドウィッチマン、タカアンドトシ、千鳥、かまいたち、なすなかにしなど圧倒的に漫才師のイメージが強い。しかし、ここ数年はロケ番組で秋山を見る機会が非常に増えた。

大抵はオープニングのミニコントで自身のペースに引きずり込み、そのトーンを保ったままスタッフや現地の人々とコミュニケーションを取っていく。思うに、そこでの経験を自身の憑依芸に生かしているのではないか。

行く先々でロケの関係者や住民と触れ合えば、おのずと特徴的なキャラクターと出会う機会も多くなる。秋山は、その人物がどんな服装を好んでいて、どんなことで笑い、興奮し、どんなふうに話すのか、あの〝仏眼〟を思わせる目で観察しているような気がしてならないのだ。

ピンでの活動が目立つのは、相方の馬場裕之が料理人・実業家として活躍し、山本博が日本ボクシングコミッション(JBC)のインスペクターとして本格的に働き始めるなど、メンバーの方向性にズレが生じた影響も大きいだろう。

とはいえ、そんなことを感じさせないほど、秋山は圧倒的な個性とスタンスでエンタメの世界を盛り上げている。

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