連載
#10 役所をやさしく
「無視してたら督促状が……」留学生を襲った結末 #役所をやさしく
日本語勉強していても……
日本語がまだ苦手な外国人に、どうやって「保険証」など、日本独自の仕組みを伝えるのか。まず、説明に使う「お役所言葉」を見直して、短い文とイラストで分かりやすく説明する「やさしい日本語」を取り入れようとしている神戸市。
ついに「やさしい日本語」の資料が完成し、本当にわかりやすいのか、外国人に見せて検証しようとします。頼りにしたのは町に暮らす留学生たち。「以前、役所から真っ赤な通知が届いたんです」。そう話す女性からは、いくら日本語を勉強し、町になじもうとしても、言葉の壁に心が折られている実情と、やさしい日本語への期待が見えてきました。
【前回までのあらすじ】
ついに完成したやさしい日本語の資料。外国人に見せてわかりやすさを検証しようとしますが、コロナ禍で「役所の窓口に来る外国人がいない」という問題に直面。検証は失敗か、と思ったその時、ベトナム人職員のダンさんが声を上げました。「外国人が来ないんだったら、こちらが出向けばいいじゃない!」
外国人がいる場所として、日本語初級者向けの「日本語教室」に目を付けました。
神戸市は外国人向けに日本語学習を支援しています。日本語学校やボランティアが開いている地域の日本語教室も、それぞれ30ぐらいあります。
声をかけると、日本語学校や専門学校も協力してくれることになりました。
やさしい日本語推進チームの中井係長とダンさんは、役所を飛び出し、やさしい日本語にした文書をもって、市内の日本語学校や専門学校、そして神戸市が実施する日本語教室を回りました。
日本語学校のインドネシア人留学生、キンタンさんが、こんなつぶやきを寄せてくれました。
キンタンさん
役所から届く通知文に「苦い思い出」があったキンタンさん。実際にできたやさしい日本語の資料を見せると、表情は明るくなりました。
元の資料は、イラストはついていても文章での説明が大半。やさしい日本語は、文章が必要最低限になっていて、自分がすること、役所の人がすることが分けて書かれていました。
キンタンさん
〈キンタンさん〉
インドネシア出身。日本に来てまだ2年も経っていない日本語学校の留学生。多文化交流促進を目的とした神戸市多文化交流員の一員として、地域のイベントに積極的に参加している。
キンタンさんのコメントに意気揚々とした中井係長と、ダンさん。
各学校の留学生に、やさしい日本語の分かりやすさを確認するため、理解度のテストを実施することにしました。
テストの手順は次のとおり。
(1)やさしい日本語にする前の、元の資料を読んでもらい、内容について答えてもらう。
(2)次にやさしい日本語にした資料を読んでもらい、内容について答えてもらう。
(3)結果を集計して、理解度の変化を比べる。
質問するのは「保険証はどこでもらえますか?」など、資料を読むことができれば分かる内容です。どれだけ、役所が伝えたいことが、伝わっているのか、試されるテストです。
しかし、各学校を回りはじめた中井係長とダンさんは、留学生や日本語教師からアドバイスを受けると同時に、厳しい「現実」を突きつけられることになりました。
学生「それで結局、どうやって保険証もらうんですか?」
ダンさん「なんで? ここに書いてあるやん!涙」
どうして、伝わらなかったのか? そこには「外国人」のダンさんですら見逃してしまった、日本語初級者の悩みがありました。
結果は次回に続きます。
〈中井係長〉
神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。酒好き。
〈多文化共生専門員 ダンさん〉
ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。
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