連載
#70 #となりの外国人
「私の常識が崩れそう…」日本人職員が嘆いた文書 #役所をやさしく
一番知りたいのは「何をしなければいけないのか」
「小難しい」言葉の代名詞ともいえる「お役所言葉」を、市民にとって、もっとやさしくしたい。そんな市長の鶴の一声で、若手や外国人職員が中心に「やさしい日本語推進プロジェクト」を立ち上げた神戸市。慣例や葛藤……役所内でさまざまな「つぶやき」が漏れるなか、ようやく、「やさしい」資料の土台ができました。完成後、「私の常識が崩れそう……」と日本人職員が思わずつぶやいた内容とは。
【前回までのあらすじ】
小難しい「お役所言葉」を変えるべく、神戸市の若手や外国出身の職員チームは手始めに年金や医療保険について説明する文書を「やさしい日本語」に変えようとしますが……。
神戸市役所のやさしい日本語推進チームは、まず、外国人職員から、役所とのコミュニケーションで困った経験を聞き取りました。
外国人職員の話によると、まだ日本語が苦手だった留学時代、役所から届く「恐怖の通知文」があったとのこと。それは「国民健康保険・国民年金」のお知らせでした。
「学校で習わない日本語ばかり」で「長々しい言い回し」。結論が見えず「いったい、何が問題?」「もう日本にいられない?」と不安ばかりが募ったそうです。
チームはその不安を解決すべく、手始めに「国民健康保険・国民年金」のお知らせを見直していきました。
まず、これまで、役所の窓口で国民健康保険・国民年金について、説明するときに使っていた資料は、こんな感じでした。
一部イラストで説明を補足していますが、文章での説明がメインです。
「保険証の封筒のあて名は、在留カードと同じ名前です。郵便受けにも同じ表記で名前を書いておいてください。郵便受けに名前の表記がないと郵便物が届かないことがあります」という感じ。日本語の初級では勉強しない言葉もありました。
そして、「やさしい日本語」にしたものはこんな感じになりました。
文章での説明がほとんどありません。
「あなたがすること」「区役所の人がすること」に分けて、やるべきことをイラストにしました。
必要最低限に絞った文章は、「郵便の箱に在留カードと同じ名前を書きます」と、やるべきことが短く、明確に一文になっています。
もともと「外国人にも分かりやすい」だろうと思って作っていた文書を、もっとやさしくするにはどうしたらいいか?
最初に神戸市中央区の保険年金医療課の担当者が、掲載する情報を見直して、表現もできるだけやさしい日本語にしました。
でも「それでは、まだ難しい」。そこから外国人職員や日本語教師がチェックして、さらに情報を削って選び出し、表現を変更しました。
「それでも、まだ難しい」と、わかりにくい表現を改善したり、イラストを活用したりして、視覚的に分かりやすいものに変えました。
こうした「もまれにもまれてできた文書」が生まれました。中心を担った神戸市役所のベトナム人職員ダンさんが、狙いを説明します。
ダンさんは、日本人職員が「最近、やさしい日本語能力はもう抜かれた気がする」と評価するほどの「やさしい日本語」の使い手です。
ダンさん
〈多文化共生専門員 ダンさん〉
ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。
とは言え、日本人からすれば違和感のある表現もあるようです。
中央区役所保険年金医療課の境田さんは、できあがった文書を見て、ちょっと不安を感じています。
境田さん
境田さん
〈中央区役所保険年金医療課 境田さん〉
令和2年度新規採用職員。国保担当。新型コロナウイルスの拡大で海外からの転入者が減少しているため、日本語の通じない方と窓口で接した経験は多くない。新型コロナウイルス収束後、増えるだろう外国人への対応をうまくできるか不安な日々。
1/4枚