連載
#1 役所をやさしく
市長のむちゃぶりに葛藤 役所を「やさしく」 神戸市職員のつぶやき
「『役所の文書はわかりにくい』ってよく言われますよね」
シンプルでわかりやすい「日本語」を使って、日本語にまだ慣れていない外国人とコミュニケーションをする「やさしい日本語」。
「小難しい」言葉の代名詞ともいえる「お役所言葉」もやさしくすべく、ある自治体が本腰を入れました。神戸市です。
やさしい日本語の「発祥の地」とも言えるのに、これまで十分に取り組んでこなかったのではないかという反省がありました。市長の鶴の一声で、若手や外国人職員が中心になって「やさしい日本語推進プロジェクト」が、9月に始動しました。
年金、医療、公文書・・・。取り組む課題は山積みなのに、メンバーはさっそく役所内のさまざまな声の板挟みに。本当に役所は「やさしく」なるのか。
そこには、さまざまな国のルーツの人が当たり前のように一緒に暮らす時代への、ヒントがあるかもしれません。
現場や外国人の「本音」のつぶやきをのぞいてみました。
中井係長
〈中井係長〉酒好き。神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。
「すべての市民にとってわかりやすい公文書改革を進めてください」という、市長の鶴の一声がきっかけで、神戸市国際課では、市内で暮らす外国人住民にもわかりやすい「やさしい日本語」の活用について検討を始めました。
「やさしい日本語」の必要性が注目されたのは、実は1995年に起きた阪神・淡路大震災でした。あの時、日本語を十分に理解できなかった外国人に必要な情報を届けられなかった反省から生まれた「やさしい日本語」。しかし「発祥の地」ともいえる神戸市には、十分に取り組んでこなかったのではないかという反省がありました。
プロジェクトの中心に抜擢された中井係長は、市役所で働いて9年目。昨年は、ラグビーワールドカップの組織委員会で、外国人スタッフとも机を並べて仕事をしました。市内には約5万人の外国人が暮らしています。外国籍の住民が多い中央区にいたっては、10人に1人が外国籍です。
外国人支援の必要性を肌身で感じていた中、今年から国際課に異動してきた中井係長。
日本で暮らす外国人に生活に必要な情報や、災害に関する情報を効果的に届けようとする、国際課の仕事にとてもやりがいを感じていました。
9月、いよいよ、プロジェクトが始動する日。
まず中井係長たちは、中央区役所の保険年金医療課で、やさしい日本語の活用をモデル実施して、その効果を検証することにしていました。
中央区は神戸市の中でも特に外国人人口が多く、100を超える国・地域からきた人が住んでいます。
保険年金医療課が取り扱う国民健康保険や、国民年金は、町で暮らしている外国人にも縁が深い一方で、外国人には理解が難しい、日本特有の制度でもあります。
中井係長は早速、プロジェクトの概要を説明しに、保険年金医療課へ。
しかし、放たれたのは、担当者からの一言でした。「やさしい日本語より、多言語対応を進めたほうが良いのでは?」
中央区役所総務課の中川係長
〈中川係長〉神戸市中央区役所 総務課 サービス向上担当係長。中央区役所における外国人サービスの向上という観点からプロジェクトに参加。国際課と現場をつなぐ架け橋。
心が折れかけた中井係長。支えてくれたのは、ベトナム人職員で多文化共生専門員として働く、ダンさんでした。
ダンさん
〈多文化共生専門員 ダン〉ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
【本日のベトナム人職員・ダンさんの励まし】
「Nơi nào có ý chí, nơi đó có con đường.(当たってくだけろ)
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。
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