日本語がまだ苦手な外国人に、どうやって「保険証」など、日本独自の仕組みを伝えるのか。まず、説明に使う「お役所言葉」を見直して、短い文とイラストで分かりやすく説明する「やさしい日本語」を取り入れようとしている神戸市。
ついに「やさしい日本語」の資料が完成し、本当にわかりやすいのか、外国人に見せて検証しようとします。頼りにしたのは町に暮らす留学生たち。「以前、役所から真っ赤な通知が届いたんです」。そう話す女性からは、いくら日本語を勉強し、町になじもうとしても、言葉の壁に心が折られている実情と、やさしい日本語への期待が見えてきました。
【前回までのあらすじ】
ついに完成したやさしい日本語の資料。外国人に見せてわかりやすさを検証しようとしますが、コロナ禍で「役所の窓口に来る外国人がいない」という問題に直面。検証は失敗か、と思ったその時、ベトナム人職員のダンさんが声を上げました。「外国人が来ないんだったら、こちらが出向けばいいじゃない!」
ひとりぼっちの家に届いた恐怖の通知
20回説明しても伝わらない日本語って何なんだ?
「翻訳は、あえてしない」多言語対応の限界とは?
異文化の果てなき戦い? 「ゴミ捨て」問題のワナ
日本人の私が「外国人」だった時…職員の気づき
「誰も飲めない物」作る? ベトナム人職員の気づき
「私の常識が崩れそう…」日本人職員が嘆いた文書
ついに完成!外国人のための文書改革に落とし穴…
やさしい日本語が必要な人とは?
外国人がいる場所として、日本語初級者向けの「日本語教室」に目を付けました。
神戸市は外国人向けに日本語学習を支援しています。日本語学校やボランティアが開いている地域の日本語教室も、それぞれ30ぐらいあります。
声をかけると、日本語学校や専門学校も協力してくれることになりました。
やさしい日本語推進チームの中井係長とダンさんは、役所を飛び出し、やさしい日本語にした文書をもって、市内の日本語学校や専門学校、そして神戸市が実施する日本語教室を回りました。
「文章が読めないと、イラストあっても……」
日本語学校のインドネシア人留学生、キンタンさんが、こんなつぶやきを寄せてくれました。
キンタンさん
でもどの文書も、パッと見ただけでは伝えたいことがわからないんです。それが重要なものかどうかもわかりません。
私は日本に来てもうじき2年です。日本語も毎日、たくさん勉強しているし、日本語や地域に早く慣れたいので、神戸市の「多文化交流員」になって、地域のイベントに積極的に参加したりもしています。
でも、役所の通知に書いてあるのは、日本語学校や地域で勉強する言葉とは違う言葉…。
漢字が多くて、難しい日本語なので、辞書を使わないと理解できません。でも、フリガナがないから、辞書で調べるのもひと苦労なんです。
文章が全く分からないので、その横に説明するためのイラストや写真があっても、あまり役に立ちません。
実は、その通知が重要なものかどうかもわからないので、余裕がないときには無視することもあるんです……。ある日、真っ赤な通知(督促状)が届いて、「さすがにこれはやばい」と思って、慌てて学校の先生に相談したこともあります。

「文章が読めないと、イラストあっても……」
役所から届く通知文に「苦い思い出」があったキンタンさん。実際にできたやさしい日本語の資料を見せると、表情は明るくなりました。
元の資料は、イラストはついていても文章での説明が大半。やさしい日本語は、文章が必要最低限になっていて、自分がすること、役所の人がすることが分けて書かれていました。


キンタンさん
それは、レイアウトがシンプルで、手続きの流れや、その中で自分がしないといけないことが分かりやすかったからです。
そしてフリガナもついているやさしい日本語なので、ある程度自分で読むことができます。
「それでもわからないところは誰かに相談しよう」。そう思わせてくれます。
〈キンタンさん〉
インドネシア出身。日本に来てまだ2年も経っていない日本語学校の留学生。多文化交流促進を目的とした神戸市多文化交流員の一員として、地域のイベントに積極的に参加している。
「書いてあるやん」
キンタンさんのコメントに意気揚々とした中井係長と、ダンさん。
各学校の留学生に、やさしい日本語の分かりやすさを確認するため、理解度のテストを実施することにしました。
テストの手順は次のとおり。
(1)やさしい日本語にする前の、元の資料を読んでもらい、内容について答えてもらう。
(2)次にやさしい日本語にした資料を読んでもらい、内容について答えてもらう。
(3)結果を集計して、理解度の変化を比べる。
質問するのは「保険証はどこでもらえますか?」など、資料を読むことができれば分かる内容です。どれだけ、役所が伝えたいことが、伝わっているのか、試されるテストです。

しかし、各学校を回りはじめた中井係長とダンさんは、留学生や日本語教師からアドバイスを受けると同時に、厳しい「現実」を突きつけられることになりました。
学生「それで結局、どうやって保険証もらうんですか?」
ダンさん「なんで? ここに書いてあるやん!涙」
どうして、伝わらなかったのか? そこには「外国人」のダンさんですら見逃してしまった、日本語初級者の悩みがありました。
結果は次回に続きます。
〈中井係長〉
神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。酒好き。
〈多文化共生専門員 ダンさん〉
ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。

これは神戸市とwithnewsの共同企画です。
小難しい「お役所言葉」を、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にしたい。
神戸市の若手や外国人職員が中心になって立ち上げた「やさしい日本語推進プロジェクト」で、さまざまな声の板挟みになる現場や外国人の「本音」を紹介していきます。
本当に役所は「やさしく」なるのか。みなさんのご意見を「#役所をやさしく」をつけてツイートしてください。
毎週金曜日に配信予定です。