連載
#7 役所をやさしく
「誰も飲めない物」作る? ベトナム人職員の気づき #役所をやさしく
「木を見ず、まず森を見よ」
日本で生活する外国人は増えています。暮らしを支援するため、中央の官庁でも進む取り組み。そこにはどんな狙いがあるのでしょうか。「やさしい日本語」での改革を進める神戸市役所職員のつぶやきを聞きながら、さまざまな国のルーツの人が一緒に暮らす時代を考えます。
【前回までのあらすじ】
小難しい「お役所言葉」を変えるべく、神戸市の若手や外国出身の職員チームは手始めに公文書を「やさしい日本語」に変えようとしていますが……。
急増する外国人の生活を支援するため、中央の官庁でもいろいろな取り組みをしています。その先頭に立っているのが、昨年新しくできた出入国在留管理庁の在留支援課です。今夏には、自治体向けに「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を作り、やさしい日本語の活用を促しています。
今夏、東京に出張した神戸市やさしい日本語推進チームの中井係長も、出入国在留管理庁に出向き、神戸市の取り組みを紹介してきました。
〈田平課長〉
出入国在留管理庁在留管理支援部在留支援課。日本における行政による在留外国人支援の大ボス。外国人在留支援センター(FRESC)のセンター長も兼ねる。労働省(現厚生労働省)に入って以来、障がい者支援、男女共同参画、災害被災者支援等の行政に携わる。長崎県庁や官民交流での勤務経験も持つ。
〈出入国在留管理庁 田平課長のつぶやき〉
今年7月、東京・四谷に、外国人の暮らしに関係が深い国の機関が集まったFRESCを作りました。省庁の壁を越えて、ワンフロアで連携しながら相談対応などを行っています。また、出入国在留管理庁では、地方公共団体が日本で生活する外国人向けのワンストップ相談窓口を開設・運営する場合の財政面やノウハウの提供などの支援も行っています。
そうした、「外国人向け」に作ったFRESCや地方公共団体のワンストップ相談窓口で、幅広い相談に対応することは「取っ掛かり」として大事だと思います。一方で、それとあわせて、実際に事務を担当する窓口で、わかりやすく情報を伝えることも重要です。そうした点から、やさしい日本語はこれからより一層大事になってくると考えて、国でもガイドラインの作成などに取り組んできました。
私たちがやさしい日本語を使って表現しようとするなかで感じたのは、「外国人の方にも分かりやすい文書」を実践するにあたっては、外国人向けにやさしい日本語に置き換えるということももちろんですが、情報の取捨選択が一番大切だということです。
何を伝え、何をあきらめるか。それができないと、本当に伝えたいことを伝えることはできないと思います。
細かい話は実際に事務を担当する窓口で詳しく相談してもらえれば良いのですが、その窓口に行っていただくための「取っ掛かり」が必要だと思います。そのためにも、まずは、やさしい日本語で制度の大きな枠組を知ってもらうことが重要です。
これは外国人だけではなく、障がい者や高齢者の方にも共通して必要なことで、ユニバーサルデザインに通じる話だと思います。
国民健康保険や国民年金という難しい制度をやさしい日本語にするという神戸市の着眼点は外国人にとって「やさしい」だけでなく、日本人にとっても「やさしい」取組みだと思います。とても素晴らしい取組みだと思いますので、ぜひ今後日本人向けの文書にも波及させてほしいです。
「やさしい日本語」を推進する神戸市国際課の中井係長は、田平課長からの激励に上機嫌。ですが、まだぬぐいきれない、モヤモヤがあるようです。そんな中井係長のつぶやきを聞いた、ベトナム人職員のダンさんが、つっこみます。
中井係長
〈中井係長〉
酒好き。神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。
ダンさん
【本日のベトナム人職員・ダンさんの励まし】
「Vì người cũng là vì mình(木を見ず森を見よ)」
〈多文化共生専門員 ダン〉来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。
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