連載
#6 若者のひとり旅
友人のだじゃれでイギリス女ひとり旅へ 財布6個、地図は暗記で護身
「よーく考え直してこい!行き先はヨークだ!」

くまこさん(43)は横浜在住。フリーランスで国際関係のNGOに携わっています。大学時代にイギリスへ2度留学したとき、友人のだじゃれをきっかけに、「度胸試し」のひとり旅が始まりました。今も旅が好きだというくまこさんに旅のスタイルや思い出を聞きました。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
神奈川県西部で生まれ育ったくまこさん。教員の父のもと、子どもの頃は自然の中でのキャンプを多く経験しました。
進学した大学では1年間のイギリス留学が義務づけられており、2000年9月から2001年8月までイギリス南東部のカンタベリーに留学しました。
しかし、大学にも寮にも同じ日本の大学から来ている学生ばかり。
英語が得意でなかったくまこさんは、英会話の授業でも「下から数えたほうが早い」クラス。親しい友人たちは上位のクラスにいました。
加えてくまこさんは人見知り。街へ出かけるときもいつも友人たちの後ろをついていき、英語での食べ物の注文も友人頼み。
ある夜、寮で食卓を囲んでいたとき、友人の怒りが爆発しました。
「ずっと言いたかった!私たちを頼りすぎ!」「自分で何か成し遂げたら!」「どっか旅でもしてこい!」
翌日、テーブルに置かれていたのはバスのチケットで、メモが添えられていました。
「よーく考え直してこい!行き先はヨークだ!」
こうして人生初のひとり旅が決定。ヨークへの2泊3日の旅でした。
美しい大聖堂で偶然日本出身の聖職者と出会い、案内してもらいながら「きっといい旅になるよ」と言葉をかけてもらえたり。
その後、街で聖職者の同僚たちと出会って「君か!聞いているよ」「こんなに雨が降らずに天気がいいのはめずらしいんだよ」と声をかけられたり。
心細くてレストランに入れず食事を逃すこともある一方で、ひとりだからこそ現地の人々と交流できるひとり旅の魅力を知りました。
「『意外と一人でもなんとでもなった』と感じるとともに、自分がそう感じていること自体に驚きました。また行ってみたいという気持ちも芽生えたし、戻ったあとには友人とも仲直りできました」
大学4年生だった2003年から2004年にかけてはロンドンに留学。2度の留学期間にはイギリス国内を積極的にめぐったほか、ベルギーやオランダにも出かけました。
地域の歴史文化に触れること、そして何より「度胸試し」が旅の動機だったと言います。
また自分で計画を立てて旅を実現していく過程も楽しいと感じていました。
「周囲にひとり旅をする人が多くて、みんなは宿やチケットも取らずに行き当たりばったりで楽しんでいましたが、私はそこは絶対に取って行っていました」
旅を繰り返すうちに自分なりの「スキル」も身についていきました。
「2年生だった2001年に9・11が起きて、4年生のときにはイラク戦争が始まりました。いつテロが起こるか分からないという情勢のなかで『自分の身は自分で守らなければならない』という感覚が強くありました」
盗まれてもダメージが少ないように、財布は6個。バックパックと服のポケットを合わせた数でした。
マップを見ながら歩いていると狙われやすいので、地図はできるだけ暗記。マップを開くときには、店の中など人目につかない場所を選ぶなど徹底していました。
注意していても、危険な目にあったり、悲しい思いをしたりしたこともあります。
夜行バスに乗るために夜の街をひとりで歩いていたらかばんをひったくられそうになったり、アジア人であることを理由にバスに乗せてもらえなかったり。
ただ楽しいだけではなく、つらい出来事に遭遇するのも旅のリアルです。
大学卒業後、国際協力のNGOに就職してからも、ゴールデンウィークや出張にあわせてタイやカンボジアに出かけてきました。
2017年には懐かしのヨークも再訪。近年は国内旅行にもよく出かけるそうです。
20年の時を経て旅のあり方に変化を感じています。
「海外のホステルに泊まっていたころは、年配の人もいるし自炊している人もいるし、多様性を自分の目で見ることができました」
「久しぶりにヨークに行くと、安いAirBnBが増えていて驚きました。日本にも安いビジネスホテルが増えていますよね」
「かつては紙のガイドで情報を調べて、電話して宿を予約して、宿で人と交流してっていうやり方でしたが、今はインターネットがあるし人と交流しなくても旅が完結するようになったんだなって感じています」
「ひとり旅の魅力はやっぱりいろんな人と話すきっかけをくれることだと思います。行きたいときに行きたいところに行きたいように行って、人と出会える。今でも旅をすることが好きだし、これからも続けたいです」
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