連載
#5 平成家族
「覚悟して選んだ」専業主婦、でも…「女性活躍」にざわつく焦燥感
かつて「男は仕事、女は主婦」が理想とされた時代がありましたが、平成では、専業主婦の価値観も変わりました。結婚・出産を機に専業主婦になった元「バリキャリ」(バリバリのキャリアウーマン)の女性は、子育てに喜びを感じながらも、「社会の波に乗っていない」と不安を抱えています。「女性活躍」の波が押し寄せるなか、「現状にもやもやする」専業主婦のリアルを探りました。(朝日新聞記者・本間沙織)
福島県の真由美さん(34)は、会社員の夫と2歳になった長男の3人暮らし。結婚を機に専業主婦になったとき、覚悟したはずだった。それなのに、長男の寝顔を見ながら、自分の存在価値を確かめたくなる夜がある。
大学を卒業した後、大手証券会社の専門職などで働いた。だが、遠距離恋愛の末に結婚した夫の仕事は激務で、毎年のように転勤がある。「一緒にいたい」という思いが勝り、仕事を辞めて家庭に入った。
いまは、一日のほとんどの時間を長男と過ごす。スイミングにリトミックといった習い事に、公園や児童館と、2人で一緒にいるのは楽しい。だけど、いつも不安と隣り合わせだ。
「息子が成長したとき、自分には何が残っているんだろう」
仕事をしていたころは、為替の動きを注視し、日々の社会の動向に目を光らせて情報の最先端に触れていた。そんな日々は遠くなった。いまの生活は「社会の波に乗っていない」と感じる。
以前のように社会の一員であることを認識し、自分のキャリアを築きたいと思う。専門性を生かして、やりがいの持てる仕事に就きたいけれど、夫が転勤するたびに転職することはできない。でも、ブランクが長くなるほど仕事を見つけづらくなる。そう思うと、焦燥感に駆られる。
東京都の佑子さん(32)は、かつて金融機関で働いていた。早朝から夜まで仕事に明け暮れ、やりがいを感じていた。でも、周囲に子育て中の社員はほとんどいなかった。
5年前に結婚したのを機に転職。その会社も、妊娠中に入院が長引いて退職した。
いま、長女は4歳になった。ひらがなを覚え、ピアノで曲も弾けるようになった。それなのに、自分は何も変わっていない。
ほとんどの友人は、子どもが1歳になると保育園に預けて働き始めた。長女が幼稚園に入ると、パートに出るママ友が増えた。周りはみんな、機会をみつけて働こうとしているように感じる。
働きたいと思うことはある。娘にやりたいことが出来たときに、我慢させたくない。それにお小遣いだって欲しい。いま、自分が必要なものは独身時代の貯金を切り崩して買っている。働けば、懐は楽になるのではないだろうか。
少し前、「働いてみたい」と夫に相談してみた。夫は残業が多く、休日も出勤する。夫からは「申し訳ないけれど、働いても家のことはお手伝いぐらいしかできないよ」と返された。遠方に住む両親には頼れない。
「仕事をしたら自分に負担がかかるのは目に見えている」
もやもやした気持ちになったときは、同じような境遇のママ友と話して気を晴らすことにしている。夫も「たまには気分転換しておいで」と言ってくれるけれど、結局家事が後回しになるだけと思うと、存分に楽しめない。
周囲からは「楽でいいね」としばしば言われるけれど、自分なりには忙しい。朝はお弁当を持たせて幼稚園まで送る。掃除と洗濯、買い物や料理を終えると、あっという間に午後1時半のお迎えの時間になる。その後、ピアノや体操教室といった習い事に向かわなければならない。ほぼ毎日、娘と夕方まで近くの公園で遊ぶのだって、体力を消耗する。
かつて、平日は仕事に励み、休日に切り替えるということもできた。専業主婦としてのいまは、24時間365日営業。終わりが見えない。
周りに頼れる人がいなかったり、子どもが小さかったり。働きたい気持ちがあっても実現しにくい環境の人もいる。「働いている人だけが偉いのかな」。「女性活躍」のかけ声のもと、みんなが一つの方向を目指そうとする風潮に、疑問を感じている。
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