連載
#2 平成家族
「代理婚活」花盛り 「親が探した相手」を受け入れる子の気持ち
平成の時代に入って少子高齢化が急激に進み、家族の姿は多様に広がりました。日本の制度や家族モデルは、それに追いついているのか――。親が子どもに代わって「お見合い」し、結婚相手を探す「代理婚活」が盛況です。「半分は参ったなぁと思いつつ、半分はありがたい」と複雑な感情の息子がいれば、トントン拍子に結婚が決まった娘も。「親が探した相手」と向き合う子どもたちがいます。(朝日新聞記者・斉藤純江、高橋美佐子)
関東在住の男性医師(32)の勤務先には、容体が急変するかもしれない重症患者が多い。急患があれば、プライベートな約束は吹き飛ぶ。そのせいもあって、結婚は考えられない。
恋人は過去に複数いた。同じ職場の看護師と付き合ったこともある。でも、恋愛がなかなか結婚には結びつかない。交際中でも結婚する意思はなかったが、母親(60)から再三、「相手は適齢期。どうするの?」と注意されていた。
そんな母親が2年ほど前から、男性の結婚相手探しに動き始めた。紹介され、顔合わせをした女性は3人。食事はしたが、誰とも2度目のデートには至らなかった。急患が入って予定をキャンセルしたこともある。
「半分は参ったなぁと思いつつ、半分はありがたい。『結婚は人間の幅を広げ、成長させてくれる』と母も言っており、いずれは家庭を持ちたい」
母親を疎ましく思いながら、感謝もしている。
千葉県の女性(41)は昨年11月に3歳年上の男性会社員と結婚した。結婚相手を見つけてくれたのは母親だ。
女性は仕事が面白く、「結婚はいずれ」と思っていた。母親が頼ったのは、一般社団法人「良縁親の会」(京都市)が主催している「代理婚活」のイベントだった。「親同士気が合えば、子どもたちもうまくいく」という考えのもと、2005年から始まった親が子どもの結婚相手を探す企画だ。
代理婚活のことを聞いたとき、女性は「親が探した相手と結婚するなんて」と違和感を持った。だが身近に出会いがないのは事実だ。「いい人ならお付き合いしてもいいかも」
会った男性は5人。その中で、「歴史好き」という共通点のある人と話が弾んだ。初対面の時は、千葉から実家近くの大阪まで来てくれた。
その後はトントン拍子だった。実家で2回目に会ったとき、「いつ僕と結婚してくれますか」と言われた。最初に会ってから半年後、結婚を決めた。双方の親たちが喜んだのは言うまでもない。
女性は東京で働く夫のため、打ち込んできた仕事をやめる決断をした。「新たな人生に挑戦したい」と、期待に胸を膨らませる。
「良縁親の会」が開くイベントは、いつも盛況だ。
昨年12月中旬、披露宴が開かれることもある東京・飯田橋の東京大神宮のサロン。60代から70代ぐらいの男女が続々と集まってきた。
「お見合い会」と銘打っているが、お見合いをするのは本人同士ではなく、親たちだ。参加費は1万3千円と安くはないが、満員の約120人が集まった。子の写真や経歴が載った「身上書」を見せ合いながら、我が子をアピールし、相手の情報を探る。
「うちの子は、子どもや自然散策が好きで」
「転勤はあるのですか」
参加者は事前に、子どもの年齢や職業、学歴、居住地などが書かれた匿名リストをチェック。胸の番号札を見ながら、お目当ての親に声をかける。
東京都の母親(70)は栃木県で医師をしている息子(39)の婚活のため、既婚の娘(46)と一緒に参加した。
代理婚活に参加したのは2回目。狙いをつけた人に○や△の印を付けたリストを手に、14人と身上書を交換した。
その日のうちに母親が身上書をファクスすると、息子自ら4人に絞り込み、会う約束を取り付けてレストランを予約したという。
お見合い会の後は、しばしば家族で息子の結婚について話を交わす。
「若い女性がいいな」
孫の顔が見たい夫は、35歳までの相手を希望する。
「それは本人の決めること」とたしなめる。「あの子はおとなしいから、てきぱきして、おしゃべりなくらいの人がいい」
遊びに来た娘も身上書を見ながら「かわいい」「考え方が合いそう」と意見する。
「来年には結婚できるかもね」と、家族の期待は膨らむ。
母親は「代理お見合いを始めなければこんな出会いはなかった」とほほ笑む。
母親自身は大学時代に知り合った夫と結婚した。息子の結婚相手は「本人がいいと思う人と」と思っていた。でも、息子は毎月のように結婚式に招かれるのに、本人にその気配はないまま40歳が目前となった。
「いずれ私たちが死ぬとき、家庭を持っている方がやっぱり安心です」
国立社会保障・人口問題研究所によると、50歳までに1度も結婚したことがない人の割合を指す「生涯未婚率」は、男性で1970年まで、女性では60年まで長らく1%台が続いていた。90年代以降は経済状況の悪化もあって急増し、2015年には男性で23.37%、女性で14.06%になった。一方、同年の出生動向基本調査によると、「いずれ結婚するつもり」と答えた18歳から34歳までの未婚者の割合は、男女ともに85%を超えている。
未婚率が増えている背景について、婚活セミナー講師の大橋清朗さん(48)は「親の時代は、恋愛が苦手でもお見合いや上司の紹介などで結婚できたが、そうしたシステムがなくなった」と指摘する。加えて、ゲームなど一人で過ごせる娯楽が増えたこともあり、結婚する意欲が低下したとみている。
「そうした時代に親ができることが代理婚活。親子が密着した関係になってきていることも、その盛況を後押ししている」
「良縁親の会」の事務所には、親たちからの礼状が山積みになっている。
「お陰様でご縁をいただき、挙式することになりました」
「お相手の職種、出身地等から会に参加させていただかなければ、到底出会う機会はありませんでした」
05年に始まり、ここ数年は毎年50回ほど「お見合い会」を開催。延べ2万6724人の親たちが参加したという。
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<代理婚活> 2000年に札幌市の結婚相談所がイベントを開催したのが始まりとされる。仕事が忙しいことなどから積極的に結婚に向けて動かない子どもに代わり、親同士が「お見合い」する。親はホテルや会議室などで開かれる「お見合い会」で子どもの身上書を交換し、子ども同士が気に入れば会う。子どもの同意を得て参加する親もいれば、内緒で参加する親もいる。全国で数十の団体や企業が主催しているとみられ、参加費は1人1万数千円程度が多い。
大瀧友織・大阪経済大准教授(家族社会学)の話 親世代は結婚するのが当然で、「結婚=幸せ」という意識が強い。一方、子ども世代は「いずれ結婚するつもり」という人が多いという調査結果もあるが、その意識の中身は異なっている可能性がある。この意識の差をつなごうと出てきたのが、親の代理婚活だ。結婚が当然ではなくなった時代に、結婚をめざす人の選択肢になるかもしれない。
夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。
朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。
税抜き1400円。全国の書店などで購入可能です。
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