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「まだ金は出るのか」閉山した金山、外資企業が狙う…町民の思いは

閉山された北海道の金山の「試掘権」を、海外企業が取得――。周辺自治体からは「まだ金はあるのか知りたい」「水が汚染されたら影響が出る」といった声が上がっています。記者が取材を振り返ります。(朝日新聞記者・日浦統)
金の価格が高騰し、採掘技術も進歩し、外資系企業が再発掘に乗り出し、閉山した日本の金鉱山が注目されています。
実際にカナダやオーストラリア系の企業が、日本の閉山された金山で「試掘権」を取得しています。
現場のひとつである北海道はかつて、日本有数の金の産地でした。
取材をしているとき、頭に浮かんだのは、漫画「ゴールデンカムイ」。元軍人の杉元佐一とアイヌの少女、アシリパが隠された金塊探しに挑む漫画で、明治末期の蝦夷地が舞台となっていました。
それから100年超が過ぎました。
オーストラリア系企業が試掘権を取得したのは、長万部(おしゃまんべ)町と黒松内町(くろまつないちょう)にまたがる旧静狩(しずかり)金山。「金湧く静狩」ともかつて形容されたほど有名な金山です。
二つの隣り合う町はともに過疎地ですが、試掘に対する態度は対照的です。
自生北限のブナ林を守り、観光資源としてきた黒松内町では「水が汚染されれば、町民の生活に影響が出る」として町を挙げて試掘に反対しています。
一方、長万部町は、明治以降の町の繁栄の象徴だった金の復活を願っています。
木幡正志町長は「まだ金があるのかは町民の多くが知りたい。町の活性化のためにも試掘はやってよい」との構えです。
取材を通じて、過疎地にとって大切な「資源」とは何か、を考えさせられました。
令和の北海道は、全国平均よりも10年早いペースで人口減少が進む「課題先進地」。179市町村の約85%が過疎地指定を受けています。
どの自治体もどうやって人口減を食い止めるか、頭を悩ませています。
再び金が採れるようになれば、金価格が高騰しているいま、雇用が生まれて、町の財政は潤うかもしれない。
一方で、もし試掘で川や地下の水が汚染されれば、住民の健康や地域の生態系に被害が生じる恐れがある――。
難しい問題なのだから、みんなが忌憚(きたん)のない意見を交わし合うことが必要でしょう。ただ、都会と違ってしがらみが多い地方では、なかなか難しいところです。
長万部町の木幡町長は「表だって町に反対する声はない」と話していましたが、真相は異なるようでした。
ある反対派の町民は「この町では目立つことをすると、たたかれる。金山で町の誰かが得をするのならば、あまり声をあげない方がいいと考える人が多い」と打ち明けてくれました。
どちらを選んでも、きっと正解はありません。それを決めるのは町民です。
「脱炭素」という時代を考えれば、北海道にはまだ様々な「資源」があると思います。
たとえば、クリーンエネルギーを生み出す風。北海道の洋上風力発電のポテンシャルは全国トップです。市民が資金を出して作る「市民風車」の発祥地でもあります。
生ごみだって資源のひとつ。堆肥(たいひ)にしたり、畜産物の飼料にしたり、発電のバイオガスにも変換できます。
道内は財政難で焼却炉を持たない自治体が多いことが、生ごみの活用につながっています。
北海道の自治体を存続させうる「資源」とはなんだろうか――。これからも取材を通じて様々な「資源」を掘り起こし、考えていきたいと思っています。