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高校の文化祭、模擬店にキャッシュレス化の波 小銭管理の負担軽減

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文化祭シーズンたけなわです。文化祭といえば、クラス全員で協力して運営する模擬店です。今、文化祭の模擬店でキャッシュレス決済を導入する動きが各地で広がっています。背景には、生徒、先生双方の「大変さ」を解消できるメリットがあるといいます。
9月下旬、啓明学園中学校・高校(東京都昭島市)の文化祭を訪ねました。イギリスのジャガイモ料理「ジャケットポテト」の模擬店で、お客さんがスマホを機械にかざしていました。この文化祭では現金が使えず、原則キャッシュレス決済で支払うことになっているためです。会計を担当する生徒は事前に使い方を学んでおり、慣れた手つきでスムーズに決済していました。
模擬店メンバーの小川滉平さん(3年)は「これまでは現金を使っていましたが、計算やおつりの準備で会計に時間がかかってしまい、お客さんの回転率が下がってしまうと感じていました。キャッシュレス決済になって会計も早くなり回転率も上がったと感じています」と話しました。
高校の鎌田浩行教頭は、「これまでの文化祭では、模擬店で使う小銭の管理がとても大変でした」といいます。文化祭の前に釣り銭用に大量の小銭を用意するところから始まり、当日の生徒と来場者との間での小銭のやり取りから、文化祭が終わったあとの売り上げの集計まで気が抜けなかったといいます。
「細心の注意を払っても、売り上げと個数が合わないなど、どうしてもミスが出てしまうことがありました。教員がずっと模擬店につきっきりでいるわけにもいかない。集計もものすごく大変で負担に感じていました」。キャッシュレス決済を文化祭に導入している事例があることを知り、「やってみなければ分からないが、もし負担軽減につながればありがたい」と考えて導入したそうです。
生徒たちはキャッシュレス決済の文化祭をほとんど抵抗なく受け入れていました。ハンバーガーの模擬店メンバーの原田那々海さん(3年)は、「普段の支払いは現金とキャッシュレスが半々ぐらい。いつも使っているのでキャッシュレス決済に使いにくさは感じませんでした」と話します。
キャッシュレス決済にしたことで、販売の自由度も上がったといいます。小川さんは、「釣り銭のことを考えてこれまでは100円単位で値段を決めていたけれど、キャッシュレス決済だと細かい金額設定ができるのもメリットだと思います」
仙台育英学園高校(宮城県仙台市)も、10月の文化祭を完全キャッシュレス決済で開催することを決めました。担当の先生によると、同校は様々なデジタル化に挑戦しており、その一環としてキャッシュレス決済の導入に至ったそうです。
同校の文化祭は例年、1千人以上が来場します。模擬店の前には長蛇の列ができるそうです。「キャッシュレス決済によって、よりスムーズで快適な学園祭を提供出来ることを期待しています」
また、キャッシュレス決済を体験することによる教育効果も目的の一つです。「現在の社会はキャッシュレス化が進んでいます。学校としては、その中で売り手・買い手として携わる経験を提供したいと考えています。キャッシュレス化の利点や問題点を、実体験をもって理解し、多角的に物事を判断する力を身に着けてほしいと考えています」
キャッシュレス決済なら、当日は各団体の売り上げがその場で確認できるため、売り上げデータの可視化による生徒たちのモチベーションアップにもつながります。「競争意識、団結力のほか、状況に応じてどのように戦略を考えるかという柔軟性などの向上を期待しています」
スマホ決済サービスau PAYは、キャッシュレス決済による文化祭を「キャッシュレス学園祭」と名付けて、キャッシュレス決済の導入をめざす学校をサポートしています。
初めてのキャッシュレス学園祭は2022年。静岡県の私立高校で実験的に導入されました。その後、2023年に11校、2024年に88校と徐々に広がり、今年は全国約150校で導入されているそうです。
キャッシュレス学園祭が広がっている要因について、KDDI株式会社パートナービジネス企画部の中尾真優さんに聞きました。「教員の業務の効率化や生きた金融教育につながるという面が学校現場で受け入れられているのではないか」と考えているそうです。
キャッシュレス決済を導入していない学校では、文化祭の前に模擬店用の金券を用意したり、おつりを用意したりする必要があり、教員にとって大きな負担になっていました。
「文化祭が終わったあとも、先生方が夜までかかって売上金の点検作業をしている、というお話も聞きます。キャッシュレス決済ならそうした負担を軽減することが可能になると考えています」
新型コロナの影響が長引いていた時期には、小銭の受け渡しによる接触機会を減らすことができるというメリットから導入を決めた学校もあったそうです。
金融教育につながるというメリットもあります。「模擬店でキャッシュレス決済を導入することで、キャッシュレス決済がどのようなものなのか、消費者側と経営者側両方から体験することができます。教科書では学べない生きた金融リテラシーを身につけられると思います」。
売り上げをリアルタイムで把握できるので、「売り上げを伸ばすために少し値下げしよう」といった販売戦略を取ることもできます。文化祭が終わったあと、KDDIの社員が学校を訪問して、当日の売り上げデータを分析した「振り返り会」を開く場合もあるそうです。
中尾さんは、「先生方の負担軽減や金融教育にもつながるキャッシュレス学園祭を今後も広げていきたいと考えています」と語りました。
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