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寿司を振る舞う芸人…「本当のおいしさが笑いになる」見据える目標は
「ダブルグッチー」の水口勝心さん
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「ダブルグッチー」の水口勝心さん
安倍季実子 ライター
共同編集記者「ハイスクールマンザイ2018」で準優勝したお笑いコンビ「ダブルグッチー」の水口勝心さん。芸人として活躍する一方で、3年前から寿司職人のアルバイトを始め、わずか1ヶ月で握り手デビューという異例の成長を遂げました。ライブやYouTubeでも、お寿司を振る舞う水口さんですが、「お笑いと寿司職人は完全に別軸でやっている」と話します。二つの世界を分ける理由、それぞれにかける思いを聞きました。(ライター・安倍季実子)
3年前に始めた寿司職人のバイトで、今は仕込みから握りまでをこなすというお笑いコンビ「ダブルグッチー」の水口勝心さんは、「ダブルグッチー水口が寿司を握るライブ」というユニークなタイトルのお笑いライブを開催しています。
大将役の水口さんが大喜利のお題を出し、いい回答を出した芸人にその場でお寿司を握って振る舞うという内容です。
ライブ後は、SNSに「お寿司が本当においしそうだった」「帰りに回転ずしに寄った」という感想が上がります。
お寿司の腕前を認められて、所属事務所のYouTube番組では「ダブルグッチー水口の特上寿司ふるまいトークSP!!!」という回も放送されました。仕込みや握り方の説明も交えながらお寿司を握り、その本格的な技で多くの人を驚かせました。
お笑いとお寿司はかけ離れたものに思えますが、水口さんは「不思議なことに、真面目にお寿司を握って振る舞うと、本当においしいっていうことが笑いに変わるんです」と話します。
もともと釣りが趣味だった水口さんは「どうせなら寿司を握れるようになりたい」と考えていたところ、芸人仲間から回転寿司チェーンのバイトを紹介されました。
しかし、初日から予想外の展開が待っていました。
「『お寿司が握れるやつ』と紹介されていたらしくて、初日なのに握り場に立たされました。もちろん、それまで寿司を握ったことはなくて、見よう見まねでやってみたら、すぐに『もう下がっていいよ』と大将に言われてしまいました」と振り返ります。
その後、裏でお皿を洗っていたところ、大将が「あの子、何もできないよ」と紹介した芸人に言っていたそうです。
「それがかなり悔しくて、絶対に握れるようになってやろうと思いました」
バイト先の職人の握り方を観察したり、わからないことは率先して質問したり、寿司を握る動画を見て研究したり……。
持ち前の負けず嫌いな性格も幸いし、わずか1ヶ月で握り手デビューを果たしました。
現在は、寿司職人として3店舗目となる回転寿司チェーンで、週3〜4日働いています。勤務時間は日によって異なりますが、基本的には11時から17時で、月収は約15万円。
「夜はライブに出て、打ち上げをして終電で帰って、また次の日朝の11時から働く、というスケジュールです。しっかり働いて、ちゃんとリフレッシュして一日が終われるんで、かなりワークライフバランスはいいと思います」と笑います。
「今のバイト先はいわゆるパフォーマンス系で、お客さんの前で魚をさばいたり握ったりします。ほかにも、その日に入っている新鮮なネタを勧めたり、お客さんからの質問に答えるといった接客もします。ネタに興味を持ってもらったり、直接『おいしい』って言ってもらえるのは、やっぱりうれしいです」
水口さんがやりがいを感じるのは、自分の成長を日々実感できるところです。
「毎日お寿司を握っているので、昨日より早く握れるようになったり、少し握り方を変えたらよりおいしそうに見えたりします。小さな変化ですが、自分が伸びているなと感じられます」
そして何より楽しいのが、培った技術を芸人仲間に披露することです。
「たまに、飲み会などで先輩や同期の芸人たちにお寿司を振る舞います。『おいしい』と喜んでもらったり、『予想以上に本格的だった』と驚かれたりするのもうれしいです」
ただし、出張寿司屋になるつもりはないと水口さんは言います。
「あくまで芸人仲間や親しい人たちとの交流の中で、意外性を楽しんでもらったり、本格的な寿司のおいしさに驚いてもらったりすることが目的なんです」
水口さんがこのバイトを続ける理由の一つに、職人たちとの交流があります。
実は根っからの昭和好き。「カラオケでは、中西保志さんとかオメガトライブさんとかの懐メロをよく歌います。あと最終的にこうなりたいなと憧れているのはドリフターズです」
そんな水口さんにとって、バイト先のベテラン職人たちは不思議な魅力を持った存在なのだそう。
「もともと六本木や銀座などの一流店で握っていた職人が、定年後に回転寿司で働くパターンが多いんです。技術も一流ですが、人間性も昭和らしい豪快さに満ちているんですよね」といいます。
たとえば、大きな声で「新鮮なアジの味を味わってください!」といったダジャレを言うことも。
「一緒に飲みにいくと、年齢や体のことを考えずにお酒をたらふく飲んで、フラフラになりながら最終電車で帰っていきます(苦笑)」
芸人活動と寿司職人のバイトを続けるなか、水口さんは「2つの世界を完全に分けて考える」と決めているそうです。
「寿司職人とお笑いは別軸でやってるので、何とかして2つをつなげようとは考えてないです。ライブでも、本気でおいしいお寿司を握ることに集中していて、それが結果的に『マジでおいしい』っていう笑いになっているだけなんです。寿司職人は寿司職人で極めたいし、芸人は芸人でちゃんとやっていきたいんです」
寿司職人としての目標は、「寿司を2手で握ること」。
「今は3手で握ってるんですけど、手数が少なければ少ないほど、魚に触っている時間が短いほどよいとされているからです。そしていつかは、一流店の職人との実力勝負にも挑戦したいです」
芸人としてはM-1グランプリの準々決勝進出が直近の目標ですが、いつかは故郷である北海道への恩返しもしたいといいます。
「今も地元のラジオ番組を担当させてもらっていますが、まだまだ知名度は低くて(苦笑)。今の仕事をコツコツ頑張って、いつかは事務所の先輩のサンドウィッチマンさんみたいに、東京でも地元でも活躍できる芸人になりたいですね」
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