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池袋に中高生の居場所…夜も開館 「元祖ユニバーサル」な児童館とは
「居場所」とは何でしょうか。

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「居場所」とは何でしょうか。
全国に4000以上ある「児童館」。不登校の子どもの居場所にもなっていますが、地域によって偏りがあり、存在すら知らない子もいます。記者も東京に赴任して初めて知りました。「多様な居場所づくり」のひとつとして、国も注目している児童館は、近年は中高生向けの施設も増えてきています。子どもたちがどんな風に過ごしているのか、取材した記者が紹介します。(朝日新聞記者・狩野浩平)
取材にうかがったのは東京都豊島区立の「中高生センタージャンプ東池袋(ジャンプ)」。東京有数のターミナル駅、池袋から歩いて15分ほどの都市部にあります。
児童館というと、小さな子ども向けの居場所かと思っていましたが、近年では中高生向けの児童館も増えてきています。
ジャンプのなかに入ると、身体の大きな中高生たちが顔を輝かせ、思い思いの過ごし方をしていました。
漫画、テレビゲーム、ボードゲーム、ダーツ、ビリヤード、ギター、ピアノ、卓球、バスケットボール……。他にもカウンター席で勉強している子や、突っ伏して寝ている子もいました。
利用できるのは区内在住・在学の中高生世代。平日は午前10時から午後8時まで(中学生は午後7時まで)利用でき、放課後に遊びに来るのはもちろん、不登校の子が日中過ごすこともできます。
長年利用している男子高校生に、「あなたにとってジャンプはどんな場所ですか」と聞くと、はにかみながら「第二の家。ここに住めます」と答えてくれました。
友人同士で来れば、基本的に自分のグループだけで遊び、他グループと関わることは少ない。職員に話しかけられたり施設のイベントがあったりしても、自分のやりたいことに集中していると興味を示さないこともしばしば。
大人からすると「せっかくだから知らない子とも遊んでみたら?」とか「せっかくだからイベントに参加しようよ」と、つい声かけしたくなってしまうかもしれません。
でも中高生には、やりたいことや交友関係など全てひっくるめて、ジャンプでの理想的な過ごし方のイメージ、世界観があるようです。
ジャンプでイベントを開く職員は「もっと積極的に参加してもらえるよう工夫はしています」と苦笑いしますが、子どもを尊重しつつ控えめに働きかける大人の姿勢が、安心して過ごせる空間を生んでいるのだろうなと感じました。
こんな児童館の役割に、国も注目し始めています。こども家庭庁は児童館ガイドラインを改正したり、中高生向けの機能強化をはかる児童館への補助率を上げたりと、様々な施策に取り組んでいます。
背景にあるのは子どもの自殺者数の高止まり。自殺した小中高生は年間500人を超え、2024年版自殺対策白書によると、主要7カ国(G7)の10~19歳の死因で自殺が1位となっているのは日本のみです。
政府は5月にまとめた孤独・孤立対策の重点計画で、「家庭でも学校でもない多様な居場所づくり」が必要だとし、その一例として全国で4259か所(厚生労働省「社会福祉施設等調査」より令和5年10月1日現在)ある児童館も挙げています。
しかし「居場所」とは何でしょうか。空間や施設といったハコモノではないでしょうし、漫画やゲームなど子どもが好きそうなモノをそろえるだけでもないでしょう。
ヒントをつかみたくて、文教大学人間科学部の青山鉄兵准教授を訪ねました。専門は青少年教育で、こども家庭庁のこども家庭審議会こどもの居場所部会の委員も務めています。
青山准教授は、児童館を「元祖ユニバーサルな場所」「成長を求められない場所」と表現しました。困りごとの有無にかかわらず誰でも利用でき、大人から過度に何かを求められない。そんな居場所が、今の中高生世代には足りないというのです。
ジャンプ東池袋ができた2000年代後半は、私自身の中学・高校時代とも重なります。家庭では親とけんかし、学校では先生と対立していました。
虐待や過度な体罰を受けたわけではなく、社会的なサポートを受ける理由があったわけではありませんが、どこか窮屈な思いがありました。
あの頃、ジャンプのような場所があれば――。とげとげした思いをはき出せたり、周囲との関わり方についてアドバイスをもらえたり、そんな居場所があったら、自分も周囲ももっとハッピーになれたのかもしれません。
家庭でも学校でもない第三の居場所とは、そんな効果のある場所なのかなと感じました。
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