連載
#1 平成家族
日本の家族、ようやく「変わり目」 税や社会保障、多様な実態合わず
平成の時代に入って少子高齢化が急激に進み、家族の姿は多様に広がりました。日本の制度や家族モデルは、それに追いついているのか――。「日本の家族は今、ようやく『変わり目』を迎えている」。家族社会学が専門の落合恵美子・京都大学教授に話を聞きました。(聞き手、朝日新聞記者・高橋美佐子)
日本の家族は今、ようやく「変わり目」を迎えていると、私は感じています。
働き盛りの世代が減り、高齢層が膨らんで、子どもの数が少ない。そんな現状を嘆く声もありますが、これこそ人類が夢見た、いわば「長寿革命」が実現した社会です。今後も続いていく姿で、そこに適合する仕組みを作っていくしかありません。
欧米諸国は1970年代、高齢社会とオイルショック後の不況に直面し、変革を迫られました。若者は失業し、結婚せず、出生率が低下した。この苦境から抜け出すために各国が選んだ道が「女性の活用」でした。
当時は「稼ぎ主の男性―主婦の女性」という性別分業を前提に、子ども2、3人を育てていました。夫婦2人で働かないとやっていけないので共働きが広がり、保育や介護などのそれまで家族が担っていた「ケア」を国が分担する。移民政策もあって労働人口は保たれ、90年代後半になると経済は立ち直っていきました。
一方、日本は90年代、急激な高齢化とバブル崩壊後の不況の中で、かつての欧米と同じような危機に見舞われました。出生率の低下や介護問題が顕在しても、改革はなかなか進まず、「失われた20年」に苦しむことになった。この間に、15歳から64歳までの生産年齢人口は激減しました。
その理由として、日本はつかの間の経済的成功に浮かれた80年代に、欧米で進んでいる改革とは逆向きの、性別分業を強める政策を打ったせいだと、私は考えています。
その一つが、86年に専業主婦を対象に年金制度へ導入した「第3号被保険者制度」です。年収130万円までの配偶者を被扶養者として基礎年金に繰り入れたことで、男性が稼ぎ主の世帯を標準モデルとする社会保障システムをより固めることにつながりました。
生涯未婚率の上昇などで家族の標準モデルは崩れ、非正規シングルや共働き、ひとり親などに現在の税や社会保障の制度が合わなくなっています。
少ない数の子どもが親を介護し、子育てを助け合う兄弟姉妹はおらず、家族にとっての「ケア」の負担も重くなっています。こうしたケアを「見える化」して正当に評価し、賃金が支払われる労働と合わせて合理的に配分しなければ社会は回りません。家族も社会も変わるしかないのです。
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落合恵美子・京都大学教授 1958年東京生まれ。専門は家族社会学。著書に「近代家族とフェミニズム」「近代家族の曲がり角」「21世紀家族へ」など。
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