連載
#12 役所をやさしく
日本語上級者の「N1」でもわからない文書って? #役所をやさしく
外国人に限らない超重要なこと
小難しい「お役所言葉」で書かれた役所の文書を、誰にとっても分かりやすい「やさしい日本語」に変えようとしている神戸市。まずは年金や国民保険の手続きを説明する文書を見直しました。日本語を勉強中の留学生たちにテストを受けてもらい、理解度を検証したところ、やさしい日本語の効果が証明された一方で、日本語上級者でも従来文書は読み解けないことが判明。「日本語を勉強してもらう」だけでは解決できない問題も見えてきました。
【前回までのあらすじ】
ついに完成したやさしい日本語の資料。意気揚々と留学生に見せにいった神戸市職員ですが、留学生からは「それで、結局、どうすればいいの?」と質問が返ってきました。なぜ伝わらなかったのか、ベトナム人職員のダンさんが外国人視点で見直して、文書を改善しました。
神戸市の「やさしい日本語推進プロジェクト」の中井係長と、ベトナム人職員のダンさんは、神戸市内の日本語学校・専門学校11校、外国人留学生104名に協力してもらいました。中井係長が報告します。
〈中井係長〉
テストは、まず従来、役所の窓口で使っていた文書を読んで、質問に答えてもらいました。
次に、同じ内容について、文章を短くしてふりがなを振り、イラストをつけた「やさしい日本語」の文書を読んでもらい、同じ質問に答えてもらいました。
問題別に見ると、「やさしい日本語(やさ日)」にしたときの正答率はすべて上がりました。(複数回答が必要だった問題は、選択肢を一つしか選ばずに不正解となった人が多かったため、検証結果から除外しました)
全体で見ると正答率は44%から65%に上がりました。良かった!
日本で暮らす外国人と日本人がともに気持ち良く地域で生きていくためには、まず生活に必要な情報やルールを知ってもらうことが大切です。その情報提供を担っているのが役所です。
それと同時に、地域で外国人と日本人がお互いに意思疎通ができることも大切。外国人に少しでも日本語能力を高めてもらうため、私たちは日本語を勉強するための環境を整えることに取り組んでもいます。そして、日本人側は「やさしい日本語」など分かりやすい表現を使って、歩み寄れば、もっとお互いにとって住みやすい町ができるんだと思います。
最初は「やさしい日本語」って何だろうと、自問自答していた私。外国人向けの日本語表現だと思っていました。
でも、「簡単な日本語を使えばいい」ということだけではないことが、今回の取り組みで、よく分かりました。
やさしい日本語の資料を作るときに一番力を入れたのは、とにかく何を伝えたいのか、情報を整理することでした。
伝えたいことを、単純に、分かりやすく配置する。これが一番重要で、外国人へ情報提供するときに限ったことではないと気づきました。
やさしい日本語の取り組みは、神戸市長の目指す「(外国人も日本人も)すべての市民にとってわかりやすい公文書」につながる足掛かりであることを強く感じました。
作り手の気持ちを直に聞いて、理解して飲んだ日本酒は、やっぱり格段に味わいが違います。お互いが歩み寄る大切さ。
丁寧でありながら、純粋にうまい酒。これはみんながうまいと感じるはずで、きっと市長もうまいと感じてくれるはず。
あれ、日本酒の話ではなかったか。まぁ、とりあえず飲んで考えを整理しますか。残すは、市長への成果報告。どきどき……
〈中井係長〉
酒好き。神戸市役所 市長室 国際部国際課。やさしい日本語推進プロジェクトの中心的役割のはずなのに、落ち込みがち。
ようやく検証も終わり、やさしい日本語の効果とその注意点が分かってきた中井係長。
「すべての市民にとってわかりやすい公文書改革を進めてください」という言葉で、この取り組みのスタートを切った市長。いよいよ市長にその内容を報告しに行くことになりました。
果たして、市長の期待に応えられる内容なのか。今夜も中井係長の晩酌はとまりません。
ダンさん
〈多文化共生専門員 ダンさん〉
ベトナム人。来日9年目。神戸市役所 市長室 国際部 国際課 多文化共生専門員。神戸市ベトナム語版Facebookの開設・運営など、外国人の視点から神戸市の多文化共生関連事業に携わる。プロジェクトでは、自分の経験に基づき、外国人に求められる情報ややさしい日本語について監修。
ダンさんのコラムは、神戸市ベトナム語版Facebookで読むことができます。
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