連載
#11 #おうちで本気出す
「はつらつとしていない」キャラが魅力?サンエックスにはまった人々
元々、便箋や封筒を作って販売していた会社でした
後ろ向きな世界観が人気の「すみっコぐらし」には、ぬいぐるみをはじめとしたキャラクター商品にはまる人が少なくありません。その特徴は、キャラクターとしてはあまりない「主張が強くない」こと。製造元の「サンエックス(San-X)」は、これまでに「たれぱんだ」や「リラックマ」などのヒットを飛ばしています。「はつらつとしてなさ」にはまった筆者が、「サンエックス」の魅力に迫りました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
筆者の家には、すみっコぐらしのぬいぐるみなどが30種類ほどあります。
キャラクターに無関心だった6年前、日々の殺伐とした仕事に疲れていた筆者は、たまたま入った名古屋のロフトで、目が生き生きとしていない「ぺんぎん?」を見かけたことがきっかけで、徐々にその存在が気になっていきました。
2019年11月に公開された映画は、趣味と仕事が入り交じった形で書いてきた記事がきっかけで、イベントにも登壇させてもらいました。
サンエックスのキャラクターの特徴は、あまりはつらつとしていないところにあります。それが逆に、元気で自己主張ができ、リーダーシップを発揮する人が重宝されがちな現代社会において、オアシスのような魅力になっていると感じています。
旅行などの非日常に飛び立てない中、「すみっコ」たちが何げない日常を楽しく過ごしている姿は貴重で、筆者の気を楽にしてくれます。
筆者のように、サンエックスのキャラクターにはまってしまった人は少なくありません。
「普段は親子ですみっコぐらしを楽しんでいますが、外出自粛の期間を同じ趣味の方々とつながる時間にしたいと思いました」。自宅のぬいぐるみの撮影会をリモートで企画した40代の女性は、発案した理由をそう説明します。「#リモートしろくまの会」などのタグをTwitter上で作り、賛同した人々が自宅から写真をアップし、輪が広がりました。
東京都の声優・大田敦子さんも、ずっと自分探しをしているぺんぎん?がお気に入り。「自分と重なる部分があるなあと思っていたら、いつの間にかはまっていて、気づくとぬいぐるみに追いやられて、自分が部屋のすみっこにいました」
自身も「#リモートぺんぎんの会」に参加しました。「どうしても暗いつぶやきが増える中、色んな方の写真を見ることでほっこりでき、自分の写真も誰かに届けば良いなと思いました」。外出する機会が減り、きれいな景色をなかなか見られない今、家の中でお菓子や料理とぬいぐるみを一緒に撮ることで、癒やされたり、気分転換になったりするそうです。
サンエックスのキャラクターのどこに魅力を感じるのでしょうか。
長野県の40代女性は、すみっコぐらしの他に、ゆる〜い脱力系ぱんだ「はみぱ」や最近登場した「ココロアライグマ」のファンでもあります。カバンなどにつけたキャラクターたちが、小売り関係の仕事で出勤を続ける励みになっているそうです。
「間口が広く、嫌みなキャラクターがいないのが魅力。眺めることで、日々のストレスを解消しています」と打ち明けます。
東京都のすぐ隣・山梨県上野原市に住む男性(36)も、サンエックスが生み出す、年代を選ばない世界観に魅了された1人です。
「サンエックスは、かわいさの中にもストーリーや笑いがあったり、どの年代の人が見てもほほ笑ましいキャラクターを世に送り出してたりしているイメージです」
男性は現在、高速道路関係の仕事をしているため、新型コロナウイルスの影響はそこまで受けていません。ただ、ファン同士の直接の交流がないため、SNSでの情報交換にいそしんでいます。お菓子についている塗り絵をしたり、回転ずしでテイクアウトして缶バッジを集めたり、さらには映画のDVDを見たりと、マイペースに「すみ活」をしているそうです。
「日常のちょっとしたことにもすみっコがいるので、自分にとっては相棒みたいな存在かもしれません」と男性は笑顔つきのメッセージを送ってくれました。
カシャ📷#お家時間のすごしかた#ぬい撮り pic.twitter.com/ax6O7e4Q8R
— リラックマごゆるりサイト公式 (@rilakkuma_gyr) April 22, 2020
どのような歴史を経て、「はつらつとしていない」キャラクターを生み出すようになった会社なのでしょうか。東京・神田にあるサンエックスの本社は、キャラクターを作っていると一目では分からなさそうな渋い建物の中にあります。
会社を四半世紀以上の間見てきた商品企画室の鈴木さんと、広報の桐野さんが細かく教えてくれました。
会社の始まりは1932年4月、故・千田杏三さん(1983年に78歳で死去)が立ち上げた個人商店「チダハンドラー」でした。
創業した頃は、工夫を凝らした便箋(びんせん)や封筒を作って販売していた会社で、当時の客は主に文具店でした。今の会社とはイメージが異なりますね。
その後、1941年に有限会社となり、1957年に株式会社化します。「サンエックス(San-X)」の名前になったのは1973年のことでした。名前の由来は明らかにされていません。
そして、ちょうど今から40年前にあたる1980年、キャラクター要素のあるものが二つ出てきました。一つは「ボビーソクサー」という1950年代のアメリカンポップ調のデザインのもの、もう一つは「アクアマリン」という海をモチーフにしたキャラクターのシリーズでした。文具から雑貨まで幅広く販売され、どちらもヒットしました。
その後も、世代の人はどこかで見たことのある1987年の「ピニームー」や1988年の「カイジュウパラダイス」などのキャラクターたちも世に出ました。カイジュウパラダイスは、現在のいわゆる「サンエックスキャラクター」のイメージとは若干違う、分かりやすい表情になっています。当時は、現在のキャラクターよりもシンプルな「かわいらしさ」を求められていたといいます。
こんなキャラクターも登場しました。それは1989年の「エスパークス」。例えばノートの場合、全32ページにわたってマンガやゲームが楽しめるといったように、エスパークスは、全ての商品で凝った作りになっていました。ノートやペンケースなどといった実際に使える商品で遊べる仕掛けは、当時としては珍しい試み。画期的なキャラクターでした。
1991年生まれの筆者とは惜しくも時代が違いますが、主に男子小学生に人気だったそうです。懐かしい方もいらっしゃるのではないでしょうか。それまでは比較的、女性をターゲットにしていた会社でしたが、男性のユーザーも意識するきっかけになりました。
ただ、ここまではあくまで文房具がメインの会社です。今のようにキャラクターが中心となるのは、まだ少し先のこと。朝日新聞社の記事データベースを見ても、「サンエックス」という名前は、1999年に「たれぱんだ」を取り上げるまで1本もありません。後編では、たれぱんだの登場が、どのようにサンエックスに影響を与え、今のような会社の形になっていったのかについて迫ります。
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