連載
#19 キャラクターの世界
映画すみっコぐらし、登場する謎のキャラ すみっこにいない人が騒ぐ
ネタバレはあるけれど…ぬいぐるみを持った優しいトークショー
登場するキャラクターの多くは部屋のすみが好きという異色の作品「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」。前作に引き続き、今作も好調で、11月5日の公開から動員数は50万人を突破。11日に開かれた上映会後のトークショーでは、男性3人がキャラクターを抱えて登場する珍しい光景も。すみっコ好きな参加者の優しいまなざしに見守られつつ、映画の監督の言葉から見どころを探りました。(元すみっコぐらし学園認定記者・影山遼)
〈おおもり・たかひろ〉
1984年にアニメ制作会社「スタジオディーン」に入社。フリーのアニメーター、実写映像のディレクターを経て、96年に「赤ちゃんと僕」で監督としてデビュー。主な作品に「地獄少女」「夏目友人帳」「デュラララ!!」「海月姫」 がある。
配給会社のアスミック・エースによると、上映しているのは全国184館。公開3週目にして、動員数は52万人を超えました。興行通信社の集計によると、国内の映画ランキング(20~21日)では総合の1位を獲得しました。
都心の新宿ピカデリー(東京都新宿区)では11日、「青い月夜の上映会」が開かれました。上映会後のトークイベントでは、映画の監督・大森貴弘さんとアニメーションを制作した「ファンワークス」代表の高山晃さん、そしてこの記事の筆者・影山遼が映画について語り合いました。
木曜日の午後7時からの上映という時間でしたが、会場の大半は埋まっており、30歳の私と同年代もしくは年上の人が多かったように見受けられました。イベント中に聞いてみると、8割ほどの人は1人で来場したということでした。
登壇者は、お気に入りのキャラを持って登場。私は前作に引き続き、もう7年の付き合いになる「ぺんぎん?」(自分が本物のペンギンなのか自信がない黄緑色の存在)を持参。自身と「たまたま」同じ色合いの「とんかつ」(脂っこいから残されたトンカツの端っこ)を持った大森さんと、今作の鍵を握る魔法使い「ふぁいぶ」を持った高山さんとイベントに臨みました。
イベントの中で飛び出した今作の裏話をいくつか紹介します。一部ネタバレありですので、映画の鑑賞後に一読ください。
まず、ネタバレにならない大森さんのお気に入りのシーンから。大森さんは「色々あるんですけれど、冒頭の魔法のシーンです。(背の高い魔法使いがステッキをふったら夜空に現れた星の)川は、スタッフに頑張ってもらってきれいにできたので、満足しています」と振り返ります。
次に大森さんがあげたのが、すみっコたちと魔法使いたちが出会って始まったナイトパーティーのシーン。大森さんは「僕の作業が押してしまって、遅くなってからスタッフのみなさんに着手してもらいました。ですから、なるべく負担のかからないようやっていたんです」と反省。かなり描き込まれたシーンでしたが、「苦労してうまいことやってくれたので、素直にたたえたいと思っています」と明かします。
今作で映画の根幹となったのは「夢」と「魔法」でしたが、それ以外にも大森さんが重視した部分としてあげたのが「日常」でした。
日常を描く上で苦労した点として、大森さんは「日常っていうものをやりだすと、手描きで描かなきゃいけないものが膨大にあって、3Dだけだと追いつかなく、2Dの作画を入れ込みながらの作業でした」とします。実際に制作に関わった高山さんは「(すみっコぐらしの持つ)温かさというものが、手描きも入れたことでずいぶん伝わったのではないかと思います」と制作側からの感想を述べます。
日常の話が出てきたところで、今作の「すみっコマーケット」や「すみっ湖」に出てきた謎のグレーのキャラクターについて、気になったので聞いてみました。
大森さんによると、「(映画)全体のテーマの中に、とかげとお母さんの話が入りつつ、どういった物語を作っていこうかと。同時に、私は日常をやりたいということもあって、考えていく中で、お母さんがとかげと一緒になぜ暮らせないのかということに思い至りました」。その上で「見つかると捕まっちゃう、原作では新聞記事のような描写になっていたんですけれど、その向こう側にあるすみっコたち以外の誰かという目線が必要だなということになりました」。
実際、大森さんが過去に監督した「デュラララ!!」という作品でも、グレーのキャラクターを出した演出はやっていたそうです。
その経験を基に「存在感をなるべく消すので、グレーのキャラクターを出せないか」と話し合った大森さんら。「すみっコたちが、スミッシーに対して騒ぐという印象には、やっぱりしたくなかった」という思いが裏にありました。「あそこに住んでいるであろう、すみっこにいなくて良い人たちが騒いじゃうんじゃないかっていう雰囲気がベースにほしいということで、ああいったキャラクターを配置することになりました」と教えてくれました。
すみっコたち以外の誰かが騒いでいるからこそ一緒に暮らせないという、言われてみれば当たり前だけれど、なかなか思い至ることのない視点に合点がいきました。
かなり物語の核心に迫る話となりますが、すみっコたちが普段と変わった姿になる今作の象徴的なシーンについては、どのように進めたのかも聞きました。
大森さんは「ちょっとおかしくなっちゃったすみっコに、(制作関係者の)みなさんも乗ってくれて、アイデアをくれて、それらが実現してあのような形になりました。普段見られないすみっコを見ましょう、という感じです」と話します。
一方で、反省点として「しろくまは寒くないといけないというのが、ナレーションでやっても書き文字でやってもどうしても長くて、入れきれなくて、分かりにくくなってしまいました」という部分をあげます。
ある物が割れて、あるすみっコが元に戻るというシーンについては、「あれは原作にありましたからね」と楽しそうな監督。どうやって通常に戻るのか考えていく作業はかなり面白かったようです。
続いて、会場に来てくれた観客が事前に出してくれていた「タイトルの『青い月夜』ですが、ただの『月夜』だけでなく『青い』とつけたことで幻想度が増していると思うのですが、どこから思いついたのでしょうか」という質問。
大森さんは「脚本を作っている段階では『大きな月』のような話はしていたんですよね、(脚本の)吉田(玲子)さんと。よくよく考えてみると、1作目の冒頭も赤い月から始まっていましたよねという話になり、かぶらないように青にしたっていうのが率直なところです」と打ち明けます。
最後に大森さんの今の夢を問われると、「仕事の面では基本やりたいことをやらせてもらっていますので、これからもなるべく長いことたくさんの作品を作って、みなさんに楽しんでいただけたらなというのを思っています。それがまあ夢ですかね」。
影山遼〈かげやま・りょう〉
すみっコぐらし学園で「すみっコ仕事人」を連載。普段は、朝日新聞コンテンツ編成本部の地域ディレクター。
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