連載
#16 キャラクターの世界
評判呼んだ映画すみっコぐらし 第2作、注目すべきは「目」と「夢」
夢とは何か、考えさせられる映画に
11月5日に公開される「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」。すみっこが落ち着くキャラクター「すみっコぐらし」が、部屋のすみを飛び出して大スクリーン(のすみ)で躍動する映画第2作です。幅広い層が観賞し、SNS上で高評価が相次いだ前作の舞台となったのは「絵本」でしたが、今作の舞台は「魔法の世界」でテーマは「夢」。公開を前に、見どころに触れつつ、作者のよこみぞゆりさんや原作のサンエックスのデザイナーチームの夢を語ってもらいました。(すみっコぐらし学園認定記者・影山遼)
〈よこみぞ・ゆり〉
2011年、サンエックスにデザイナーとして入社。著書に「絵本すみっコぐらし そらいろのまいにち」など。「絵本すみっコぐらし いつでもとなりに」 (ともに主婦と生活社)も制作中。現在はフリーのイラストレーターとして活動中。
Twitter=https://twitter.com/yokomizoyuri
Instagram=https://www.instagram.com/yokomizoyuri/
現在はフリーのイラストレーターとして活動するよこみぞさん。サンエックスのショールームで記者を出迎えてくれました。
今回の映画によこみぞさんがどれほど関与したのかを聞くと、デザイナーチームと一緒に、ほとんどの確認作業に参加していたとのことでした。
前作に引き続き、今作もキャラクターの声は入っておらず、他ではあまり例のないアニメーション映画になっています。
よこみぞさんは「すみっコたちに声がつかないというのは一番大事だと思っていて、そこをクリアできていたので、他はそんなに心配する点もありませんでした。それ以外は、すみっコだったらこうするんじゃ、これはできないけれどこれなら大丈夫と、その度に意見していました」と制作の過程を振り返ります。
第2作は「とある秋の日、キャンプに出かけて行ったすみっコたち。空を見上げると、いつもより青く輝く月が。『5年に1度訪れる、青い大満月の夜。魔法使いたちが町にやってきて、夢をかなえてくれる』伝説の通り、すみっコたちの町に魔法使いの5人きょうだいが舞い降りてきた」という始まりです。「映画なので華やかにしたい。1作目とは全く違った夜のキラキラした感じ」というよこみぞさんらの意向もあり、魔法の世界が舞台となりました。
新しく登場した魔法使いは「わん」「つー」「すりー」「ふぉー」「ふぁいぶ」の5人きょうだい。
キャラクターのデザインは、よこみぞさんがラフ画を出し、その後はデザイナーチームと意見を出し合って詰めていったそうです。モチーフについて、「色んな動物にしてしまうとバラバラだし、かといって人間ぽいのも……。となった時に、ドラゴンのモチーフや魔法をイメージした架空の生き物に自然にまとまりました」とよこみぞさんは話します。
今作の作業は、基本リモートで進めていきました。デザイナーチームの1人は「画面上で(キャラクターを)動かしながら話していました。色の組み合わせなども画面を共有しながらでした」。
よこみぞさんは「ふぁいぶを一番可愛くしたかったので、帽子の色などもバランスをとっていました」と作業の様子を思い出していました。
舞台は魔法の世界で、映画全体に共通するのは「夢」です。
すみっコやみにっコたちも多種多様な夢を持っています。
例えば、「ねこ」の夢(というより理想)は「スリムなフォルムで長いしっぽの猫」、「とかげ」の夢はおかあさんと幸せな時間を過ごすこと、「ぺんぎん?」の夢(?)は自分が何者なのか知ること、「ざっそう」の夢は「お花屋さんでブーケにしてもらう」こと、などなどです。
ただ、映画の中では、あることが起こり、すみっコたちがいつもとは全然違う様子になっていく場面があります。シリアスですが、笑えるという不思議なシーンです。
ネタバレを避けるためぼかしてお伝えしましたが、個人的にはすみっコたちの目に注目です。いつもは楕円の形の目が……?
よこみぞさんも映画を通して「すみっコたちはネガティブで悩んだりしているんですけど、そこがすみっコらしさかなって改めて気づかされました」。夢とは何か、考えさせられる映画になっています。
映画を作る側はどんな夢を持っているんだろう、と本筋からは離れますが聞いてみました。
よこみぞさんは「夢はいっぱいあるんですよ。ちっちゃいことから大きいことまで、全部スマホにメモしてあります。最近だとカニを飼いたいという夢がかないました。ちっちゃいところから1年に1個ぐらいかなえばいいなと思います」と話します。
その中で一番大きな夢を聞くと「自分のお店を持つことです。自分でデザインした雑貨とかぬいぐるみとかを置く雑貨屋さんというか、小さいかわいいお店を持ちたいです。口に出したらかなうと思っているので、言っておきます。人生をかけてやっていきたいと思います」。
ちなみに、店番はよこみぞさんがするかは現段階では未定だそうです。
一方、前述のデザイナーは「家族が健康でということかな」という現実的な夢でした。
続いて、これからのサンエックスを担う3年目のデザイナーは「やっぱり、この会社には自分のキャラクターを出したいと思って入ってきているので、すみっコぐらしのようなキャラクターが出せたらなというのは夢です」と教えてくれました。
「アフロ犬」の作者に言われた「この会社は夢のある会社だよ」という言葉を大事にして、日々を過ごしているそうです。
また、別のデザイナーは「会社に入っていろんな仕事をして夢を叶かなえてきたので、最近は、大きな夢は思い浮かばないのですが、よこみぞさんにはまだ大きな夢があると聞いて、素敵だな、私もこれからなにか新しい夢を探そう、と思いました」と話します。
その理由として、小さい頃から夢はデザイナーで「色んなことがやりたい、アニメーションにも携わってみたい」と思っていたのが、映画でかなったからだとのことでした。
「かなえるために10代から努力してきました。10代の頃好きだったもの、夢中だったものが思いがけず大人になって夢とつながることもあります。アンテナをたくさん張って自分の夢中になれることを探してください」と夢を探している人に改めてメッセージをくれました。
取材中、よこみぞさんらが口をそろえて「夢は口にすると良い」と話していて、質問を重ねると、よこみぞさんからこんな答えが返ってきました。
「口に出して言うと自分にも強く残りますし、周りの人にも認識してもらえます。そうすると、自分だけでは実現できないことにも、協力してくれる人が集まってきてくれるんです。すみっコぐらしチームも、最初は少ない人数でしたが、協力してくれる人がどんどん増えて、ついに、映画という大きな作品をたくさんの人と力を合わせて作れるまでになりました。夢は口に出して言うと協力してくれる人が現れるのでおすすめです」
最後に今回の映画を誰にみてほしいか、よこみぞさんに問うと「一番は、ずっとすみっコを応援してくれていたファンです。長いファンの人ほど、10年間のすみっコたちの歩みが映画の中のあちこちにちりばめられていますので楽しんでいただけるはずです。そして、まだすみっコのことをあまり知らない方にも。親子で見ても、興味がなかったお父さんやお母さんも一緒に楽しんでいただけるような話になっているかなと思います」と呼びかけました。
影山遼〈かげやま・りょう〉
すみっコぐらし学園認定記者として、「すみっコ仕事人」を連載。普段は、朝日新聞コンテンツ編成本部の地域ディレクター。
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