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入学しなかった受験生の入学金、25年前から返し続けている大学

産業能率大学
産業能率大学 出典: 朝日新聞社

目次

大学の受験生やその保護者を長年悩ませている問題に、入学金の「二重払い」があります。複数の大学を受験した場合、第一志望校の合格発表前に他の大学の入学金を払う必要が生じることがあり、いったん払った入学金は入学を辞退しても返ってこないのが通例です。そんな中、入学しなかった受験生の入学金を25年前から返し続けている大学があります。

「返還しない」が普通だった時代から

文部科学省は昨年、入試合格者が大学に払う入学金の負担軽減を求める通知を全国の私立大に出しました。入学を辞退した大学にも払う「二重払い」が学生の負担だと指摘されており、通知では納付時期を複数回にするなどの配慮を求めました。

大学は、学校ごとに入試の日程が複数あり、合格発表日や入学金の納付期限も異なります。

志望順位の高い大学の合格発表前に、「滑り止め」で合格した大学の納付期限が来てしまうことがあります。この場合、入るか入らないかはともかく、とりあえず入学金を払っておかないと、もし本命の大学が不合格になった場合でも滑り止めの大学に入学できなくなってしまいます。しかし、その後本命の大学に合格し、滑り止めの大学には結果的に行かないことになっても、基本的には一度払った入学金は返してもらえません。

文部科学省は、大学入学者全体の23.5%(約15万人)が入学辞退先にも払っていると推計しています。

なぜ入学してもいない大学の入学金を返してもらえないのか。かつて入学辞退者が学納金の返還を求めた訴訟があります。最高裁は2006年、授業料の返還を命じる一方、入学金については「大学に返還義務はない」との判断を示しました。この判例に基づき、入学金は受験生に返還されないことが通例となっている実態があります。

一方で、文科省の通知もあり、今シーズンの入試から入学金を返す大学が増えてきました。ところが、返還しないことが〝当たり前〟だった25年前から自主的に入学金を返し続けてきた大学があります。東京と神奈川にキャンパスがある産業能率大学です。

産業能率大学は2001年度から独自の入学金返還制度を導入し、合格していったん入学金を払ったものの、最終的には入学しなかった受験生には入学金を返し続けてきました。

2026年度入試でも、一次手続き後、二次手続き期限(3月11日)までに辞退すると一次手続き金(入学金)25万円を全額返還するそうです。

ムダ、ムリ、ムラをなくそう

入学金返還制度を導入した当時を知る産業能率大学職員の林巧樹さん(現・入試企画部長)によると、制度を始めた背景には、大学の創立者が掲げた精神があったといいます。

「私たちの大学には、創立者・上野陽一の掲げた『ムリ、ムダ、ムラを廃する3ム主義』の精神が根付いています。入学を辞退した受験生にとって、『ムリ、ムダ』である入学金の二重払いはなくすべきではないかと考えたのです」

上野陽一氏(1883~1957)は、大正から昭和にかけて活動した経営学者、産業心理学者です。日本に「マネジメント」という概念を持ち込んだ人物で、「能率の父」とも呼ばれています。「能率」を普及させるためにまとめた「能率10訓」には、ムダ、ムリ、ムラをなくす重要性が説かれています。

・目的と目標を達するために、もっとも適合した手段を選んでこれを実行に移せ。
・手段が目的と目標に適合していないと、あるいはムダあるいはムリを生む。
・ヒト・モノ・カネをはじめ時間も空間もこれを十分に活用するような目的のために使え。活用が正しくないとやはりムダまたはムリを生む。
・ムダとムリとはその性質相反し、世の中にムラを作り出す元になる。
・ムラがひどくなると大事を起こす。常にムダを省きムリを除いてムラを少なくすることに努めよ。これを怠ると社会は不安になる。(10訓の現代語訳から一部を抜粋)

産業能率大学
産業能率大学 出典: 朝日新聞社

「返還制度の創設に対し、学内で反対意見も出ました。しかし、3ム主義の思想は大学全体に根付いているので、本学の風土として返還しようということになりました。一方で、当時は最高裁判決が出る前で、いずれ返還を命じる判決が出るだろうと考えていたので、『いずれ返すことになるから、今から返還制度を作っておいたほうがいいだろう』と考えた部分もありました」と話します。

しかし、2006年の最高裁判決は、入学金を「大学に入学しうる地位を取得するための対価」と位置づけ、「入学しうる地位」が納付の時点で得られているとしました。よって、判例では大学は入学料の返還義務を負わないとされています。少子化が進む中、多くの大学が返していない入学金を返すことは財政面で痛手になってはいないのでしょうか。

林さんは、「予算を立てる段階で、未入学者の入学金はそもそも無いものと考えているから問題ありません」と明快です。

入学金返還制度を導入したことで、大学が得たものもあったといいます。

受験生や高校の先生、予備校からの信頼と、大学を高めるための情報です。

返還制度を始めたところ、受験生や高校の先生、予備校の講師から、返還に関する感謝の声が多数寄せられたそうです。
「評判がよくてやめられなくなったという面も正直あります」
また、進路指導で返還制度について紹介してくれる学校もあるそうです。「多くの先生方が、本学のことを『入学金を返還する親切な大学』だと広めてくださった。これはありがたかったです」

また、返還制度を利用した受験生にお願いしているアンケートには、大学を高めるためのヒントがたくさん詰まっているといいます。「例えば、うちの大学ではなく最終的にどの大学に行ったのか。偏差値とはまた別に、大学のポジショニングを把握できる。入試や学生募集に向けて戦略を立てるための貴重なデータになっています」

他大学の受験生にも思い

大学は11月、二重払い問題など受験生が直面する経済的負担に関する解説動画を作り、ユーチューブで公開しました。

大学ごとに異なる合格発表のタイミングと入学金の納入期限をカレンダーに整理した上でスケジュールを考えることで、二重払いを回避できるケースがあることなどを説明しています。

「入試にまつわるお金の話」
「入試にまつわるお金の話」 出典:産業能率大学の公式YouTubeチャンネルから

「『どうスケジュールを組めばいいか分からない』という受験生の声も聞かれます。長年、入学金返還制度を運用してきた私たちがその仕組みや背景を整理し、発信することで、本学の受験生に限らずすべての受験生が不安なく本番に臨めるようにしたいという思いから、今回の動画制作に至りました」

入学金返還制度はこれからも続ける方針です。
「今後も、受験生支援のあり方を追求し、教育の機会均等と進路選択の自由を支える制度として、入学金返還制度を続けていきたいと思っています」

「入試にまつわるお金の話」
「入試にまつわるお金の話」 出典:産業能率大学の公式YouTubeチャンネルから

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