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2019年11月20日

「すみっコ」を誇れる時代が到来? 満席の男性イベントで見えた人気


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涙を浮かべるひよこ?

涙を浮かべるひよこ?

出典: (C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部

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登場キャラは部屋の隅が好きという、映画業界の主役にはなりたくなさそうな「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」の勢いがとまりません。11月8日の公開から興行収入は4億円を突破。男性向けの上映会も、平日夜という時間帯にかかわらず200人近い席が全て埋まり、参加者はむしろ「すみっコ」好きを誇っている様子。何がひきつけるのか、映画の脚本家やプロデューサーの言葉から探りました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)


邦画の1位

配給会社のアスミック・エースによると、上映しているのは全国114館。公開2週目にして、動員数は33万4980 人、興行収入は4億509万2800 円を越えたそうです。週末(16~17日)の興行収入は前の週と比べて150%の増加となりました。興行通信社の集計によると、国内の映画ランキングでは邦画の1位。これは2 週連続。動員数でも、「ターミネーター:ニュー・フェイト」に次いで、総合2位にランクインしたといいます。

都心の新宿ピカデリー(東京都新宿区)での週末の上映は、全ての回で満席でした。

数字を見ると人気のこの映画に関する珍しいイベントが開かれました。それは13日、新宿ピカデリー(東京都新宿区)で開かれた男性向けの上映会「ぼくらもすみっコ応援団!上映会」です。上映会後のトークイベントでは、映画の脚本家・角田貴志さんとこの記事の筆者・影山遼が映画について語り合うという不思議な時間もありました。角田さんは京都の劇団「ヨーロッパ企画」に所属しており、名前は濁らず「すみた」と呼ぶそう。映画にふさわしい名前です。

「ぼくらもすみっコ応援団!上映会」の参加者ら=小原智恵撮影

「ぼくらもすみっコ応援団!上映会」の参加者ら=小原智恵撮影

9割近くが1人で来場

水曜日の午後7時40分からという時間にもかかわらず、200人近く座れる会場は満員。ざっと見回すと、27歳の私よりは年上の方が多かったようです。

客席はスーツ姿が目立ち、登壇者の方がラフな格好というあまりないトークイベントとなりました。登壇者はそれぞれ、お気に入りのキャラを持って登場。私は5年愛用し、おしりが少し変になってしまった「ぺんぎん?」(自分が本物のペンギンなのか自信がない黄緑色の存在)を持参。宣伝を担当したというMCの方も、ゲームセンターでとったという特大の「ねこ」(体形を気にすしています)を持ち、角田さんもひよこ?(映画の重要なポジションにいるキャラ)を持って臨むという、一風変わったイベントでした。

その日ですでに4回目の鑑賞という参加者もいました。今は何回目の鑑賞になっているのでしょうか…。

私は話す内容を喫茶店で一生懸命考え、ネタ帳に10ページにわたって書き込んでいましたが、トークイベントが始まると、緊張からかほぼ読むことができませんでした。それでも、私が「ここにいる人、みんな疲れ(てる)…」と言おうとして、なんとなく止めた際に、参加者の方々から笑いが起こる場面も。登壇者も参加者も「察していたわりあう」ような空気があるとも感じました。

登壇者の声が小さく、途中でマイクの音量を上げられる場面は、他の映画のイベントではなかなか見られない光景です。

参加者の9割近くが1人で来場。呼びかけはなくても3分の2ほどが、自分が推すぬいぐるみなどを持参していました。一番多かったのはとかげというキャラでしょうか。最後の写真の撮影でも、「すみっコ」好きというので前に出るのが苦手な方が多いと思いきや、ほとんどが顔を出したまま。すみっこが好き、それでもそのことを誇りに思って堂々とする、という現代の新たな価値観を目撃したような気がしました。惜しむらくは、登壇したばかりに参加者から話を聞けなかったこと。また、別の機会で話を聞いてみたいと思います。

全員がぬいぐるみを持って登壇

全員がぬいぐるみを持って登壇

続編はどうなる

イベントに参加した立場を利用して、映画に関わった人々にヒットの理由や制作秘話などを聞いてみました。

楽屋でもテンションは変わらず低めの角田さんは、映画で苦労が多かったようです。「一番苦労したのはキャラの声を入れられないということ」といいます。私も見る前はどういった映画なのか不明なので、キャラたちが饒舌に冗談などを言い合うような映画になったらどうしようかと心配していましたが、角田さんらの努力によって、杞憂に終わりました。それでも角田さんは「『ウォレスとグルミット』といったしゃべらない映画もありますが、それは元々しゃべらない前提でつくられたもの。すみっコの難しかったところは、作中で微妙にしゃべるところでした。テロップも全員が読めるものとなると、そうとう短いものにしなければならないし…」。かなり悩んだようです。

「とにかく会話として書いておいて、ここはジェスチャー、ここは吹き出しに絵を入れて乗り切れるな、というような感じでした」。一方で「アクションシーン(?)は楽でした。静かなシーンが本当に大変」。その脚本を映像にするチームはさらに大変だったようです。「それでも脚本を練る作業は楽しかったです。まんきゅう監督はよく形にしましたよね」

角田さんが一番驚いたのは、作者のよこみぞゆりさんをはじめサンエックス(すみっコぐらしの会社)がキャラを大事にすること。「隔週でよこみぞさんも交えて、脚本の打ち合わせをしました。ここまで一緒に考える映画は他にあるのかな、と思いました」

角田さん、オファーを受けるまですみっコの存在は知らなかったそう。そのため、誰かに肩入れせずに、ニュートラルに全員が活躍する映画になったのではないでしょうか。続編をもしオファーされたらどうするのでしょうか。「ハードル上がりますよね。もしやることにしたらひよこ?はもう出ないかもしれません」

ひよこ?を手にリラックスした表情を見せる角田貴志さん

ひよこ?を手にリラックスした表情を見せる角田貴志さん

究極のダイバーシティー

もう1人、プロデューサーの竹内文恵さんは「キャラは性別も明かされておらず、食べ残されたり、自分の出自をひた隠しにしたりしながら生きています」と前置きした上で、「異なる性質を尊重して受け入れる究極のダイバーシティーが実現された世界で、今の時代のテーマとして、とても有効だったのではないかと感じています」とヒットの理由について振り返ります。

また、「よこみぞさんらが作った世界観の強さや、シンプルなのにいろんな表情が読み取れるデザイン、さらには、優しさ・ユーモア・ネガティブさの絶妙なバランスは、見る側の色々な思いを託しやすく、多くの人の心を捉えている大きな要因になっていると考えます」と強調します。「その世界観があったから、監督・脚本・美術監督・CGデザイナー・ナレーション・音楽と、人が増えるにつれて、どんどん注がれる愛情が増えていき、その積み重なったスタッフの愛情が、最初にしっかり届いてほしい人たちに届いて、さらに愛情を注いでくれて、広がったということなのかな、と感じています」

専門家のような見方をしてくれており、熱量がすごいです。竹内さんの場合はすみっコ愛のレベルが違います。「すみっコたちは、シリアスになりすぎず、どこかマイペース、のんき、時に素っ頓狂なところもあって、一緒にいる仲間へも干渉しすぎず、本当に困ったことがあったら力になろうとする、色々なこととの距離の取り方が好きです」。疲れた時には、(クライマックスのネタバレになるのであまり詳しくは記せませんが…)映画のあるシーンを延々とみて元気を出していたといいます。

それは、ぺんぎん?に最後まで寄り添っているのが、いつもすみっこを取り合っているしろくまで、最後には、しろくまのお尻をぺんぎん?が頭突きでグイグイと押し込むシーン。「感動的なシーンなのに、他で味わえない、なんとも言えない気持ちが湧き上がってきて好きです」。本当にひたすら見ていたといいます。個人的には、アームの好感度もかなりこの映画で変わったのではないでしょうか。

映画内のキャラたちの助け合いも、トークショーの打ち上げでのスタッフのすみっコ愛も、映画をみた人のほっこりしたという感想も含めて、関係するほぼ全員が優しいというまれな映画でした。「かわいいとか癒やしは女性や子どもだけのものじゃない」、トークショーで自分が語った言葉ですが、年齢や性別などを問わずに好きなものを堂々と誇れる時代になりつつあると感じられたイベントでした。

映画の感想にもつながっていきますが、最近は「すみっこにいる子の才能を伸ばそう」というような風潮も一部であります。それ自体「全員に才能があって、何かしらで成功しなければいけない」という世の中を表しているような気もします。いいじゃないですか、すみっこで才能がなくても。すみっこをすみっコたちと楽しんでいきたいと思います。

最初はこんなに暗かった「すみっコぐらし」 作者もすみっこが大好き
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社内新キャラコンペで発表した原案。ぺんぎん?はほぼ今と同じ姿で、しろくまは元は「うさぎ」という設定でしたが原案から登場していました=2011年11月14日
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