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いじめに「人生やめたい」…定時制高校で変わった ある生徒の思い出
定時制や通信制の高校で学ぶ生徒たちが思いを語る催しが各地で開かれています。いじめの対象、友達を失って不登校、自宅に引きこもり…。様々な経験を経てたどりついた定時制や通信制で新たな道を歩み出した生徒たちが登壇するイベント。昨年10月に福井県で開かれた中から、心に残った体験の一部を紹介します。
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定時制や通信制の高校で学ぶ生徒たちが思いを語る催しが各地で開かれています。いじめの対象、友達を失って不登校、自宅に引きこもり…。様々な経験を経てたどりついた定時制や通信制で新たな道を歩み出した生徒たちが登壇するイベント。昨年10月に福井県で開かれた中から、心に残った体験の一部を紹介します。
定時制や通信制の高校で学ぶ生徒たちが思いを語る催しが毎年開かれています。いじめの対象、友達を失って不登校、自宅に引きこもり…。様々な経験を経てたどりついた定時制や通信制で新たな道を歩み出した生徒たちが登壇する、その名も「生活体験発表会」。昨年10月に福井県で開かれた中から、心に残った体験の一部を紹介します。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
1人目は当時、定時制高校の3年生だった男子生徒です。全日制高校に通っていた時、合唱祭でのある出来事を機にいじめの対象になりました。それが原因で不登校になり、留年してしまいます。同級生の冷やかすような視線に耐えきれなくなり、退学しました。
母親の知人に勧められ、就職したのは鉄工所。社長に「高卒という資格は今の時代に必要だ」と諭され、定時制高校に編入しました。学校と仕事の両立は大変でしたが、年齢が異なるクラスメートとのたわいない会話も楽めるように。「一足先に社会を見ることができました。そして、多くの人に出会うことができました」と今は前を向きます。
定時制高校の2年生だった男子生徒は、中学時代に同級生をいじめる側から抜けようとしたことから、いつの間にか仲間に嫌われ、自分がいじめられる側に回りました。友達を失い、不登校になり、「人生をやめたいと思いました」と言います。
その後、コンビニの店員を経て、土木関係の仕事に就きました。しかし、どれだけ頑張っても中卒だと給料は安い。読めない漢字があったり、計算ができなかったり。「このままではだめだ」と考え、職場の人の後押しもあって、定時制高校に行く決心をしました。働きながら学び続けることで、何事にも積極的に取り組めむようになったといいます。
3年生だった女子生徒は中学時代、自宅に引きこもっていました。ネットに夢中になり、生活は昼夜逆転。母親と取っ組み合いのけんかになることもありました。そんな日々を過ごすうち、中学3年生になると、焦りが。少しずつ気持ちを切り替えることで、学校の相談室にはなんとか顔を見せられるようになりました。
「元々頑固。一度決めたことは曲げたくない」。思いを胸に高校に入学してからは、学校を休むことなく、授業を受けています。そうすると、授業の内容が理解できるようになり、自分の中に好循環が生まれました。専門学校に進んで、プログラマーになるのが夢となっています。
そもそも夜の定時制があるのなら昼の定時制もあるの?と思った方も多いかと。記者も取材に行くまでは、定時制といえば夜間のイメージが強かったです。少し説明しますと、取材した福井県の定時制高校の場合、午前・午後・夜間の三つのコースに分かれます。取材時は、午前が最も多く156人、午後は74人で、夜間は4学年合わせて16人しかいませんでした。一方、退学者数は全てのコース合わせて毎年10人ほどにとどまっていました。
午前は8時50分から午後0時10分、午後は0時55分から4時15分、夜間は午後5時55分から9時5分となっています。どの時間帯でも基本的には働きながら4年間での卒業を目指すことになりますが、中には以前紹介したシンイーさんのように、他のコースの単位もとりながら3年間での卒業を目指す生徒も、この学校では1割ほどいます。
ほぼ一日を通して授業のある学校のため、教師陣のシフトも午前8時半~午後5時と午後0時45分~9時15分の2パターンあります。担任でも自分の生徒に会えないこともあるため、午後5時に終わっても、夜間の始まる午後6時まで待つことも。取材した3年生たちの担任の教諭は「テレビで見るような生徒同士の殴り合いといったドラマチックな状況は今の高校にありません。ルールは多くない分、自分で全てに責任を持ってしっかりやれる子が求められています」と話します。
定時制の特徴として、入試を受ける前に一度見学しないと受験できない仕組みがあります。卒業までに必要な授業料は全日制より安く、奨学金などの支援も充実しています。多様なライフスタイルに対応できる仕組みになっています。
福井県のこの学校の場合、定時制と通信制の二つのみで成り立っています。他の地方を見ると、全日制と定時制が併設されていることも多く、その場合、昼は全日制で夜は定時制という学校が目立ちます。文部科学省の学校基本調査によると、全国的にも定時制が減り、通信制が増える傾向にあるようです。
年齢層が高いイメージのあった定時制ですが、現在は中学を卒業してすぐに進学してくる生徒が(この学校の場合)最も多いそうです。就職先はサービス業・介護・製造・飲食・自衛隊など多岐にわたり、もちろん4年制大学や専門学校などに進学する生徒もいます。
まず一つだけ。自分の時も知りたかったことですが、中学校の卒業後の進路は、全日制が全てではないと覚えておいてほしいです。
全日制で周りに合わせて疲れてしまうことも多々あると思います。一度、社会のレール(とされているもの)から外れてしまうと、人生が終わったというような感じがしてしまうのも10代という若さでは仕方ないかもしれません。しかし、学校は一個だけとは決まっていません。
今回の取材で出会った生徒たちは皆、様々な過程を経て自分から学ぶことを決めた人たちでした。まだ将来何をしたいか分からない。それは全日制の生徒も同じかと思います。そんな中でも、定時制などの学校に通うことで人生の幅を広げられるのではないでしょうか。
髪を染めていても、にらみつけるような顔をしていても、話してみれば普通の生徒たちでした。「定時制の生徒って意外と真面目で学びやすい環境が整っているんだよ」と誰かが教えてくれれば、人生が少し変わる人たちもいるのではないかと感じました。
社会って多様な人がいて、ちょっとくらい普通(とされている)人生とは違っても良いんだよと。記者の地元・福島でも、中退者が多いという背景もありますが、全日制をドロップアウトした後に定時制へ通って再スタートを切った周りの人間はいっぱいいました。
地域に定時制を維持するのも大変かもしれません。それでも今後も必要とされていく存在でしょう。書いていたら自分も勉強したくなってきました。定時制に行って人生が変わったという方、ご連絡ください。お話を聞かせていただきたいです。
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