連載
#6 変わる定時制高校
働きながら学ぶ高校は「さぼれない」 A.B.C-Zが語る大人の魅力
人が多いところが苦手な生徒にも必要な存在
通ったことのない人にとっては、どんな環境なのかイメージしにくい「定時制」の高校。この春、アイドルグループ「A.B.C-Z」のメンバーが定時制に通う生徒や教師を演じるドラマが始まりました。生徒の若返りや学校数の減少の流れなど、変わってきている定時制。生徒たちにとってはどんな「居場所」なのでしょうか? ドラマを経て感じたことを語ってくれたA.B.C-Zのメンバーの言葉などから考えていきます。(朝日新聞・影山遼、小原智恵)
定時制高校(以下、定時制とします)にどのようなイメージを持っているでしょうか。一昔前だと、フルタイムで働く年上の生徒が通う学校、といった認識を持つ人が多いかもしれません。今年30歳になる記者(影山)の地元では、どちらかというとやんちゃなタイプの中学校時代の同級生が、進学しているケースがありました。
ですが今、定時制に通っている生徒の属性や年齢層は変化しています。
今年、定時制を舞台に大人の青春を描く連続ドラマ「ワンモア」が名古屋のメ~テレなどで放送されました。
教師役で出演したA.B.C-Zの河合郁人さん(33)は、お父さんが夜間の高校に通っていたといいます。
河合さんは「おばあちゃんから、お金がなくて夜間にしか行かせられなかったという話は聞いていたので、苦労されている方や、何か抱えている方が勉強する場所だというイメージはありました」。実際に演じていく中で、大人だからといって諦める必要はなく、仲間と助け合いながら成長できる場所が定時制だと考えるようになり、最終的には「チャレンジすると人間は変われるというメッセージが伝えられたかな」と話します。
同じく教師役を務めた五関晃一さん(36)は「実年齢で(教師役を)演じていたのですが、生徒には同年代も、上も下もいる。それでも来る方は勉強したいんだなって。楽しんで勉強しようよ、というのは素敵だなと思いました」と振り返ります。
高校には進学しなかったという戸塚祥太さん(34)は生徒役を演じました。戸塚さんは「高校に行きたいとは思っていたので、ご縁があったと感じています」とした上で、「何かしらの理由があって、勉強と距離ができてしまった方たちが再トライできる場所だ」と定時制の役割を理解したといいます。
実際の夜間の定時制の内部はどのような感じなのでしょうか。
記者(影山)は4年前、福井県の定時制に何度もお邪魔しました。福井県は、広い県内に夜間の定時制が1校しかありません。今年の県立高校の一般入試では、夜間の定時制の定員30人に対し、受験者は1人と、少人数化が進んでいます。
取材した当時の生徒たちは、全員が10代もしくは20代前半。
経験を積み、円熟の域に達した社会人が通う学校という印象とは異なり、年の近い生徒たちが、自由な服装で、ラフにコミュニケーションをとっていました。校則のある高校というより、大学に近い雰囲気を感じました。生徒の年齢層は地域によっても異なりますが、これまで取材してきた福井、東京、山形の各校では、比較的若い人の割合が増えています。
2017年度に文部科学省の委託で行われた「定時制・通信制高等学校における教育の質の確保のための調査研究」によると、小学校、中学校、前に在籍した学校で不登校の経験があるのは、定時制で39.1%を占めています。また外国とつながりがある(外国籍・日本語を母語としない)生徒は定時制で6.6%いるなど、多様な生徒が通っている現状があります。
話を聞いた人の中には、「遊びたいから」と全日制の高校を16歳で退学した生徒がいました。スーパーマーケットでのアルバイトを経て、正社員として働きながら、一念発起して19歳で入り直した定時制の高校。
前に通っていた全日制高校と変わったことは何でしょうかと聞くと、「行かされるのと、自分で決めて行くのは違いますから。今はさぼろうにも、さぼれません」と教えてくれました。
A.B.C-Zの戸塚さんも「自分の意思で行っている、それだけでかっこいい。僕もタイミングが合ったら学校にいきたいなと思います。決められた年齢を超えても、トライしている人たちなので、応援したいですね」と取材の際に話していました。
ワンモア🌸最終回#第7話メ~テレ5月17日_tvk5月22日放送#轟高校定時制クラス春の日の5秒#みんな卒業おめでとう
— 【公式】ドラマ「ワンモア」🌸🏫Blu-ray&DVD7/10予約受付開始🌟 (@1more_official) May 16, 2021
🏫見逃し配信中✨#TVer #GYAO►第6話#Amazonプライムビデオ ►第1~6話#ABCZ #鈴之助 #森田想 #渡辺哲 pic.twitter.com/Y96sfynvGU
取材した学校では、フルタイムで働いていた生徒もいましたが、多かったのはアルバイトです。経済的な理由や社会勉強といった観点からアルバイトが推奨されていました。この学校には午前・午後・夜間の三つのコースが設けられており、自分に合った勉強の時間帯を選びながら、4年での卒業を目指すのが一般的です。
夜間では、授業は午後5時55分に始まり、午後9時5分まで。一方、教師の勤務は午前8時半から午後5時と、午後0時45分から午後9時15分の二つのシフト制。このため必ずしも担任の教師に会えるとは限りません。
授業の前に給食の時間が設けられているのも、夜間ならではです。取材に訪れたある日は、チャーハン、ギョーザ、カボチャのスープ、牛乳などが並び、近所から差し入れられた食材が取り入れられる日もありました。
1956年に「夜間課程を置く高等学校における学校給食に関する法律」が施行され、国や自治体は給食の普及に努めなければならないと定められましたが、義務ではなく、給食をやめる動きも出ています。千葉県では利用者の減少などから、2018年度から県内17校で給食を廃止、一部を補助する仕組みの「夕食」という形式で提供するスタイルとしました。
福井県の場合、教師と生徒が同じテーブルで温かい給食を口にし、交流の場としている状況をよく目にしました。コロナ禍ではなかなか交流するのが難しい状況がありますが、定時制の食のあり方は今後も考えていく必要がありそうです。
また、福井県以外の高校でも定時制は募集が停止されるなど、縮小する傾向にあります。
東京都教委によると、都立高校改革の一環で、4校の夜間定時制課程廃止を盛り込んだ計画を2016年2月に決定。しかし、存続を求める多くの署名が集まりました。そのうち、小山台高校と立川高校に関しては2021年度も生徒の募集が続いています。
小山台の卒業生の一人は「なくなっちゃうと、仕事をしながら勉強している境遇の人たちの居場所は少なくなりますよね。残してほしいです」と話していました。
福井県の定時制の教諭は「働きながら学ぶ生徒にとって夜間の定時制の役割はますます大きなものになります。人が多いところが苦手という生徒にも夜間は必要な存在です」と強調します。
冒頭のドラマ「ワンモア」の企画とプロデュースを担当した服部保彦さん(48)は「自身が通っていた高校に定時制はありましたが、具体的なイメージは持っていませんでした」と話します。
脚本の参考に、2020年2月、都立の定時制高校を取材したそうです。その際、1学年が1クラスであることや東南アジア出身の生徒が多いこと、夜間のために授業開始のチャイムが鳴らないことなどを知り、劇中に反映しました。
引きこもりで、不登校だった生徒が「今日もよく来たね」と言われ続けたことで前を向き、生徒会長を務めるまでになったエピソードや、長年教壇に立ってきた教師が「生徒はみんな変わっていくのが面白いんですよ」と言ったことが印象に残ったといいます。
取材を経て、ドラマのテーマを「いつでもやり直せ、挑戦できる」に決め、定時制を舞台に教師や生徒が、出会いを通じて変わっていく姿を描くことにしました。
服部さんによると、登場するキャラクターは全員、過去に抱えた問題から今も脱せずにいます。一生懸命生きているのに、なぜかうまくいかない。そんな人々が、様々な事情から30代になって学舎で出会い、互いに影響し合いながら再起していく物語になっています。
🏫#ワンモア 放送情報🏫
— 【公式】ドラマ「ワンモア」🌸🏫Blu-ray&DVD7/10予約受付開始🌟 (@1more_official) July 7, 2021
/
㊗8/1(日)~
大阪 #ABCテレビ にて
放送スタート❗️🙌🎉
\
関西エリアの皆様
ぜひ地上波でお楽しみください❗️#ABCZ#橋本良亮 #戸塚祥太 #河合郁人 #五関晃一 #塚田僚一 pic.twitter.com/kBmP2wMWWr
1/34枚