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#34 平成家族

子ども寝かしつけ2時間「副業」 人生百年時代、動き始めた人たち

今年は「副業元年」とも言われています。将来が見通せない平成家族。リスクヘッジとして副業を選択する人が現れています。

通勤中など隙間時間でスマホを使い副業をこなす人も(写真はイメージ)
通勤中など隙間時間でスマホを使い副業をこなす人も(写真はイメージ) 出典: PIXTA

目次

 政府が働き方改革の柱のひとつに掲げた「副業」。大手企業が相次いで「解禁」を宣言し、今年は「副業元年」とも言われています。「AIに職が奪われるかもしれない」「少子高齢社会で、社会保障は持つのか」――将来が見通せない平成家族。リスクヘッジとして副業を選択する人が現れています。

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本業、副業、家庭の両立「削ってはいけない時間」は

 「5年後、10年後は分からないでしょ」

 東京都港区赤坂の人材派遣会社でソフトウェアエンジニアをする野口忍さん(37)は、英会話学校のソフトウェアエンジニアという、もう一つの顔を持っています。

「副業禁止」だった会社。「会社に経験をフィードバックする」と幹部に直談判した野口さん
「副業禁止」だった会社。「会社に経験をフィードバックする」と幹部に直談判した野口さん

 副業をするのは、本業が終わった平日夜の2時間。時給3500円。月40時間程度働くので、稼ぎは14万円ほど。「家計の足しにはなります」。

 副業を始めた理由を二つ上げます。

 一つ目は、新しい人との出会いや、1からシステムを創ることで、技術が吸収できるから。

 二つ目は、いつ会社がなくなるかもしれない、自分が今の仕事ができなくなるかもしれないため、リスクヘッジとして。

 「経験を積んで、会社がなくなっても生きていける人間になりたいですね」と語ります。

 副業で大変なのは時間をどう捻出するかということです。実は「2歳児のパパ」の顔も持っている野口さん。心に決めていることがあります。

 「子育ての時間は、唯一、削ってはいけないもの」

「子育てできる時間は限られている」と野口さん(写真はイメージ)
「子育てできる時間は限られている」と野口さん(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 そんな野口さんの1日のスケジュールを聞きました。

 7時起床 家族でご飯。子どもと遊ぶ
 8時通勤 30分間の電車内を自分の時間に。スマホで「副業」のメールチェックなども
 9時~18時 「本業」の仕事
 18時帰社 30分間、電車内で「副業」のメールチェックなど
 19時 家族でご飯。子どもと遊ぶ
 20時 子どもをお風呂に入れる
 20時半 子どもを妻が寝かしつけ。その間に「本業」のメール処理など残務をこなす
 21~23時 「副業」の時間。時間がかかるシステム改修などをこなす
 23時以降 妻とビール 午前1時までに就寝

 週1回は本業後に1時間、副業先に「出勤」し、作業の進捗について報告します。

 スケジュールを聞くと「並大抵の覚悟で副業はできない」と思わされますが、「やりたくない残業をやるよりも、自分がやりたい仕事だから楽しいですよ」と野口さん。

「就寝時間までに終わらない仕事はできないと割り切って持ち越す」と野口さん(写真はイメージ)
「就寝時間までに終わらない仕事はできないと割り切って持ち越す」と野口さん(写真はイメージ) 出典: PIXTA

「人生の3本目、4本目の道必要」50代前に副業探し

 これまで得たスキル以外にも、収入を得られる新たな方法を増やしたい、と副業を模索する人もいます。

 フリーライター吉永麻桔さん(40代)は、4月末に都内であった「副業セミナー」に参加しました。

 20~60代以上の約70人が参加し、副業としてのビジネスを提案する9社が説明しました。人工芝の施工や、コーヒー焙煎機の販売、ネット通販で人気の商品を製造元から安く買い付け売る仕事……。「月50万円稼げます」と言っている仕事も、よく聞くと、研修費用や商材購入など初期投資に数十万円かかるものも。

 講師は「副業は『経営者』としての判断や、投資を含めた収支計画が重要です」と釘を刺します。

4月末に開催された副業セミナー。希望月収は「6~10万円」が最も多く、来場者の4割を占めた(写真は一部加工しています)
4月末に開催された副業セミナー。希望月収は「6~10万円」が最も多く、来場者の4割を占めた(写真は一部加工しています) 出典: マイナビ提供

 「思ったよりお金もかかるし、副業って意外と大変ですね」。吉永さんはため息をつきながら、副業を選んだ理由を話してくれました。

 大学卒業後、国家公務員として6年働いていましたが、結婚を機に、退職しました。これで安泰かと思っていましたが、離婚。

 会社の事務員として再就職しましたが、病気のため通院費がかさみ、収入を増やそうと8年ぐらい前に副業を始めました。週末の時間を利用して、インタビューの録音テープから文字を起こし、月3万円程度の稼ぎ。

 それをきっかけにライター講座に通い、いまは派遣社員として雑誌のライターもこなします。

 今の生活はおもしろいと満足していますが、50代を前に、今後の人生の備えとして、まったく別の資格やスキルを持っておきたいと考え始めたそうです。親を介護し、看取ったことがきっかけで、改めて自分の人生に向き合ったと言います。

「国家公務員より今の方が私に合っている」と話す吉永さん(写真はイメージ)
「国家公務員より今の方が私に合っている」と話す吉永さん(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 副業はその一環。今回のセミナーで視野が広がり、行政書士を取得し、ライターをしながら「墓じまいアドバイザー」として独立する夢が出てきました。

 「人生、何があるか分からない。道を3、4本用意しておいた方が良いと思います」

「組織出ると評価される力もある」

 特別な資格がなくてもできる「自分のスキルを時間で売る」コンセプトのサービスもあります。

 「タイムチケット」を運営するグローバルウェイの大底春菜さんは「『スキルがない』っていう人はいますが、客観的に見れてないだけ」と話します。タイムチケットの会員は10万人で25~35歳が中心です。30分から売り買いができ、「悩みをスカイプで聞く」といったものも。

 「例えば根回し力がすごい人、スケジュール調整や会場の手配が得意な人もいる。でも会社のフローに組み込まれると、個が消えてしまう。会社を飛び出すと、客観的に評価されて、意外と希少性あるなと思う力もあるんですよ」

スキルを時間で売るサービス「タイムチケット」を運営するグローバルウェイの大底さん
スキルを時間で売るサービス「タイムチケット」を運営するグローバルウェイの大底さん

副業詐欺に注意「誰でも稼げる」は疑って

 厚生労働省の調査によると副業の希望は増えている一方、8割の企業が副業を認めていないのが現状です。今年1月には企業向けのモデル就業規則を改定し、副業を促進しています。

 「人生100年」時代。定年後にもさらに続く人生を支えるために、高齢期の就職や起業も課題です。若いうちから副業などで多様なキャリアを形成することも政府は推奨しています。

 一方で、「副業ブーム」に便乗し、詐欺も出始めています。

「不審なことがあれば金を支払う前に消費者ホットライン『188』に相談を」と消費者庁は呼び掛ける(写真はイメージ)
「不審なことがあれば金を支払う前に消費者ホットライン『188』に相談を」と消費者庁は呼び掛ける(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 消費者庁には最近、「誰でも簡単に稼げる」などとうたった副業詐欺の相談が相次いでいます。

 たとえば「月収50万円、コピペで稼げます」と誘い、動画サイトで再生回数が上がっている動画をつなぎ合わせるという仕事のノウハウを売りつけます。そして今度は有料の動画編集ツール(10万円~130万円)を購入させます。実際には、再生回数は伸びず、収益が上がりません。

 消費者庁は「『誰でも簡単に稼げる』と甘い言葉で誘ったり、『返金保証』や『将来もとがとれる』ことを前提に高額の支払いを要求されたら、詐欺だと疑って」と呼び掛けています。


 副業セミナーを主催する「マイナビ」の竹内将人さん(48)は、悪徳な副業の見極め方として、「どのくらいの期間で、どの程度やればもうかるか、『収益例』を情報に基づいて見せてもらった方が良い。拒むような会社は辞めた方が良いです」と話します。

連載「平成家族」

 この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観と古い制度の狭間にある現実を描く「平成家族」。今回は「働く」をテーマに、4月28日から公開しています。

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