連載
#30 平成家族
2度目の海外転勤「マジか…」妻の苦悩 転勤「回避」できる企業も
「マジか……」。夫に打診された2度目の海外赴任を聞いた時、女性は言葉を失いました。平成に入り当たり前になった夫婦の共働き。お互い総合職として働く家庭にのしかかる問題が「転勤」です。できれば家族一緒にいたいけど、「私の社会人人生は終わる」。仕事か家庭か……。
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#30 平成家族
「マジか……」。夫に打診された2度目の海外赴任を聞いた時、女性は言葉を失いました。平成に入り当たり前になった夫婦の共働き。お互い総合職として働く家庭にのしかかる問題が「転勤」です。できれば家族一緒にいたいけど、「私の社会人人生は終わる」。仕事か家庭か……。
「マジか……」。夫に打診された2度目の海外赴任を聞いた時、女性は言葉を失いました。平成に入り当たり前になった夫婦の共働き。お互い総合職として働く家庭にのしかかる問題が「転勤」です。できれば家族一緒にいたいけど、「私の社会人人生は終わる」。赴任先や帰国後の息子の教育環境に不安も。仕事か家庭か。選択が迫られています。
関東地方でメーカーの総合職として働く女性(30代)は、1年後に控える、夫の2度目の転勤に頭を悩ませています。
3年前、夫が語学研修を兼ねた海外転勤の内示を受けたのをきっかけに入籍。タイミングよく長男を授かり、育児休業の1年ほどを海外で過ごしました。
商社で働く夫にとって、海外での経験は希望していたもので、その気持ちを知る女性も覚悟をしていました。幸運にも、赴任先の環境に恵まれ、大きなトラブルなく過ごせたといいます。
昨年、帰国してから気になっているのは、長男の言葉の発達です。
保育園に通う他の児童が話せる日本語が、なかなか出てきませんでした。思えば、子どもを持つ駐在員の妻たちは、日本の教材を持ち込んだり、交換日記をしたり、季節の行事をしたり、さまざまな方法で子どもに日本語や日本の文化に触れさせていました。
「赴任するときだけじゃなく、帰国した後のことを考えて、子どもをサポートしなくちゃいけない、と感じました」
そんなとき、夫に2回目の転勤が打診されました。「マジか……」、最初の転勤のときとは、同じ気持ちにはなれませんでした。
任期はおそらく4年。場合によっては、更に伸びる可能性もあります。
前回の転勤で夫より数ヶ月早く帰国したとき、息子は大人の男性であれば誰でも甘えようとする「父ロス」状態に。これから将来のことを思うと、家族一緒に暮らしたいという気持ちは強いです。
「私の社会人人生は終わるな」
女性にとって、仕事は楽しく、充実感や自己肯定感も得られています。会社の制度を使って、夫に帯同することも可能です。とはいえ、休業中は昇進試験を受けることができません。
「帰ってくる頃には、管理職年齢なのに、中身はヒラ社員のワーキングママの出来上がりです」
休業だけではなく、現地に事業所もあります。だけど、働きながら長男の日本語のサポートができるのか……駐在員の妻たちの努力を思い出すと、自信がありません。
「私のキャリアか、息子の日本語か、優先順位を決めないといけない」
赴任までおよそ1年、夫婦に選択が迫られています。
企業のグローバル展開が進む中で、転勤の赴任先は国内にとどまらず、家族に与えるインパクトも大きくなっています。そんな中、転勤という制度を残しつつも、柔軟に対応する企業もあります。
キリンビールは、2013年から転勤回避措置制度を導入しました。出産・育児、介護などの事由で、会社に認められれば最大5年間転勤を「回避」することができます。利用している間、処遇の変更はありません。
キリンビールから出向し、スプリングバレーブルワリー(東京都・渋谷区)で働く川井真澄さん(33)は、二児の母です。2016年からこの制度を利用しています。きっかけは会社の統合に伴う組織改編。当時の部署での在籍期間が長くなっていた川井さんは、異動の「予感」を感じました。
これまで転居を伴う異動はなかったものの、いつかは起こるものと考えいた川井さん。次男はまだ幼く、長男は小学校入学を控えていました。
現在は2回まで分割取得が可能になっていますが、当時、「カード」を切れるのは1度きり。迷いましたが、「使わずに後悔するよりいいんじゃない」という先輩の言葉に背中を押されました。「大きな異動がある4月や10月が近くなっても、そわそわすることはなくなりました」
キリンビールではおよそ5,400人いる社員の5人に1人が、全国転勤の対象となる総合職社員です。人事総務部で労務担当を務める高野睦史さんは、キリンの人材育成の理念として「社員には自律した個として、主体的にキャリア形成を考えることを求めている」と話します。
「社員自身が会社から何を求められているのかを理解し、将来どのようになっていたいかを主体的に考えて、キャリア開発することを支援できるよう制度設計を行っています。転勤回避措置制度は、その一環です」
転勤による離職を防ぐねらいも、少なからずありました。
「制度の導入によって、正直、人材の異動配置の検討はしにくくなりました。それでも、転勤の可否の時期を自ら決めることで、それぞれのライフイベントと、転勤を含めたキャリアを両立してもらいたいと思っています」
川井さんの処置期間が終わるのは2021年。その後、もしも転勤を命じられたら、子どもたちの教育環境を変えないため、単身赴任も考えているといいます。
「息子の小学校では、6年間に1度はPTAの役員になるのですが、私が東京にいられる今、済ませておこうと引き受けました。処置期間が終わっても、制度を使用できたことで腹が据わります。転勤を回避できている間に、制度を活せるよう夫婦で協力し合いたいです」
夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。
朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。
税抜き1400円。全国の書店などで購入可能です。
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