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2018年05月02日

転勤できる方が「上」? 地域限定型の社員が感じる「ガラスの天井」

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「転勤できない」ことはペナルティ?(写真はPIXTAから)

「転勤できない」ことはペナルティ?(写真はPIXTAから)

 「全国型の方が『上』ってことですよね」。地域限定で働く女性は、キャリアを積み上げたくても、ガラスの天井に阻まれているのを感じています。平成に入り、多様な働き方が大事にされる中で生まれたのが「地域限定社員」。しかし、従来通りの「全国型」が事実上、キャリアアップの条件になっている企業が多いのも事実です。「昇進するモデルケースがない」という現場の声を聞きました。(朝日新聞デジタル編集部記者・野口みな子)

夫と一緒にいられるのは嬉しいけど…

 「全国転勤型というだけで、いつか後輩が上司になるかと思うと、すごく嫌です」

 北陸地方在住の女性(20代)は、大手保険会社で地域限定社員として働いています。転勤がほとんどない公務員の夫と、一緒に暮らせる保証があることには満足しています。

 でも、どうしても全国型との待遇の違いを比べてしまうといいます。


 全国型の同期が、年次で順当に昇進するなか、地域限定型は「仕事が特にできる人だけが、昇進できる印象です」。

 さらに、全国型から地域限定型への変更はいつでも可能なのに対し、その逆には試験があります。「それって全国型の方が『上』ってことですよね」。

「少なからず、周囲もモヤモヤを抱えていると思う」と女性は話す(写真はPIXTAから)

「少なからず、周囲もモヤモヤを抱えていると思う」と女性は話す(写真はPIXTAから)

目指すべき人材なく、モチベーション維持「難しい」

 国立大を卒業し、入社してからも部署間の異動が多かった女性。多くの部署で経験を積むことで、上司からの期待も感じています。

 「地域限定型の社員の活躍を後押しする雰囲気はある」

 それでも、大都市と比べ、地方では部署も限られており、積める経験にも限りがあります。

 さらに、女性の周りで地域限定型で働いているのは「100%と言ってもいいくらい、ほぼ女性」。

 女性のように自分のキャリアを積み上げていきたいと思っている人ばかりではありません。

 「地域限定型社員には、出産・育児を越えて昇進するモデルケースがない。働くモチベーションを保つのは難しいです」

長年醸成されてきた「全国型優位」の雰囲気、私もそうだった

 「転勤できるできない、ということで能力は測れないのに、不思議ですよね」

 大手銀行に勤める女性(30代)は、結婚を機に転勤のある全国型から、地域限定型に変更しました。全国転勤がある夫と離ればなれになるのを防ぐためです。

 「表向きは全国型と地域限定型に、上下の関係はないとされていますが、やっぱり昇進のペースは違います」

 入社したとき、先輩に言われた言葉が忘れられません。「あなたは全国コースなんだから、地域限定コースより頑張らないとダメよ」。

 当時はそういうものだと思って過ごしてきましたが、いざ自分が地域限定型になってみると、そうした「暗黙の了解」のような考えに疑問を持つようになりました。

「長年かけて醸成された空気がある」と女性は話す(写真はPIXTAから)

「長年かけて醸成された空気がある」と女性は話す(写真はPIXTAから)

 数年前までは、現場をまとめるポジションに就きたいと思っていましたが、地域限定型になったいま、それも遠のくのを感じています。

 もしも夫に転勤を告げられたら、「私が仕事を辞めることも考えています」。

勤務地の「縛り」に処遇の違い

 転勤をせず働き続けたいという人のニーズや、転勤にかかるコストを抑えたい企業のねらいから、転勤を伴わない地域限定型の雇用区分が採り入れられてきました。

 中央大学のワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトが行った、企業へのアンケート調査によると、勤務地の制約がある区分の社員が、昇進できる職位に上限を設けている企業は62.6%、勤務地の制約がない社員と賃金テーブル(基本給体系)が異なる企業は70.7%でした。

 勤務地に「縛り」があることで、処遇が異なるケースが多いことがわかります。

 

「転勤=成長」という論理、正しいのか

 プロジェクトメンバーである法政大学の武石恵美子教授(人的資源管理論)は、「同じ業務を行っているにもかかわらず、勤務地の制約の有無で、賃金テーブルの差異や昇進の上限を設けることに合理性はない」といいます。

 「転勤をしないと成長できないという論理は、日本の雇用者の8割を占める中小企業の人材育成を否定することになります。日本では転勤できることがスタンダードになっているため、転勤できないことがまるでペナルティのように作用してしまっています」

法政大学の武石教授

法政大学の武石教授

 転勤の対象者にとって、いざ転勤となると、家族の仕事や子どもの教育など難しい対応に迫られます。企業が手当や補助金を出してくれると言えども、転勤でお金がかかるのは事実です。

 「いつ転勤を命じられるかわからない」リスクに対する、賃金の上乗せは『転勤プレミアム』と呼ばれ、先述の調査では2~3割の上乗せがある企業が半数を超えています。
 
 「企業としても、赴任のための費用など大きなコストが生じることにも目を向けるべき」と武石教授は話します。

 

人事制度を見直さないと、「企業存続できないのでは」

 武石教授は「全国型の雇用区分であっても、実際には転勤していない人も一定数います。その点では、転勤プレミアムは、『いつでもどこでも行けますよ』というスタンバイ状態に対するご褒美のようなものです」と指摘します。

 「まずは賃金テーブルを一緒にしなければ、不公平感はなくならないのでは」

 武石教授が問題視するのは、平成の生き方とのズレです。

 「これまで一括採用・終身雇用で、ジェネラリストを育てることが基本でした。転勤という制度も、この中でうまく回っていましたかもしれません。いま、ワークライフバランスやダイバーシティを考えたときに、本当にこれが正しいやり方なのか、企業も社員も懐疑的になっている状況だと思います」

 生き方の変化に加え、武石教授は、少子高齢化など、労働人口の減少についても考えるべきだと訴えます。

 「労働力の需給バランスは、今後は需要超過で推移するのは確実です。人材の確保、定着が大きな課題となり、『やりたいことができるか』『自分らしく成長できるか』ということに関心がある人たちが増えていくと、人材活用策の観点から考え方を変える必要があります」

 「人事制度やキャリア開発のあり方を見直し、社員と密にすり合わせが行われる体制を整えなければ、企業も存続できなくなってしまうのではないでしょうか」

連載「平成家族」

 この記事は朝日新聞社とYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観と古い制度の狭間にある現実を描く「平成家族」。今回は「働く」をテーマに、4月28日から公開しています。

平成家族



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