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中村アンさん「頼ったり、甘えたりは下手かも」 自立の裏にある教え
「自分の足で立つ」メンタルが根付いていました

刑事や外科医、航空管制官など、第一線で活躍する女性を多く演じてきた俳優の中村アンさん。現在放送中のホームドラマでは、家事も子育てもおろそかにする夫に振り回されながら、奮闘する母親役に挑戦しています。演じる中で、自身の母親への思いも自然と重なっていきました。(朝日新聞withnews編集部・河原夏季)
ドラマ『こんばんは、朝山家です。』で、初めてホームドラマの母親役を演じている中村アンさん。「今までは自分の経験や雰囲気に近い役が多く、自分と向き合う役をたくさんやらせてもらいました」。そう振り返るように、キャリアを重ねながら主体的に生きる女性を演じてきました。
東京都出身で3人きょうだいの長女。幼い頃から「自立」していたといいます。
「『自分の力で生きていける女性になりなさい』という母の方針があったのだと思います。中学受験のときは初めて行く受験先の学校から一人で自宅に帰るように言われたり、社会人になったら一人暮らしをしなさいと勧められたりしました」
小学生の夏休みには、祖父母の家がある新潟県佐渡島まで一つ下の弟を連れて2人で新幹線に乗り、駅から船着き場までは親戚に頼って船で向かっていたといいます。「そのときは『私が弟を守らないと』と幼いながらも思っていました」
高校時代、全国大会で上位常連のチアリーディング部でキャプテンを務めたことも、芯の強さを育てました。厳しいと有名な部活で、日本一をめざす日々。親とぶつかることはあってもいわゆる反抗期はなく、スポーツに打ち込んでいたといいます。
「自分の足で立って頑張っていくメンタルが根付いているなぁと、最近ふと思うんです。そうやって鍛えられてきたからこそ、まっすぐ全力で生きる役をいただくことが多いのかもしれません」
一方で、「そのような育ち方をしたので、人に頼ったり、甘えたりするのは自然と下手くそかも。気づけば、『自立しすぎた』のかもしれません」と笑います。
年齢を重ねて、母親役のオファーも舞い込むようになってきました。
「私自身はまだ独身で、母親の経験がないなか演じきれるのか不安がありました」と話す中村さん。子どもを思う母親の気持ちを完全に理解することは難しいと感じていました。
そんななか、自身の両親について思いを寄せることがあったといいます。
「母や父はどう思っていたんだろうと考えることが増えました。母もきっと何もわからないところから『お母さん』になって、第1子の私を産んだときは初めてだらけで慎重になっていたのかなって」
撮影期間中、中村さんは母親が作ってくれたアルバムを見返していたといいます。実家に眠っていたものを、「あなたが持っていて」と託されたそうです。
「母が3人きょうだいのひとりひとりに、生まれたときからのアルバムを作ってくれていたんです。幼いときは入学式や卒業式、成人式などの節目に写真館で家族写真を撮っていました」
「このような話を親子でする機会はあまりありませんが、母親役を演じることで、母も一生懸命やってくれていたんだなと深い愛情を感じました」
ドラマ『こんばんは、朝山家です。』では、夫をののしり、キレる演技もみせています。制作発表会見では「罵倒できるかなと思っていましたが、今では罵倒することが気持ちよくて、毎日の快感になっています」と話し、笑いを誘っていました。
夫婦の日常的な言い合いも多く、「とにかく会話の量がすさまじいので、今までとは違う頭の使い方が必要でした」と振り返る中村さん。
「会話劇で未知の母親役でもあり、すべてがチャレンジング。でも、この仕事をしている醍醐味でいろんな自分に出会えます。成長できる機会をいただいて、この作品に出会えたことが一番の収穫ですし、それを乗り越えていく日々は何ものにも代えがたい財産だなと感じています」
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