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#11 LGBTのテンプレ考

「ゲイかも」息子の告白に救われた母 25年家族に隠したある秘密

出典: PIXTA

目次

 「ゲイかもしれへん」。高校生の息子から告白され、「救われた」と話す女性がいます。そこには、家族にも誰にも話せなかった、女性のある「秘密」がありました。(朝日新聞デジタル編集部記者・原田朱美)

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連載「LGBTのテンプレ考」
1.世間のイメージ
2.(1)ゲイの二つのテンプレ
  (2)【イラスト解説】「おネエ」は「LGBT」のどこに入るの?
3.LGBTのLBTってどんな人?
4.LGBT=めんどくさい人たち?
5.LGBTが嫌いなセクシュアルマイノリティ
6.バイセクシュアルの孤独
7.LGBTではないセクシュアルマイノリティ
8.「理解されることは、あきらめている」
9.LGBTが気持ち悪い人の本音

息子の告白

その女性とは、Cさん(49)。
夫と大学1年生の息子と暮らす、ごく普通の主婦です。

Cさんと息子は、普段から仲が良く、リビングのコタツでいろんな話をします。
あれは、2016年の秋ごろ。
息子はいつもの場所に座り、当時通っていた高校の授業で読んだという、小説の話をはじめました。

出典: PIXTA

物語の中に、同性愛者が登場します。

感想をあれこれと語り合うなかで、息子がさらりと口にしました。

「自分もゲイかもしれへん」

勇気を振り絞ってとか、意を決してとかではなく。
ごくごく自然な告白でした。

一家は以前、関西に住んでいたので、家でリラックスして話すときは、だいたい関西弁です。

「なんや、全然知らへんかったわあ。ママそれ聞いてうれしいわあ」

Cさんは、思わずこう口にしていました。

もちろん「差別されないか」「今後つらい目にあうんじゃないか」という不安がないわけではありません。
その一方で、うれしかった。

「私の心に、ぱあっと青空が広がった気がしたんですよ」。

記者にそう話すCさんの声は、少し震えていました。

「息子の告白を聞いて、私も自分の気持ちにフタをしなくていいんだ。ああ、助かった。救われたって」

Cさんは、続けて息子にこう告げました。

「実はママも、女の人の方が、好きかもしれへん」

「へーえ」

息子は、やっぱりいつもどおりの穏やかな顔で、受け止めてくれました。

出典: PIXTA

心にフタをした結婚

Cさんは、古い街に生まれました。
両親の仲が悪く、難しい家庭でした。

恋愛結婚で苦労した両親の二の舞いになるのが怖く、「結婚に恋愛感情を持ち込まない」と、心に決めていました。
結婚への夢や憧れは、ありません。
「結婚は家と家がするもの。相手は『嫌いじゃない』程度なら、親が薦める人でいい」。

同世代と比べて古くさい考え方だと知っていましたが、親が求める理想を実現させてあげれば、親も自分もうまくいくと思っていました。

思春期のころ、Cさんが好きになった同級生は、女子でした。
でもそれは、「女の子にはよくあること」。

27歳の時、親の薦めに従って、今の夫と結婚します。
「LOVE」がなくても「LIKE」な相手なら、十分だと思っていました。

出典: PIXTA

式の直前、ふたりで祭りに出かけた時のこと。
夫が、Cさんの手を握りました。

「すごく、嫌」

自分自身の反応に、戸惑いました。

そして、キスもしないまま、結婚式の日を迎えます。

2次会で参列者たちが、無邪気に新郎新婦のキスを求めました。
やっぱり、嫌。
「ああ、この結婚はダメだったかもしれない」
と、はっきり自覚します。

「どうしよう。どうしよう」

同性が好きかもしれないなんて、怖くて誰にも言えません。
結婚生活を維持しなければ。この気持ちにフタをしなければ。
一時的なものかもしれないし。
女性が好きなわけがない。そんなことは、許されない。

出典: PIXTA

ストレスとの関係はわかりませんが、
まもなく、病気を患いました。

結婚から5年後、息子が生まれました。
「跡取りを産まねば」と思っていたので、役割を果たしたという安堵(あんど)が、どこかにありました。

ただ、フタをしたはずの思いは、消えません。

気がつくと、本屋で同性愛について書かれた本を手に取っていたり、レズビアンであることを公言している人のブログを読んでいたり。

病は、いっこうに治らず、結婚生活と同じ期間、今に至るまで、薬を飲み続けています。

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人生を肯定して死ねる

Cさんが息子の告白を聞いて「救われた」のは、20年以上押さえつけていた自分の心でした。

「息子が、自然と自分がゲイであると認めるのを聞いて、『ああ、なんだ。同性を好きでもいいんだ。そういう気持ちがあってもいいんだ』って」

「もっと早く気付けば良かったのかもしれませんが、これで自分の人生を肯定して死ねるのが、うれしい」

ただ、夫は、なにも知りません。

「絶対ムリです! 言えるわけがない!」

自分と同じく古い家で育った人なので、妻と息子が同性愛者かもしれないという事実を受け入れられるとは、思えません。
息子も、父親には当面言う気がないようです。

夫との関係は、ずっと前に冷えています。
自分のことしか考えていないかのような夫の言動に、いらつくこともあります。

「ただ、夫には申し訳ない気持ち。私も愛情が希薄でしたから。もっと頼ったり甘えたりしたら、よかったのかな。結婚したら急に病気になった私を、心配していたかな。私の言動で、彼を傷つけたこともあったのかな」。

近い将来、息子が独立した後、夫と向き合い、関係をどう立て直すのか。
「これからが正念場」と、Cさんは笑います。

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実は、「結婚しているレズビアン」は、珍しいわけではありません。
レズビアンのコミュニティでは、「主婦レズ」といった呼び方をされています。
結婚するにいたった経緯は、人それぞれですが、家族に隠し、ひそかに集まる人たちもいます。

Cさんに「他のレズビアンの当事者に会ってみたいと思いますか」と、聞きました。

「思います!」

Cさんは、勢いよくこたえた後、「でもやっぱり、怖いかな。怖いなあ……」と、うつむきました。「家族を、なんとか保っていきたいんです」

レズビアンの人たちと会うことで、自分の知らない部分がムクムクと育ってしまったら、どうしよう。思いが育ちすぎた時、自分がどう変わってしまうのか、想像もできません。

20年以上押さえ続けた「フタ」は、もうありません。

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