連載
#7 LGBTのテンプレ考
味方がいない!バイセクシュアルの孤独 セクマイからも「ウソつき」
「バイセクシュアル」と聞いて、あなたは何が思い浮かびますか。「LGBT」の中で、最も存在感が薄いと言われるのが「B=バイセクシュアル(両性愛者)」です。セクシュアルマイノリティの中ですら理解されず、偏見をもたれているといいます。どういうことでしょう。(朝日新聞デジタル編集部記者・原田朱美)
先日、私は「LGBTのイメージに関するアンケート」を実施しました。
レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)それぞれについて、どんなイメージを持たれているのかを知りたかったからです。
800人から回答がありましたが、「バイセクシュアルのイメージ」を聞いた質問は、約5割が無回答でした。
2人に1人は、イメージすら、ない。
回答をセクシュアルマイノリティ(セクマイ)の当事者だけに絞っても、無回答率は同じでした。
「イメージは、ないでしょうね。僕自身も、わかりませんもの」
都内の会社員りほさん(27)は、自虐的に笑います。
高校生の頃から、男性と女性両方に好意を感じ、「自分はバイセクシュアルかもしれない」と思いはじめたそうです。いまは、そもそも好きになる相手の性別にとらわれない「パンセクシュアル」だといいます。
自分以外のバイセクシュアル/パンセクシュアルには、ほとんど会ったことがなかったそうです。
「他のバイセクシュアルに会ってみたい」と、りほさんは昨年9月、バイセクシュアル(パンセクシュアル含む)の人たちの交流会を東京・新宿で開きました。
集まったのは、30人ほど。
見た目は男女半々くらいで、学生から50代まで、幅広い人たちでした。
「当たり前なんですけど、バイセクシュアルって他にもいるんだなあって思いました。LGBTのひとつでありながら、Bには単独のコミュニティーがないんです。『レズビアンとバイが集まる店』とか、同性愛者と一緒の場所しかない」(りほさん)
バイセクシュアルは「群れない」と言われることがありますが、参加者はみな、「バイセクシュアル当事者の会を初めて知った。できてよかった」と口にしたそうです。
「参加者同士がつながって、ニーズを掘り起こせたのがよかった。来た人は見た目も仕事もバラバラで、統一感が全くなかったですね。集まった人たちを見て『こういう傾向がある』と全く言えない感じ。『他のセクマイと比べて、ロールモデルがないよね』という話になりました」
いま、LGBTにまつわるコミュニティや活動団体は、全国にたくさんあります。
本当に「バイセクシュアルのコミュニティはない」のだとしたら、なぜなのでしょう。
りほさんは、
「同性愛者のコミュニティで、バイセクシュアルは『異性を愛せるなら仲間じゃない』と、はじかれてしまう。でも一般の人にも『男女両方いけるって、意味が分からない』と言われる。孤立してしまう立場なんですよね」
と、言います。
バイセクシュアルは、セクマイの中で、悪いイメージすら持たれていることがあります。
典型的な偏見は、
「節操がない」「性欲が強い」
「本当は同性愛者なのに、体面を気にしてウソをついている」
「半端者」「どっちつかず」
といったもの。
冒頭のアンケートでも、たしかに、少数ですが上記のような回答があり、さらに、
「変態」「ちゃらい」「ナヨナヨしている」
といったものもありました。
「レズビアンの立場からすると、優柔不断な存在に感じられる。結局異性と結婚するまでの火遊び、酒の肴(さかな)にするために経験しておこうとしかレズビアンを思ってないのでは?と思ってしまう」(20代、東京在住、レズビアン)
といった、露骨な嫌悪を示す人もいました。
気になる回答もありました。
「セクマイの中で疎外感を感じている人が多い。そのためバイだと言わず、レズorゲイだと答える人が多い」(20代、九州在住、レズビアン)
ウソをつく、ということでしょうか。
バイセクシュアルであることを公言している小説家の藤間紫苑さん(47)は、
「バイセクシュアルは、ゲイやレズビアンのコミュニティで、『バイです』と言えず、同性愛者だとウソをついていることが多いです。セクシュアルマイノリティの中でも自分を偽らないといけない」
と、話します。
マジョリティに理解されないと集まるマイノリティのコミュニティの中ですら、理解されずに自分を偽る。つらい立場です。
「『どっちつかず』といった偏見は、本当にいろんなところで言われます。バイセクシュアルって、異性と付き合っている時はセクマイに見えないし、やっぱり『結婚制度』は重いです。一度結婚して子どもができると、パートナーへの愛が冷めても、なかなか離婚しづらい。そうすると、世間的にはヘテロセクシュアル(異性愛者)です。それがセクマイ業界の人にはイメージが悪い」
結婚ができない同性愛者にとって、結婚ができることは、「マイノリティになる覚悟がなく、逃げ道を残している人」とすら、映ることがあるそうです。たとえば、同性愛者が集まるバーで「バイですと言えば、モテない。嫌がられる」(藤間さん)のだとか。
藤間さんは「セクマイ業界」を30年以上見てきました。
1990年代には、「バイセクシュアルは参加禁止」というレズビアンのコミュニティもあったそうです。
一方で、藤間さんのもとには、「実は自分もバイかもしれない」と秘密の相談をしにくる同性愛者も少なくないそうです。
藤間さんも、りほさん主催の交流会に参加したひとりです。
「交流会で聞いてみたら、みなさん『ずっとバイだと言えなかった』と。孤独感を共有できたのが、よかったです」
バイセクシュアルの交流会は、次は4月末に開かれる予定です。
セクシュアルマイノリティの一大イベント「東京レインボープライド」の一環です。
毎年大型連休に合わせて開かれるこのイベントは、年々規模が大きくなり、昨年は約10万人(主催者発表)が参加しました。
東京レインボープライドでは「LGBT」という言葉がさかんに飛び交いますが、やはりこの一大イベントでも、LGTにくらべ、Bの存在感は薄いです。
藤間さんは、交流会で出会った面々と、「バイセクシュアルのメンバーだけで、参加してみたいね」と、語り合ったそうです。
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