連載
#2 LGBTのテンプレ考
「ゲイ=女装おネエ」じゃない! 世間が知らない二重のテンプレとは
テレビのバラエティ番組を見ていると、「おネエ」なタレントをよく見ます。男性が好きな男性は「ゲイ」といいますが、「ゲイ=おネエ」と思っている人は、多いのでは。でも、実際は全然違うんですよ。ゲイにまつわる「テンプレ」を、考えてみました。(朝日新聞東京社会部・原田朱美)
テレビで見るおネエタレントの人たちといえば。
女性よりも女性っぽい言葉遣いで、あけすけなトークで人を笑わせ、イケメンには目がない……といったキャラであることが多いです。
一方、私は、取材でゲイの方に会うことがよくありますが、いわゆる「おネエ」っぽくない人は、多いです。
あるゲイの男性は、こう話していました。
「飲み会で会った初対面の女性にゲイだと言ったら、いきなり『私に説教してください』と言われたことがあります。毒舌でズバッと本質を突くというテレビのおネエタレントのイメージを重ねられたんでしょうね。『いや、僕、あなたのことをよく知りませんので』って断りましたけど」
やはり「ゲイ=おネエ」と思っている人は多いのか。
ネットアンケートで「ゲイの典型的なイメージはなんですか」と聞きました。
800件の回答が寄せられ、うち約400人がセクシュアルマイノリティの当事者、320人が非当事者、自分が当事者なのか「分からない」と答えた人が約80人でした。
きちんとした調査ではないので、この結果をもって「こういう傾向がある」とは言えませんが、テンプレについて考えるきっかけにはなります。
非当事者の回答を見ると、一番多く出てきた言葉は「おネエ」と「マツコ・デラックス」でした。
「言動がなよなよしている」「言葉が女っぽい」「女装した男性」「毒舌」「フェミニン」「ファッションに敏感」といった、テレビで活躍する「おネエタレント」と呼ばれる人たちのイメージを表したような言葉が目立ち、やはりテレビの影響は大きそうです。
一方、アンケートは、当事者の方々も回答してくれました。
ゲイの人たちの回答を見ると、
「『ゲイ=女装おネエ』ではない」
「ほとんどのゲイはおネエ言葉を使わない」
といった、「おネエ」とひとくくりにされることへの反発がありました。
あるゲイ男性は、「実際はおネエタレントのように過剰に女言葉を使うゲイは少ないですよ。2丁目で働く人とか限られた人だけです」と苦笑します。
バラエティー番組では、おネエタレントたちが、バケモノのように扱われたり、やみくもに男性を追いかけ回したり、といった演出が少なくありません。
あるゲイ男性は「自分も同じように見下されている感覚をもつ。『同性愛は気持ち悪い』という表現をされると、直接自分が言われたわけではなくても、積もり積もって自己否定になる」と胸の内を教えてくれました。
「プラス方向でのテンプレイメージもある」と、いう意見もあります。
22歳のゲイの男性は、「ゲイだから男女両方の気持ちが分かるとか、おしゃれだとか、勝手な期待を押し付けられることがある」と話します。
これも、テレビ番組や、一部の有名人の影響でしょう。
一方で、ゲイ当事者から見た「典型的なゲイのイメージ」というものもあります。
これは、みなさんの回答が見事にそろいました。
「短髪」「ヒゲ」「ガチムチ」「Tシャツ短パン」
がっしりした、いわゆる「男らしい男」。女っぽい「おネエ」とは真逆です。
実はこれ、ゲイコミュニティーのテンプレで、実際にこういう方は少なくありません。
なぜこれがテンプレなのか。
ゲイの方たちに聞くと、「モテるから」と異口同音に返ってきました。「好きな人に選ばれたいから、見た目が似ていく」のだと。「男性が好き」なのですから、男性性を極めた見た目がモテるのは、ある意味当たり前かもしれません。
取材では、「ゲイコミュニティーは筋肉がどれくらいついているかで序列が決まっていて、『おネエ』はその下。女装は最下層」という言葉まで聞きました。
都内の会社に勤めるゲイ男性(33)は、こう話します。
「ゲイの中にもマジョリティとマイノリティがあって、マジョリティが『ガチムチ』。見た目が似ていくのは、せめてゲイコミュニティーの中では、マジョリティになりたいのかもしれませんね。異性愛者の男性にマジョリティや非モテがあるように、同じものをゲイの世界にもつくり出している」
ゲイコミュニティーではそれほど「鉄板」なテンプレでも、世間的には、ほとんど知られていません。
この落差はなんでしょう。
明治大学非常勤講師の三橋順子さん(ジェンダー史)は、
「大学の授業で、『世間的にはゲイ=おネエだけど、当事者のテンプレはマッチョ』という話をすると、学生はみんな驚きますね」と、話します。
「マッチョなゲイは、『2丁目』にはたくさんいるのに、テレビにはほとんど出ない。だから、テレビに出る『おネエ』のイメージだけが世間に広まっている。そのことについて、ゲイの人たちに意見を聞くと、2タイプあります」(三橋さん)
ひとつは、「おネエはゲイのごく一部の姿であり、ゲイについてゆがんだイメージを世間に植え付けていて、よくない」というもの。
もうひとつは、「世間のイメージが『ゲイ=おネエ』になることで、自分がゲイだとバレないから、都合が良い」というもの。
まったく逆の意見です。
ただ、ゲイコミュニティーのテンプレも、若い世代では変化があるようです。
セクシュアルマイノリティ向け雑誌「PUER(プエル)」を2017年12月に創刊した大下直哉さん(32)は、こう話します。
「『ガチムチ』な人が多いのは40代以上でしょうか。男らしさの象徴として、それが『モテ線』だったんです。やっぱりみんな、好きな人には選ばれたいから、見た目が似ていくんですよね」。
「でも、若い世代は、かなり好みが分かれていますから、見た目はそんなに似ていません。もちろん『ガチムチ』な人もいますけど、シュッとした人やジャニーズ系も、市民権を持ち始めていますよ」
たしかに、私が取材で出会ったゲイ男性(23)も「ガチムチがゲイのヒエラルキーの上というイメージはあるけれど、自分はそういう『いかにも』な見た目にはなりたくない」と語っていました。
大下さんが雑誌「プエル」でこだわるのは、「等身大」だそうです。
「セクシュアルマイノリティの実像ってあまり知られていませんよね。テレビに出ているのは、ごく一部の芸能人。多くの人は普通に働いているし、友だちもいれば、悩みを抱えてもいる。そういう『マイノリティの中のマジョリティ』の姿を発信したい」
「性的マジョリティー」は、ゲイとひとくくりにして語りがちですが、「男性を好きな男性」というだけで、性格や価値観は人それぞれ。
「女性を好きな男性」にいろんな人がいることと、何も違いはありません。
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