話題
マグネットネイルはダメ?カツラに肌着も… MRIでNGなもの
カツラでも地毛だと言い張る人も…
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カツラでも地毛だと言い張る人も…
磁石と電波で体内の断面図を撮影する医療機器「MRI」。金属類を持ち込めないことは多くの方が知っているかもしれませんが、身の周りには予期せぬところにも金属が含まれているようです。カツラにネイル、肌着にコンタクト…。何がOKで何がNGなのか、日々患者と攻防を繰り広げている技師に聞いてみました。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
高清会高井病院放射線科(奈良県)所属。診療放射線技師として県立奈良病院、奈良医大、阪大病院に勤務し、定年退職後に現職。全国の技師と企業の有志からなる「安全なMRIを考える会」代表理事も務める。
記者は少し前、MRIに入る必要があり、技師の方から「これマグネットネイルですか?MRIだめなんですよー」と言われました。
マグネットネイルとは鉄粉入りのジェルを爪に塗るものです。
「マグネットネイルにリスクがあるなんてネイルサロンでも言われてないし知らなかった!」と思い、今後MRIに入りうる方々への情報提供として記事化を志しました。
MRIに持ち込めないものは「禁忌」と呼ばれます。
何をどこまで禁忌とするかは施設や技師ごとに考え方が異なります。
この記事では𡈽井さんの認識を紹介します。
まずはマグネットネイルについて、𡈽井さんへ聞いてみました。
「含まれている鉄粉に電流が流れて発熱するおそれがあるんです。昨年も国内で指先が熱くなったという報告がありました」
とは言え、禁忌のものをMRIに通すと必ず発熱などの反応が起きるわけではありません。
「熱を帯びるかどうかはいろんな条件が重なっての結果ですが、絶対出ませんと言い切ることもできないです」
「許可をもらってマグネットネイルをしている方にMRIをしたことがありますが、そのときは異常はなかったです。もちろんカバーをしてですが・・・」
𡈽井さんの場合、しっかりコーティングがされたマグネットネイルの場合はMRIへ受け入れますが、少しでも指先に熱を感じたら訴えるよう患者に伝えるそうです。
𡈽井さんがマグネットネイルの存在を知ったのは2020年でした。
安全なMRIを考える会で運営しているQ&Aサイトへ、マグネットネイルの扱いについて技師から相談が寄せられていました。
「ややこしいものが出てきたなあと思いましたねえ」と𡈽井さんは苦笑い。
禁忌にあたるものには美容関係のものが多く含まれていて、製品や施術の進化に技師は翻弄されます。
「ネイルで火傷しても、言い方は悪いですが、命に別条はありません。病気の可能性があるのならMRIをして病気を見つけることが優先されます」
𡈽井さんが指よりも怖いのは目や今後のQOLや生命の危険に影響を及ぼすものをより危険と捉えているのだそうです。
「特にファッションレンズや黒目が大きく見えるようなドーナツ型のカラーコンタクトには鉄分が含まれていることもあるのでMRIにはよくないです。目は火傷したら指先とは話が違い失明のおそれもあります」
他にはアートメイク、アイシャドウ、アイライナーなどにも鉄分が含まれている場合があるそうで、熱さを感じたらすぐに患者に伝えさせることが重要だといいます。
金属が含まれる身の周りの製品は他にも、耳つぼピアス、ヘアエクステの接合部分、インプラント、歯列矯正のワイヤーなど様々。
𡈽井さんはいずれもしっかり固定されていればMRIに通すものの、金属が大きければその周辺の磁力が乱れて画像に正しく表れないという影響も考えられるそうです。
そのため、たとえば入れ歯のように取り外し可能なものはMRIの前に外してもらうのが大前提なのだとか。
さらに技師を悩ませる禁忌の1つが「カツラ」なのだそう。
「クリップみたいなもので留めているカツラだと、MRIに近づいたら飛んだりずれたりします。やっぱり本人にしてみたらカツラだと指摘されたくないでしょうし、我々も聞きにくくて…」
「見るからにカツラでも『地毛です』って言い張る方もいてはります。そのときはもうMRIへ入れてしまう。そうすると磁力に引っ張られてカツラが抜けて飛んでいくのでさりげなく回収します」
何が禁忌なのかは更衣室に掲示してあるため、自己申告してくれる人も多いそう。
あるいは、MRIの前に診察をした医師から「この人カツラしてはるから誰も見ていないところで外してあげてね」と情報が来ることもあるらしいです。
白髪染めのパウダーも、鉄分が含まれているものだとアウト。粉がMRI内で散ってしまうと正しく撮影できなかったり機械の故障につながったりします。
「しっかり髪にくっついているか触って確認させてもらって、手につけば頭を洗ってもらうこともあります」
そのほか患者側が知らなさそうな禁忌を聞いてみました。
「補聴器は磁気で壊れてしまうので要注意ですね」
「あとは糖尿病の方なんかが二の腕に付けている『持続血糖測定器』。2週間くらい付けっぱなしで1つ数千円するので、緊急でなければ測定器を取り換えるタイミングでMRIを撮るよう提案します」
ヒートテックなどの保温効果のある機能性肌着も危険性があるそうです。
「商品が出てきた初期に皮膚が熱くなった事例がありました。肌着に金属が含まれているわけではなくて、あたたかいから汗をかいたら水分は電気を通すので熱くなったようです」
𡈽井さんは汗をかかないよう室温を調整すればリスクは低いという認識で行っているそうです。
「あとは前立腺の手術などで付ける尿道バルーンが外れて、おしっこまみれになったっていう話は何十例も報告されています」
𡈽井さんの目の前で患者がMRIの磁石にくっついてしまった事案もあったそうです。
「ずっと昔ですけど、義足の方や、トレーニング用の重り『パワーアンクル』を足首に付けていた方が足ごとMRIの中でひっついちゃったことはありました」
「パワーアンクルは鉄そのものなので強烈にひっついて、2人がかりで引っ張ったら外れましたね。その時のMRI装置は1テスラでしたから」
テスラとは磁場の強さを表す単位のこと。現在のMRIの多くは1.5テスラですが、3テスラのものも増えているのだそう。
「いずれも酸素ボンベのような鉄のかたまりがくっついてしまえば人力で外すのは不可能です」
およそ40年もの間MRIと向き合ってきた𡈽井さん。学生だったころはまだMRIは導入されていなかったそうです。
「僕が実習していたころはCT1枚撮るのに5分ぐらいかかってましたね。今では0コンマ何秒で撮れます」
「MRIは31歳ぐらいから始めて、最初は1人30分とか40分かけてやってましたね。そのころは金属類は当然ダメだったのと、ペースメーカーも全部禁忌でした」
「ペースメーカーは金属部分を非金属に変えるとかメーカーの努力があって、今ではMRIに対応したペースメーカーも出ています」
安全なMRIを考える会のメンバーとして日々MRIについての情報共有や啓発活動に取り組んでいる𡈽井さん。
安全について考えていない施設だったら、無条件でMRIさせるか、禁忌となる可能性のあるものは一切NGとするか、両極端なのだと話します。
「MRIをやっている人全員に、もっとMRIの安全性について知ってほしいんです。研究会や学会に参加しない方にも知っていただけるようにサイトでも質問に答えています」
「要は転ばぬ先の杖なんです。事故が起きてからじゃ遅いですし、危険性を知らずに安全やと思われるのが一番危ない。どういう理屈で何が危ないかを知ってもらうのが重要やと思っています」
MRIを受けにやってくる方へお願いしたいことも聞きました。
「金属はできるだけつけてこないでいただきたいのと、化粧もどちらかというと薄めでおねがいします。濃い化粧だと発熱しやすいことは実証されています」
「ファッション関係の事故情報は関西の技師からは聞くことは少なく、だいたい関東から聞きます。関東の人の方がいろんなファッションしてるからかもしれへん」と笑う𡈽井さん。
ちなみにMRIを受けた際にヘッドホンを付けさせられてクラシックが流れてきた記者自身の体験談を話すと…。
「あれはね、安全のために患者さんに聞こえる音を99デシベル以下にしないといけないって国際電気標準会議の規定で決まってるんですよ」
𡈽井さんの『十八番』を聞くと…。
「僕自身がよく歌うのは同い年で風体も似ている松山千春ですけど、曲流して患者さんが歌って動いちゃっても困りますからねえ。やはり流すのはインストゥルメンタルです」
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