連載
#4 LGBTのテンプレ考
今さら聞けない!「LGBTのLBTってどんな人?」 イメージと差
ここ数年、ニュースでよく聞く「LGBT」ですが、どんな人たちというイメージを持ちますか? 「G=ゲイ」は、すぐにイメージが浮かぶかもしれませんが、「LBT」はイマイチよくわからないという方も多いのでは。「いまさら人に聞けない」というあなたのために、イメージと実像を調べました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
そもそもの話をしますと、「LGBT」は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉です。セクシュアルマイノリティはこの4タイプだけではありませんが、数が多いのがこの4タイプです。
では、L/G/B/Tそれぞれについて、みなさん何を思い浮かべるのでしょう。
4タイプについて、「典型的なイメージ」をネットアンケートで聞きました。
「セクシュアルマイノリティに詳しくない」という人は、そもそもイメージもないかなと考え、「なにも浮かばない場合は無回答で」とお願いしました。
800件の回答が寄せられ、内訳は、セクシュアルマイノリティ当事者が400人、非当事者が320人でした。
きちんとした調査ではありませんので、この結果だけで「社会的にこういう傾向がある」とは言えません。その点はご容赦ください。
まず注目したのは、「無回答」です。
つまり、何のイメージも浮かばないという人たち。
非当事者(マジョリティ)の回答を見ると、L/G/B/Tそれぞれの無回答率は、以下でした。
L(レズビアン) 43.5%
G(ゲイ) 25.8%
B(バイセクシュアル) 53.2%
T(トランスジェンダー)53.9%
Gだけ低く、LBTは高いです。
つまりゲイだけは、なんらかのイメージがあり、書き込んだ人が多かったということ。
あくまでこのアンケートでは、ですが、「やはり」という感じです。
私は今まで何度かセクシュアルマイノリティの取材をしたことがありますが、ゲイはよく、「LGBTの中のマジョリティ」といった表現をされます。テレビ番組の「おネエ」タレントや、新宿2丁目のゲイタウンといった、知名度の高い人や街もあります。回答を見ても、こうしたイメージが反映されていました。
(ただし、「おネエ」はゲイのほんの一部です。「おネエ」のイメージで語られることを嫌う当事者は多いですので、お気をつけください)。
ジェンダー史が専門の三橋順子・明治大学非常勤講師にも、アンケート結果を見てもらいました。
「同性愛者のなかでは、ゲイだけが報道されることが多く、レズビアンがメディアに出ることは圧倒的に少なかったのです。2015年に渋谷区が同性パートナーシップを認める条例を制定したころから、ようやくレズビアンも出るようになりました。こうしたメディア露出の影響が出ているのではないでしょうか」
なるほど。だから「なんのイメージもない人(無回答率)」がBT>L>Gの順番なのでしょうか。
良くも悪くもイメージをもたれやすいGですが、LBTのイメージとは、どんなもので、実像とどう違うのでしょう。
三橋さんと一緒に回答を見ていきます。
非当事者の回答でよく出てきた言葉は、
「キレイ」「ボーイッシュ」「宝塚」「男性が嫌い」。
具体的な個人名として挙がったのは、
東小雪さん(元タカラジェンヌ)、牧村朝子さん(タレント)、ジョディ・フォスターさん(アメリカ俳優)でした。
「古典的なレズビアンのイメージは、宝塚的な『ボーイッシュ』『ショートカット』といったものでした。ただ、ここ数年“同性婚”がらみでメディアによく出るようになった東さんや牧村さんは、とても女性的な見た目。男性的なイメージがだいぶ修正されてきたのかもしれません」(三橋さん)
アンケートには、「ゲイほど当事者が話題にならないため、漫画の中の美少女しか思いつきません」(30代)といった声もありました。
ちなみに、実際のレズビアンは、いろんな見た目の方がいます。当たり前なのですが、「女性のことが好きな女性」が共通点というだけですので、見た目も性格も、人それぞれです。
最も多かった回答は「カズレーザー」。
人気の芸人さんが、テレビ番組で自らバイセクシュアルだと発言した影響は大きいようです。
ただ、それ以外は「男性と女性の両方を好きになる」といった回答が多く、具体的なイメージはあまり出てきませんでした。
「むしろ、カズレーザーさんしかイメージがないんでしょう。LGBTの中でもバイセクシュアルは最も存在感が薄いですから」(三橋さん)
さきほどの「無回答率(イメージがない)」を見ると、
非当事者ではバイセクシュアルとトランスジェンダーが同じくらいですが、
当事者の回答では、B=54.4%、T=45.6%と、バイセクシュアルが最も高いです。
「バイセクシュアルは、セクシュアルマイノリティ内で悪いイメージすら持たれてきました。典型的なものは『本当は同性愛者なのに、体面を気にしてウソをついている』『淫乱』といったものです」(三橋さん)
たしかに、LGTの当事者の回答をみると、バイセクシュアルに対して、肯定的な意見ももちろんあるのですが、
「変態」「どっちつかず」「ちゃらい」「ナヨナヨしている」
といった、書くのもためらわれるような言葉が散見されました。
男性と女性の両方が恋愛対象である、というだけで、「好きもの」「性欲が強い」といったイメージを持たれてしまうのだとか。
セクシュアルマイノリティ内でさえそうなので、世間一般では、なおさらです。非当事者の回答でも、「節操がない」「うらやましい」といった言葉がありました。
存在感が薄く、悪いイメージを持っている人もいる。
これは、つらい結果です。
バイセクシュアルの方々に話を聞くと、「セクシュアルマイノリティの中でも肩身の狭い思いをしている」と話していました。
非当事者の回答は、個人名がたくさん挙がりました。
中でも、はるな愛さん(タレント)が最多。
テレビドラマでトランスジェンダーの役を演じた上戸彩さん(俳優)の名前を挙げる人も複数いました。
ピーターさん(タレント)ら、「ん?トランスジェンダーかな?」という方の名前もありましたが、これは、そもそもトランスジェンダーがどういう人たちなのか、正確に知られていないということでしょう。
トランスジェンダーとは、生まれた時の性別とは違う性別で生きる人たちのことです。
性同一性障害が有名ですが、それだけではありません。
「アンケート回答を見ると、イメージで具体名が挙がるのは、男性から女性になったパターンが多いですね。一方で、現実に性同一性障害と診断された人の数を見ると、女性から男性になったパターンの方が圧倒的に多い。最近では割合として1:4くらい。『女性から男性』の人たちは、実際にはたくさん存在しているのに、社会的に認知が低い状態です」(三橋さん)
もちろん、イメージを持たれていればよいというわけではありませんが、この差は気になります。
「テレビタレントが圧倒的に『男性から女性』の人たちだからでしょう。『イロモノ』としても『驚くほどキレイな人』としても、出るのは『男性から女性』。『女性から男性』はあまりテレビに出ませんよね」(三橋さん)
たしかに、「女性から男性」で知名度が高い芸能人は、すぐには思いつきません。
アンケート回答には「友だちに、なぜテレビには『男性から女性』のトランスジェンダーばかり出るのだろうと言ったら、『その方が面白いからでしょ』と言われて絶句した」というものがありました。
「当事者を知らない人ほど『テレビ=現実』だと思ってしまいますから、テレビに『女性から男性』がいないと、現実にもあまりいないと勘違いされてしまう。社会的に存在が認知されないと、『女性から男性』のトランスジェンダーたちは、行き場がなくなってしまいます」(三橋さん)
今回は簡単なネットアンケートでしたが、イメージから、それぞれの現実が垣間見えました。
回答には、「当事者を知っているから、典型的なイメージはない」「当事者の友人の顔が浮かぶ」というものも、ちらほらありました。
なにより大事なのは、「実際の当事者を知ること」なのでしょう。
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