連載
#12 ここは京大吉田寮
ひとりになれないし、ならない アオダイショウもいる京大吉田寮
吉田寮生インタビュー2人目です

連載
#12 ここは京大吉田寮
吉田寮生インタビュー2人目です
築112年の京都大学吉田寮。100人以上が今も暮らすこの寮はいま、退去をめぐって大学側との訴訟の渦中にあります。寮生たちが守りたい寮、そして寮での暮らしはどんなものなのか。社会人生活や休職を経て、寮へたどり着く人もいます。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
<吉田寮 寮生インタビュー>築112年の京都大学「吉田寮」に住む学生たちの暮らしはどんなものなのでしょうか。3人の寮生にインタビューしました。今回は2人目。取材は5月に行いました
この春から京大の農学研究科で学んでいる、茨城県出身の「んゃぴ」さん。
「大学受験に失敗して、渋々専門学校に行ってベトナム語を学びました。ハノイ大学に留学して学位を取って、さらに上に行きたくて東京外国語大学に編入しました」
2021年9月に大学を卒業、飼料メーカーの営業職として働いていましたが、仕事に疲れて休職しました。
「去年の4月から今年の3月末まで丸1年ニートでした。ずっと引きこもって外に出ていませんでした。京都に住んでいる友達が『楽しいからおいでよ』って声をかけてくれて、そこから毎月1週間から10日間くらい京都で過ごす生活が始まりました」
そのうち友人から「もう、こっちに住んだら」と誘われ、関東から京都に移住。「それが大みそかです。車1台で京都のシェアハウスに引っ越しました」
そのシェアハウスがなくなることになって、移る先を探していたところ、友人のひとりが吉田寮に住んでいて、京大で学ぶことに興味を持ちました。
飼料メーカーで働いていたときに酪農や畜産に関わっていたことから、自然や昆虫が好きだといいます。
「京都に移ってきてから市内の廃材置き場みたいな場所を公園化するプロジェクトに参加していて、森を再生したり、子どもたちが制限なく遊べる場所をつくったりする活動をしていました。遊びながら関わっているうちに、その分野をもっとちゃんと学びたいと思ったのが一つです」
値上がりしている大豆やトウモロコシの代わりに、昆虫を飼料にできるかどうかにも興味があったといいます。
「京大にシロアリの研究に特化した先生がいて、メール送って会いに行ったら、昆虫がすでに鳥の飼料として使われ始めていることを聞いて、今後牛の飼料にもできるのかどうか学びたいなって思いました」
吉田寮での生活にはスリリングな一面もあるようです。
「ある日、『チュヂッ!』って声が聞こえて、ネズミ捕りシートにネズミがひっかかってて。それをアオダイショウが食ってて。『うわ、食物連鎖だ』って思いました」とんゃぴさん。
他の寮生からアオダイショウを生け捕りするよう指令が出て、奮闘しました。
「アオダイショウの口からシートを離そうとがんばって引っ張ったんですけど、アオダイショウはめちゃくちゃ力が強くてネズミをとって消えていきました」
大勢の寮生たちと暮らす吉田寮での生活。「ひとりになるのは難しいけど、それが魅力でもある」と語ります。
「歩いてると絶対誰かとしゃべるんですよね。洗濯機回してその間に『あれとあれやろう』って思っても、洗濯機から部屋に戻るまでに誰かとしゃべってそのうち洗濯が終わる、みたいな」
よく寮の前でたばこを吸っているんゃぴさん。すると寮の外から来た人に「(寮の)中見ていいですか」「(寮内の)ツアーガイドしてもらえませんか」と頻繁に話しかけられるそうです。
吉田寮には1913年にできた現棟と2015年に増設された新棟があります。 さらに両棟の間には1889年に建てられ、2015年に補修された食堂があります。
現在、大学側が現棟と食堂の明け渡しを求めて寮生を提訴した裁判の渦中にあります。
2024年2月に京都地裁は、大学が退去要求をする前に入寮した14人は明け渡す必要がないとの判決を出し、寮生側が一部勝訴となりました。その後、明け渡す必要があると判断された学生3人と大学側との双方が大阪高裁に控訴しています。
んゃぴさんは吉田寮を「集う場所、表現する場所、大事な場所」と表現します。
「食堂ではいろんなイベントがあるし、ひとつの大きなコミュニティとして吉田寮がある。ただ住むための寮じゃないってことは伝えたいです。ここがなくなったら、みんなが集まる場所ってもうなかなか作れないと思う」
1/8枚