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連載

#11 ここは京大吉田寮

寮費月2500円の京大吉田寮 だから仕送り減っても暮らしていける

京大・吉田寮生インタビュー1人目です

吉田寮現棟の前で奥山さん
吉田寮現棟の前で奥山さん

目次

築112年の京都大学吉田寮。100人以上が今も暮らすこの寮はいま、退去をめぐって大学側との訴訟の渦中にあります。寮生たちが守りたい寮、そして寮での暮らしはどんなものなのか。寮祭の実行委員長を務めた学生は「寮に入ってから社交的になった」と自分の変化を口にします。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)

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「家賃3万7千円」→「寮費2500円」

<吉田寮 寮生インタビュー〉築112年の京都大学「吉田寮」に住む学生たちの暮らしはどんなものなのでしょうか。3人の寮生にインタビューしました。今回は1人目です。取材は5月に行いました。

5月下旬の寮祭で実行委員長を務めた奥山朱凜(しゅり)さんは、総合人間学部3回生です。

札幌出身で、高校1年生のころ、文理融合の総合人間学部に興味を持って京大を志望しました。

寮祭のオープニングであいさつする奥山さん(左)
寮祭のオープニングであいさつする奥山さん(左)

入学後の2年間は一人暮らし。3回生になった今春、吉田寮に入りました。一人暮らしのときは家賃3万7千円で、寮に入った今は光熱水費も合わせて一カ月あたり寮費2500円で暮らしています。

一度あきらめた

「本当は入学と同時に寮に入ろうと思っていました」と奥山さん。けれど、大学から配布される書類に「吉田寮は入寮募集停止しています」と記載があるのを見て、一度はあきらめました。

吉田寮には1913年にできた現棟と2015年に増設された新棟があります。 さらに両棟の間には1889年に建てられ、2015年に補修された食堂があります。

吉田寮現棟の中寮から北寮を見る
吉田寮現棟の中寮から北寮を見る

新しく寮で暮らす人を募集する「入寮募集」については、大学側が2018年1月以降「新棟、現棟ともに新規入寮を認めない」と声明を出しています。

対して吉田寮側は、「入退寮選考権(人を入寮させたり退寮させたりすることを決める権利)は過去の大学との確約によって寮自治会が持っている」「入寮募集は訴訟と関係のない新棟に限って行っている」と反論。

毎年変わらず新入寮生を募集しています。

「吉田寮ハ君ヲ待ツ」と新入寮生の募集を知らせる立て看
「吉田寮ハ君ヲ待ツ」と新入寮生の募集を知らせる立て看

奥山さんは「最初は、大学という権威性のある組織に訴えられているっていうことは、悪い人たちなのかなってイメージを持ってしまっていました。でも友人から吉田寮の様子や今からでも住めることを聞いて、応募しました」

「家賃払えなかった」

寮生活を目指した理由は何だったのでしょうか。

「実家が全然裕福じゃないんです。おじいちゃんおばあちゃんの病気とか、弟の浪人、進学とかいろいろあって」と話す奥山さん。

毎月の仕送りが減り、経済的に苦しくなったのが寮に入った理由の一つ。

寮祭企画の一つで全国からヒッチハイクで帰還する「ヒッチレース」の報告会で話をする奥山さん
寮祭企画の一つで全国からヒッチハイクで帰還する「ヒッチレース」の報告会で話をする奥山さん

寿司屋、スペインバル、洋食屋とバイトを3つ掛け持ちして生活費にあてています。

「3月は暇だったからめっちゃ働いて10万円くらいになりました。4月は寮祭で忙しくて3、4万円くらいで、引っ越してなかったらとしたら家賃は払えなかったと思います」

多様性にあこがれ

けれど、寮に住んだ理由は他にもあります。

「高校の同級生が熊野寮(京大の別の自治寮)に住んでいて、話を聞いたり遊びに行ったりしていて寮の文化っておもしろいなって思ったんです。彼が熊野なら僕は吉田かなって」

吉田寮に今からでも住めることを教えてくれたのもその友達だったそうです。

うかんむりと「R」では「寮」の略字。「寮祭忘れてるようじゃ無理か」と書かれた立て看
うかんむりと「R」では「寮」の略字。「寮祭忘れてるようじゃ無理か」と書かれた立て看

「僕はあんまり社交的な人間じゃないんで、大学構内でおもろそうな人見つけても話しかけるきっかけがつかめないんですよ。でも寮で一緒に生活していたら、当然共通の話題があるし、ふらっと話せる。寮に入ってから僕かなり社交的になった気がしています」

入学時に新歓にまったく行かず、サークルや部活にも入らないで友達がほぼいない状況で過ごしてきたという2年間。

寮に入ってからは時間を共有する相手が爆発的に増えました。

実行委員長

寮祭の実行委員長は「ノリで希望した」そうです。

「寮祭の会議に全員来るわけではないし、正直腹が立つこともありました。でも寮生みんなが部局のどれかに所属して、それぞれの仕事はがんばっているんだよなって最近分かりました」

経済効率性におかされない

吉田寮は現在、大学側が現棟と食堂の明け渡しを求めて寮生を提訴した裁判の渦中にあります。

2024年2月に京都地裁は、大学が退去要求をする前に入寮した14人は明け渡す必要がないとの判決を出し、寮生側が一部勝訴となりました。

その後、明け渡す必要があると判断された学生3人と大学側との双方が大阪高裁に控訴しています。

寮祭ライブで実行委員長として締めのあいさつ
寮祭ライブで実行委員長として締めのあいさつ

大学との訴訟をどう思うか奥山さんに尋ねると、「大学側は『耐震性』を理由にしているけど、僕は『経済性』と『政治性』が理由だと思っています」と言います。

「めんどくさいから自治をつぶしたいんだろうなと。経済性の面では、無駄なスペースが多い吉田寮をなくして、もっと高い建物を建てて土地を有効活用したいんだと思います」

「僕個人は、吉田寮は経済効率性におかされない象徴的な空間だと思っています。土地の有効活用を理由に、住んでいる人を追い出そうとしているのはおかしいなって。そういう流れにつぶされない空間であるための抵抗だと思っています」

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