連載
#8 特派員フォトリレー
【世界の乗り物】ロープウェーも市民の足 各地で日本の旧型車両活躍
ところ変われば品変わる。世界のあちこちに住む朝⽇新聞の特派員が、「街の乗り物」をテーマに撮った写真を集めました。今回は鉄道、索道。索道とは耳慣れない言葉かもしれませんが、ロープウェーのことです。日本では登山用のイメージがありますが、海外では都市部でも使われています。起伏のある街ではケーブルカーも便利。そして、古い日本の車両が各地で活躍しているのも確認できました。(朝⽇新聞国際報道部)
案内役は東京・国際報道部の元テヘラン支局長、神田大介です。まずは南米のボリビアから田村剛記者。
2014年に最初の路線が開業したばかりですが、あっという間に拡大し、現在は6路線が運行中。総延長は20キロ超に及び、近くさらに延伸されるそうです。
この山高帽と民族衣装姿の女性たちは「チョリータ」と呼ばれ、先住民にルーツを持つとされています。
坂道を車で行くのは疲れますが、空中を滑るように進むロープウエーは乗り心地も上々で、とても好評だということです。
田村記者は、ブラジルの写真も送ってくれました。こちらはまた別の事情があったようです。
中国、ロシア、インド、南アフリカと並んで「BRICS」、主要新興5カ国の一つと称されるブラジルですが、格差の是正はなかなか進まないようです。
1代前の大統領(ルセフ氏)はクビになり、2代前の大統領(ルラ氏)は収賄などで有罪判決を受けるなど、政治も混乱が続いています。
さて、街中のロープウェーは何も中南米の専売特許ではありません。
カスピ海と黒海に挟まれた旧ソ連の国、大相撲の栃ノ心の出身地としても知られるジョージア(グルジア)の首都トビリシにもありました。神田が2015年に訪れました。
トビリシは周囲を山に囲まれていて、中心部と周辺部の間はかなりの高低差があります。もっとも、こちらは市民の足というよりは観光用という意味合いの方が強い印象を受けました。
そして中東にもロープウェーはあります。
イランの首都テヘランはアルボルズ山脈のふもとにあり、南部は標高1100メートルくらい。北部の最も高いところは標高2000メートルほどもあります。人口約850万人と世界でも指折りの大都市ですが、斜面に貼り付いたような形をしています。
ただし、市街地を結んでいるのは地下鉄やバス、タクシー。ロープウェーがあるのは市北部からさらに山の上へと登っていく路線で、夏はトレッキング、冬はスキーを楽しむ人たちでいつもにぎわっていました。
このロープウェー、イラン・イスラム革命(1979年)よりも前にフランスとオーストリアの企業がつくったものだそうです。革命後に外国企業は撤退し、その後はイランの企業が運営しているそうですが、老朽化は否めません。動きが悪いと係員のお兄さんが手でゴンドラを押していたのが印象に残っています。
もっとも、事故は1回も起きていないそうです……。
岡田玄記者から送られてきたのは、南米チリにある風変わりな乗り物の写真です。
バルパライソは丘陵地に住宅が広がっているそうで、このアセンソールは街のいたるところにあるそうです。驚いたことに、ほとんどが100年以上前からあるんだとか。それにしても車両の塗色がド派手!
続いてはロシア極東ウラジオストクから、中川仁樹記者です。
率直に言って、サンフランシスコのケーブルカーとは似ても似つきませんが、丸っこい車両にはまた違った魅力がありますね。
旧ソ連時代にできた車両には、どこか共通した親しみやすさがあるような気がします。
引き続き中川記者から、こんどはサハリンを走る鉄道。
日本の鉄道を活用しているのは、ロシアだけではありません。再び岡田玄記者、今度は南米アルゼンチンから。
ええ、ええ、知ってますとも。わたくし神田は名古屋の出身です。これは市営地下鉄東山線の旧型車両ですね。「きいでん(黄電)」と呼ばれていました。名古屋弁では「黄色い」を「きいない」、タマゴの黄身を「きいみ」とのばして発音するんです。
朝日新聞の過去記事によると、この車両は2000年4月に引退。アルゼンチンに積み出されたのは翌2001年で、計24両が譲渡されたそうです。1957年に開業した東山線でも古参の車両で、クーラーがついておらず、黄電が来ると内心舌打ちをしたことを覚えています。いま日本には冷房装置のない電車ってなくなりましたねえ。
ブエノスアイレスには東京メトロ丸ノ内線の車両も使われています。元ワシントン特派員の五十嵐大介記者が撮影した写真を見ると、「乗務員室」という表示はそのまま残っていますね。
そして、元ヤンゴン支局長の五十嵐誠記者からは、ミャンマーを走る環状鉄道の写真。
実はこのヤンゴン環状線にも、日本の車両が使われています。今はローマ支局長を務める河原田慎一記者が、2013年にミャンマー出張をした際に取材していました。
えー、お察しの通り、河原田記者は社内でも指折りの「鉄ちゃん」です。ローマ赴任に際し、自宅に置いてある鉄道模型のセットが大きすぎて運び出せなかったという逸話の持ち主。セットは泣く泣く半分に切断し、今も実家で保管しているそうです。
話がそれましたが、日本で現役を退いた車両が、今も世界各地で活躍しているのは喜ばしい限りです。こういうのも国際貢献ですね。
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