連載
#33 小さく生まれた赤ちゃんたち
31週900gで誕生「助けられて今がある」20歳に感じる「誇り」
発達に凸凹があってもネガティブに捉えませんでした
日本では約10人に1人が2500g未満で生まれています。「低出生体重児(ていしゅっせいたいじゅうじ)」と呼ばれ、背景の一つには早産(妊娠22~36週)があります。
予定日よりも2カ月ほど早く900gで生まれた女性は、今年度20歳を迎えます。
発達障害があり、幼い頃は友人関係で悩んだという女性。それでも、サポートを受けたり、環境を変えたりすることで充実した生活を送れるようになりました。「いろんな人に助けられて今がある」と振り返ります。
「あなたはティッシュボックスと同じくらいの大きさで生まれたんだよ。でも大きくなったよ。あなたは宝物だよ」
都内の大学に通う2年生の幕田いまりさん(19)は、幼い頃から母・千絵子さん(45)にそう伝えられていました。
千絵子さんの持病の影響で、いまりさんは2005年に予定日よりも2カ月ほど早い31週0日、身長35cm、体重900gで誕生しました。同じ週数の赤ちゃんよりも小さな体だったといいます。
多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)で生まれ、平均体重は約3000g、平均身長は49cmほどです。より早く小さく生まれるほど、命の危険や障害、病気のリスクが高く、発達に凸凹が出たり、医療的ケアが必要になったりすることもあります。
いまりさんは、NICU(新生児集中治療室)に3カ月ほど入院しました。免疫力が弱く入院中に感染症にかかりましたが、2400gほどに成長して退院しました。
発育はゆっくりでしたが、寝返りができたとき、つかまり立ちをしたときなど、ひとつひとつの成長を家族みんなで大喜びしていたといいます。千絵子さんは「『すごいね、すごいね』とほめていました」と振り返ります。
すくすく成長していたものの、千絵子さんは2歳ごろからいまりさんの発達に違和感を持つようになりました。
好きなことに熱中して周りの声が届かなくなったり、ご飯も食べずに集中したり。
幼稚園に入園後は、友だちに呼ばれても気づかずトラブルになったり、周りの子が座って話を聞いているときに落ち着きがなかったりしていたそうです。5歳で発達障害の診断を受けたといいます。
千絵子さんは、生まれた病院でのフォローアップをはじめ、発達支援センター、ソーシャルスキルトレーニングなどに通って専門家に相談していました。
小中学校のころは、通常学級に在籍しながら情緒障害の通級指導教室にも通っていました。情緒障害のクラスはいまりさんにとって居心地がよく、教師との信頼関係もできていたといいます。
「ここがあるから私は学校に通える」と笑顔で千絵子さんに話していたそうです。
「同じく発達障害のある子との関わりができたり、下級生から相談事があったらアドバイスをしたり、勉強になりました」といまりさんは振り返ります。
学校での出来事や困りごとは千絵子さんに相談し、成長とともに自身の性格や特性を理解していきました。中学に進学する頃には「私変わってるんだ」と自ら友だちに話していたそうです。
ただ、「変わっている」にネガティブな意味はなく、親子ともに「変わっていることはいいこと。自分の感性、個性」と捉えていたといいます。
勉強面では計算問題などつまずくこともありましたが、家族や教師、友人らに助けられ、自分なりに乗り越えていったそうです。
当時茨城県で暮らしていたいまりさんと千絵子さんでしたが、中学卒業と同時に2人で上京し、都内の高校に通いました。父親とはいまりさんが小学5年生のときに離婚していました。
「もともと、高校は『いまりは変わった子』というカテゴライズがない、私のことを知らない人ばかりのところに行きたいと思っていました」
幼い頃は友だち関係でトラブルもありましたが、中学時代は特に困ったことはなかったといういまりさん。しかしそれは、「変わっているいまりちゃん」だからこそ許されていた部分もあると感じていました。
「『いまり』のイメージがなくなったときに人からどう見られるのか、高校はフラットな感じでいきたかったんです」
絵を描くことが好きだったため、高校は美術系に進学しました。同級生も絵が好きな生徒が多く、同じ方向を向いて学校生活を送っている実感がありました。
「中学校の頃は『面倒見てもらっている』という感覚が強かったのですが、高校では対等な信頼関係を築けたと思います。友だちを誘って何かをすることが苦手だったけど、それもできるようになりました」
大学生になったいまりさんは、デザインを学び充実した学生生活を送っています。ゆくゆくはデザイン関係の仕事に就きたいと考えているそうです。
幼い頃は発育がゆっくりだったり、病気で入院したりすることもありましたが、今では小さく生まれたこと自体にハンディキャップを感じることはありません。
高校・大学で出会った友だちに小さく生まれたことを話すと「がんばって生まれてきたね」「大きくなったね」と言葉をかけられるそうです。
「小さく生まれてもここまで成長できたことは誇りに思います。家族にも『すごいんだよ』と言われてきたので、マイナスな部分があっても気にしません」
この夏、成人式の前撮りのため母・千絵子さんの振袖を着て写真を撮りました。
千絵子さんは、「小さく産んでしまった後悔と申し訳なさがありましたが、『ママのせいじゃないよ』という娘の言葉に救われました」と話します。
「あんなに小さかった子がここまで大きくなってくれた。笑顔で元気に過ごしてくれることが何よりで、関わってくださったすべての方々に感謝を伝えたいです」
小さく生まれた赤ちゃんの家族へ「どんな子育てもそれぞれに苦悩と苦難があると思います。その時に信頼できる人が近くにいて、あなたがほっとできる時間を過ごせることを願っています」と話しています。
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